第16話 合格発表と衝動の夜

二月が終わり、弥生三月。冷たい風の中にも、春の兆しが感じられるようになった頃、佐倉葵は高校の卒業式を迎えた。

悠人(ゆうと)もまた、健一(けんいち)と朋子(ともこ)と共に、葵の晴れ舞台を見守った。真新しい制服に身を包んだ葵は、三年間の高校生活を終える喜びと、これから始まる新生活への期待に満ちた表情をしていた。友人たちと笑い合い、別れを惜しむ葵の姿を見て、悠人の胸には温かいものが込み上げてきた。彼女が大人への階段を一歩ずつ上がっていく姿は、悠人にとって眩しく、そして同時に、自分たちの秘密がその輝きを曇らせてはならないという、新たな責任感を抱かせた。


卒業式を終え、受験シーズンは終幕を迎えた。残すは、合否の発表だけ。葵は、悠人が家庭教師として支えてくれたことに深く感謝し、合格への期待と不安を彼と分かち合った。夜の家庭教師の時間中も、互いの手が触れ合うたびに、心臓が跳ね上がる。悠人は、葵の将来がかかっているのだと、何度も自分に言い聞かせた。


そして、三月下旬。桜の蕾が膨らみ始めた頃、運命の大学合格発表の日が訪れた。二人は、緊張しながらパソコンの画面を食い入るように見つめた。悠人が葵の受験番号を入力し、エンターキーを押す。


「あった……っ!」


葵の声が震えた。画面に表示された「合格」の二文字。悠人の視線もそこに釘付けになる。志望大学の教育学部、見事合格だ。悠人の努力も報われ、安堵と、何よりも葵が夢への一歩を踏み出したことへの喜びが、全身を駆け巡った。

「悠人さん、合格したよ、私! 合格した!」

葵は、喜びのあまり悠人に飛びつき、がっしりとした彼の体にしがみついた。悠人もまた、感極まって葵を強く抱きしめる。その温もりは、これまでのどんな接触よりも、深く、そして純粋な喜びで満たされていた。


合格の興奮冷めやらぬまま、葵は悠人の手を引き、そのまま彼の部屋へと駆け込んだ。部屋に入ると、葵は悠人をベッドに押し倒し、彼の上に跨った。息が詰まるほどの近い距離で、葵の瞳は潤み、熱を帯びていた。


「悠人さん……っ」


彼女の唇が、迷うことなく悠人のそれを塞ぐ。それは、これまでのどんなキスよりも、情熱的で、感情的な勢いに満ちていた。悠人は、一瞬、避妊具の存在を頭の片隅で思い出す。しかし、葵のあまりの興奮と、彼女が上にいる体位では、彼が主導権を握り、避妊具を取りに行くことは困難だった。


葵は悠人の腰に自らを擦り付け、その喜びと、合格という大きな目標を達成した高揚感を、すべて肉体的な行為にぶつけるかのように「ハッスル」した。悠人は、避妊できなかったことに内心で強い焦燥と後悔を覚えるが、葵の感情的な勢いに押し流され、この瞬間だけは、ただ彼女の衝動を受け止めるしかなかった。


夜の静寂の中、二人の熱い吐息と、かすかな喘ぎだけが響き渡った。悠人は葵に、すべてを絞りつくして自分のものにしようとする強い意志を感じていた。この夜、悠人の意志とは裏腹に、二人の運命は決定的な分岐点を迎えたのだった。


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