第6話 夏祭りの熱気と高まる鼓動
七月下旬の週末、夕暮れ迫る空はまだ夏の残照を湛えていた。悠人と葵は、連れ立って地元の夏祭りへと向かっていた。最寄り駅から会場までの道は、浴衣姿の人々でごった返している。悠人にとって、慣れない人混みは少々億劫だったが、隣を歩く葵の姿を見れば、そんな不満もどこかへ吹き飛んだ。
「悠人さん、見て見て! この浴衣、どうかな?」
葵は、クリーム色の地に涼しげな撫子の花が描かれた浴衣をまとっていた。普段の活動的なショートヘアによく似合っている。いつもはラフな服装か、部活のジャージ姿しか見ていなかった悠人にとって、その姿は新鮮で、どこか艶めかしく映った。帯は控えめに締められているが、その下、わずかに膨らむCカップの胸元が、歩くたびに柔らかく揺れるのが見て取れた。浴衣の襟元から覗く白いうなじが、彼の視線を惹きつける。
「似合ってる、すごく綺麗だ」
悠人が素直に感想を述べると、葵は嬉しそうに微笑んだ。
会場に着くと、熱気はさらに増した。屋台から漂う香ばしい匂い、威勢の良い掛け声、そして人々のざわめき。悠人は、はぐれないようにと葵の手を握った。触れた手から伝わる、かすかな汗と体温。繋いだ指先が、じんわりと熱を帯びていく。人混みに押され、二人の体は否応なしに密着する。背中に当たる葵の柔らかな感触に、悠人の心臓は警鐘を鳴らすように激しく脈打った。
「悠人さん、金魚すくいやろうよ! 私、金魚すくい得意なんだから!」
葵は元気いっぱいに悠人の腕を引っ張った。金魚すくいの屋台で、葵は真剣な表情でポイを構える。集中した彼女の横顔を、悠人はぼんやりと見つめていた。その時、葵が突然悠人の口元に、たこ焼きを差し出した。
「ほら、悠人さんも食べる?」
悠人は困惑しながらも口を開け、たこ焼きを受け取る。葵は、まるで恋人のように振る舞うことに一切の抵抗がない。悠人は、周囲の視線を感じて冷や汗をかくが、祭りの賑わいがそれをかき消してくれることに安堵した。
やがて、夜空に花火が打ち上げられる時間になった。会場は一層の盛り上がりを見せる。二人は、打ち上げ場所に近い広場へ移動した。
ドォン!
空気が震えるような轟音と共に、夜空に大輪の花が咲き乱れる。人々の歓声と、花火が弾ける音が重なり、悠人の高鳴る鼓動を隠してくれた。
「わぁ……綺麗だね、悠人さん!」
葵は悠人の腕にぎゅっとしがみつき、彼の耳元で囁いた。その吐息が首筋にかかり、悠人の全身に甘い震えが走る。密着した身体から伝わる葵の体温が、彼の理性を溶かしていくようだった。浴衣越しに、彼女のすらりとした体格と、柔らかな胸元が押しつけられる感触に、悠人の頭は真っ白になる。
(触れたい……)
抗いがたい衝動が、心の奥底から湧き上がってきた。このまま抱きしめたい。その欲求は、親からの「責任」の警告や、葵の「悠人さんからはダメ」というルールを乗り越えようとする。しかし、悠人は必死で自分を抑え込んだ。これは、従妹だ。家族だ。
花火の光が、彼の葛藤する表情を照らしていた。祭りの熱気が、二人の心と体を、禁断の領域へと誘っているようだった。
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