第20話 薬師の箱庭、愛と癒やしの物語
王室薬師となったリリアの毎日は、充実したものだった。
王室薬草園は、彼女の手によって見違えるほど豊かになり、森で培った知識を活かし、様々な薬草が育つ「薬師の箱庭」へと生まれ変わった。
彼女は、王宮内の庭師たちと協力し、これまで見向きもされなかった片隅の土地にも、新たな薬草を植え、その生命力を引き出した。
植物たちは、リリアの優しい「声」に導かれるように、生き生きと成長していった。
リリアの能力は、まだ完全に回復したわけではなかったが、日を追うごとにその精度を増していった。
以前のように全ての植物の「声」を一度に聞き取ることはできなくても、特定の植物に集中すれば、その詳細な状態や、秘められた薬効を読み取ることができた。
彼女は、この力を駆使して、これまで治療が難しかった病に苦しむ人々を救い、王国の医療水準を飛躍的に向上させた。
「リリア様のおかげで、この村の病も治りました。本当にありがとうございます!」
そんな感謝の言葉が、王都だけでなく、遠方の村々からも寄せられるようになった。
リリアは、王室薬師として、自らも各地を巡り、人々の声に耳を傾け、植物の力を通して癒やしをもたらした。
彼女は、もはや「森の娘」として恐れられる存在ではなく、「聖女」として慕われる存在となっていた。
アレクサンダー国王の統治もまた、順調に進んでいた。
彼の病は完全に回復し、体中に漲る生命力は、そのまま王国の活気に繋がっていた。
彼は、国民一人ひとりの声に耳を傾け、リリアと共に、より良い国を築くために尽力した。
エレノア公爵夫人とリチャードが起こした事件は、人々に王家の重みと、真の王の姿を再認識させた。
そして、リリアとアレクサンダーの関係も、日ごとに深まっていった。
執務に追われるアレクサンダーの元へ、リリアが淹れた温かいハーブティーを届けに行くのは、日課となっていた。疲れた顔を見せるアレクサンダーに、リリアは植物の声から得た、癒やしの言葉をかける。
ある日の夕暮れ。リリアが王室薬草園で、夕日に照らされる花々を眺めていると、アレクサンダーが静かに隣に立った。
「リリア。君のおかげで、私の人生は、そしてこの王国は、光を取り戻した」
彼の声は、夕焼け空のように、温かく穏やかだった。
「陛下……」
「君に出会うまで、私はずっと孤独だった。王という重責、そして、病。誰にも心を許すことができなかった」
アレクサンダーは、リリアの手をそっと取り、その指先に口づけた。
「だが、君は、私を癒やし、私の心を解き放ってくれた。君の純粋な心と、その力が、私にとっての希望だった」
リリアの頬が、夕焼け色に染まる。
「私も、陛下がいなければ、この力で幸せを掴むことはできなかったでしょう。孤独な森の娘が、陛下と出会い、そして、多くの人々と繋がることができました」
彼女の目に、温かい涙がにじんだ。
「リリア。君は、この国の聖女だ。そして、私の……」
アレクサンダーは、リリアを優しく抱き寄せた。
彼の腕の中で、リリアは全ての不安が消え去るのを感じた。
「私にとって、君はかけがえのない存在だ。この先も、ずっと私の傍らにいてほしい。そして、共にこの国を、そして私たちの未来を築いてほしい」
彼の言葉は、求婚の言葉だった。
リリアは、彼の温かい腕の中で、喜びと安堵に震えた。
「はい……陛下。喜んで……」
彼女は、彼の胸に顔を埋めた。
彼女の耳には、二人の心臓が、まるで一つの植物のように、穏やかに、そして力強く脈打つ「声」が聞こえていた。
月日が流れ、王城には、薬草の優しい香りが満ちるようになった。
リリアは、アレクサンダーと共に、王国の民の幸せのために尽力し続けた。
彼女の持つ「植物の声を聞く」という特別な能力は、病を癒やすだけでなく、人々の心をも癒やし、王国全体を温かい光で包み込んだ。
森で生まれ育ち、その力ゆえに孤独だった娘は、培ってきた薬師のスキルと、生まれ持った能力を駆使し、愛する人と、そして王国の幸せを掴んだ。
彼女の「薬師の箱庭」は、永遠に、愛と癒やしの香りを放ち続けるだろう。
END
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