第30話 ペン帝国の影


「今日は魔獣もいないね」ペン汰達は、順調に見回りを終えようとしていた。

「じゃあ最後に森の入り口を確認したら屯所に戻ろう」辺りは日も落ち始めていた。


「特に異常は無いみたいだな」隊員がペン汰に話しかける。

「そうだね。毎日こうだと良いんだけどね」ペン汰は、ニコニコして答える。

「ペン汰、何も無いからって気を緩めちゃダメだよ。特に貴方の場合はね」レインは緊張感を緩めず辺りを警戒している。


「心配性だなぁレインは」とペン汰がレインを見た瞬間。

「全員身を屈めろ!」とレインが叫ぶ。


ヒュンヒュン。弓矢が無数に降りかかる。

一つの矢がペン汰に向かって飛んでいる。

「うそっ」ペン汰は、ギリギリかわす。


 ペン汰達は5人のうち2人が怪我をしてしまった。

「囲まれた!」レインが叫ぶ。

 10人程の黒装束に身を包んだペンギン属に囲まれている。

「おい!お前達は何者だ。こちらが第一隊所属と知っての攻撃か」レインが叫ぶ。

黒装束の者たちは、何も言わない。


「お前…相変わらず、うるさいな」と後ろから首元まで隠れる黒いコートを来たペンギン属が3人歩いてくる。


「この声って」ペン汰が振り向く。


黒コートの1人がコートを脱いでペン汰に近づく。

「やっぱり!クロウさん」ペン汰は驚く。


「お前も相変わらず能天気な奴だな。今から消される事も知らずに…」クロウは冷たい目をしている。


「おい、クロウ。極力正体を明かすなと言っているだろう。誰が見ているかわからんぞ」とコートの男。

「父上。ここに誰もいないからこそ行動を起こしたのでしょう…それに…こいつらは全員消すのだから関係ないでしょう」とクロウ。


「まぁ、それもそうだな」と2人の男もコートを脱ぐ。

「ゼノ様にセツ様!何故このような所に…」第一隊隊員が慌てている。


「任務ご苦労だな、お前達は関係ないが…我々の目的のために散ってくれ。その中隊長様と任務が同じだった事を恨めよ」とセツ。


「セツ様もゼノ様も将軍階級の方々…このような…正気ですか!」隊員は、慌てながら訴える。


「はぁ…」とセツがため息をつく。


「この国の連中は…おめでたい奴らばかりだな。森羅の奴らは、我々に気付いている者も居るというのに」

 ゼノが話すと、3人から黒い戦気があふれ出す。


「うっ…」ペン汰が苦しみ出す。

「ペン汰!どうしたの?」レインがペン汰の心配をしている。


「頭の中に流れてくる…怒り…苦しみ」ペン汰が苦しみながらレインに話す。


「お前は、不完全なんだよペン汰。白カラスは俺達の戦気に苦しむ事はなかったぞ…まぁいい。消えろ」クロウはペン汰に斬りかかる。


 ガキン。

 レインが薙刀で受ける。

「ペン汰は、私が守る」レインがクロウの剣を払いペン汰の前に立つ。

 ペン汰は、苦しみ頭を抱えている。

「俺達もいるぜ」隊員達もペン汰を囲む。


「邪魔な奴らだな。おい!何人か移れ」ゼノが黒装束の男達に命令すると、黒装束の男達はバタバタっと倒れる。

 倒れたその体から黒い戦気があふれ出す。

 黒い戦気がレインや隊員達の体を包む。


「何これ、体が動かない」レインが声を上げる。

「俺達もだ。どういう事だ」と隊員達も身動きが取れない様子。


「心までは支配出来ないか…ふん…お前達は優秀だな。こいつらと違って。」ゼノが不敵な笑みを浮かべる。


「まぁいい、クロウ!ペン汰をやれ!」ゼノがクロウに命令する。


「あぁ、わかってる…」クロウがペン汰に剣を振り下ろす。


「やめて!」レインが叫んだ瞬間。

ペン汰のペンダントが光だす。

 と同時にペン汰の体から白い戦気があふれ、一帯を包み込む。


「ぐっ、これ…は…」クロウの剣が止まる。

「これは、あの時の感覚…」レイン達の体から黒い戦気が消える。


「動ける!」レインが体の自由を自覚した瞬間、白い戦気が薄れ消えていく。


 バタッ。ペン汰がたおれる。

レインは、すぐさま薙刀でクロウの剣を払う。


「くそっ」クロウは後退る。


「おいゼノォ!とうとう動きやがったなぁ!」

 辺りに怒号が響き渡る。


「この声は!」レインが声の方向を見る。

 2メートルはあろうかというほどの薙刀を持ち、山のような戦気を放つマユキが仁王立ちしていた。


 両隣にライルとソータがちょこんと立っている。


「マユキさん!助かった!」レインが泣きそうな顔で喜んでいる。


「マユキ?まさか…」ゼノとセツが固まっている。


「おい!引くぞ」とゼノが言う間もなく。


ビュン!ドカッ。

 マユキが瞬間移動の様な速さで黒装束の男達を薙ぎ倒す。


 その勢いのまま、ゼノに斬りかかる。

 ガキン。ゼノも受け止める。


「マユキ、何故ここがわかった」ゼノが押し返す。

「そもそもお前は引退しているだろう」ゼノの体から黒い戦気が溢れ出しマユキを包む。


「まぁいい、影気の影縫いを受けたんだ。動けないだろう」とゼノが笑みを浮かべる。


「はぁぁ!」マユキの体から蒼気が溢れ出し体に纏わりつく影気を霧散させる。

「なっ…ばかな」ゼノの顔が歪む。


「私は、腐っても元蒼将!帝国の象徴だぞ。甘く見るな」ゼノの剣を薙ぎ払い、ゼノが後退る。


 ゼノの影気が薄くなる。


 その時。


 ペン汰から白い戦気が再びあふれ出す。

 水の様な空間と白い霧がペン汰とクロウを包もうとしている。


「おい!クロウ!白親気だ!今までのものとは違うぞ」ゼノが叫ぶ。


「わかってるが…何故だ。コイツの意識か」クロウは動けない


ペン汰とクロウが完全に空間に包まれた。


「ねぇ…クロウ。返事をして…そこにいるんでしょ」

 ペン汰は、クロウの意識に語りかける。

「くっ。うるさい!」クロウの影気が少しずつ抜けている。

「ねぇ…僕知ってるんだよ。前に…君の意識の中に悲しみを垣間見た。君は悲しんでるんだよね」ペン汰は話続ける。


「クソッ…影気が抜ける。これ以上は…」クロウの体から影気が抜け続けている。


「……父上…父上…どうして」クロウの意識から幼い声が聞こえ始める。

「クロウ…やっと返事してくれたね…こっちにおいで…君は自由になったよ」とペン汰

「父上を助けたい…助けて…」クロウの声がハッキリ聞こえる。


「うん、一緒にゼノさんを救おう。僕と…一緒に」ペン汰が、クロウに手を差し伸ばす。

「あり…がとう」クロウは、ペン汰の手をとる。

 クロウから、完全に影気が消える。


白い霧と空間がはれていく。


 

 



 




 

 

 

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