第5話 幼馴染

 電車を乗り継ぐこと1時間半。勇人達は新居に到着した。


 借家だが一軒家。子供の成長を考えて勇人と真央、それぞれの部屋も確保されている物件だった。


 勇人たちは先に到着していた父・大河と共に家財の整理を行っていた。真由美は買い物に行っていたのだが、


「え~、そうなんですか~?」

「そうなんですよ~、実は私たちもそうで。1週間前に引っ越してきたんです」

「ええ~、偶然~!! そちらのお子さん、もしかして今年から小学校ですか?」


 帰って来た。それも同年代の女性と楽しそうに話しながら。


 玄関の前で話し込んでいる声を聴いた大河が扉を開けて様子をうかがう。


「ママ? そちらの方は……?」

「お隣に住んでる天音さん。天音さんも1週間前に隣に引っ越して来たらしくて~」

「どうも、はじめまして~、天音 遙香」

「ああ! こちらこそ初めまして。ほら、勇人と真央も!!」

「こんにちは。千ヶ崎 勇人です」

「同じく真央じゃ! よろしゅうな!」


 大河に引っ張られ、勇人達も挨拶する。


「あら~、こんにちは。ハキハキしてるわね~、おいくつになるんですか?」

「来月から小学生じゃな!」

「〇〇小学校です」


 と真央と勇人の言葉に、


「え~!? ホントぉ!? ホントに凄い偶然!!」


 ちょっと待っててと言って、家に戻る遥香。玄関を開けて声を張り上げた。


「結花~! ちょっと降りてきて~!」


 返事はなく、とたとたと小さな足が床を踏む音が聞こえ、ドンドン近づいてくる。現れたのはお絵描き帳と色鉛筆を持った女の子だった。


「どうしたの、ママ?」

「お隣さんが引っ越してきたって! 同い年の子もいるし、ご挨拶しましょ!」

「え……」


 母親の言葉に一気に顔が暗くなる結花。人見知りの結花は、知らない人と会うことが不安なのだ。たとえ母親が隣にいるとしても。


「だいじょーぶ! どっちもとってもいい子だから! 一回会ってみよ? ね?」


 それを理解している母親の遥香は、今年から始まる小学生生活を不安に思っていた。


 遠方から引っ越ししてきて、誰も知り合いがいない小学校である。孤立してしまわないか、楽しく勉強できるのか。


 それが、都合よく同年代の子供が隣に引っ越してきてくれるとは。


 これこそまさに渡りに船だった。


 結花の手を引っ張って隣の家に向かう。


「お待たせしました~」


 玄関で待っていた千ヶ崎家。知らない人が4人もいて、結花は扉から顔を覗かせることしか出来ない。


「この娘恥ずかしがり屋で。ほら、結花。同い年のお友達よ。小学校も同じだって」

「……っ」


 母親に促されるが、扉から離れることが出来ない結花。ソレを見た真央は事情を察して扉の裏側に進んだ。真央の行動を見た勇人も後に続く。


 腰に手を当てた真央が母親の後ろに隠れる結花をまっすぐ見て言った。


「おんし、名前は?」

「ぁ、そ、の……わ、たし……」

「ん?」

「結花、です。天音 結花……」

「結花か! ワシは千ヶ崎真央! こっちは兄の勇人じゃ!」

「よろしく、天音さん」


 真央と勇人が挨拶するが、


「はい~? どうしたのかな、勇人君?」

「は? いえ、俺は」

「この場には『天音さん』は2人いるからのぅ? 天音さんだと区別できんのぅ?」


 勇人だけ母親に反応されてしまい、真央にはにやにやと笑われてしまう。


 2人がどうしろと言っているのかすぐに理解し、特に抵抗が無かったためそれを実行する。


「よろしく、結花さん」

「は、はい、よろしく、お願いします……」


 おずおずとだが、結花は頭を上げることが出来た。それを見て、母親の遥香は満足そうに微笑み、頷いた。


「よし、結花! お主、1週間前にここに引っ越してきたらしいな! ならば、この町を案内しろ!」

「え、え、え? で、でも私、あんまり外に出てないから分からないよ……?」

「わはは! では探検か! ゆくぞ!」

「わ、わわっ!!」


 真央が結花を引っ張って行ってしまった。


「アイツ……母さん、父さん、俺も行ってくる。ごはんまでには戻るから」

「2人のことよろしくね。車には気を付けて、知らない人にはついていかない、あ、後あんまり遠くまで行かないこと」

「わかった」


 真由美の小言に手を上げて答えながら2人を追いかけ始める勇人。


 子供たちの背中を見送った親たちは、


「よし、俺達だけで段ボール開けちゃうか!」


 家の整理よりも子供の友達を優先して作業を始めた。


「すみません、結花の事」

「いいんですよ! 勇人と真央にもさっそくお友達が出来たみたいで」


 母親同士がニコニコと立ち話を始める。


「こういうのって、『幼馴染』って言うんですよね! あれ? 小学生からだと違うのかな?」

「そんな細かいこといいじゃないですか~? 私実は、幼馴染とか憧れてたんですよね~」

「私もですよ! その内ウチの勇人と結花ちゃんが~……ふふふ」

「可能性は全然ありますよねぇ~?」

「「きゃー!」」


 盛り上がる母親達に、


「おーい! そろそろ手伝ってくれー!」


 大河の叫び声が、家に響き渡るのだった。

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勇者と魔王の双子転生 ~転生先の日本、元居た世界と繋がったし魔法も普及し始めてる!?~ @watakomax

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