第21話 制御できない進化
新しい土地にも、前の大陸と同じように生態系を構築していった。
繁殖する草花を生やし、木々を植え、生命の循環を保つためにスライムを放つ。念の為、川には魚も泳がせておいた。
(海はどこまでも繋がっている。だったら、虫の原型だって、いつかはここにもたどり着くだろう)
あえて、自分の手で虫を創ることはしなかった。
この場所にどんな生命が“たどり着く”のか——その偶然こそが、この世界の多様性を支える要になると考えたからだ。
そんな旅を繰り返し、世界中を巡っていた。
時に山のように大きなカニに出会し、時に鮮やかな体色の巨大ウミウシに出会して。
——もしこいつらが、うっかり出会ってしまったら。その時一体、何が起きるのか……。
それだけが、少しだけ気掛かりだった。
***
(ハジメ、まだかなー?)
一面に咲き誇る花畑の中。
頭に多肉植物を生やしたセカンドが、ぽつんと空を見上げていた。
もう既に、ハジメがここを旅立ってから、幾度もの季節が巡り過ぎ去っていた。
(このはなも、まえはもっと、ちいさかったのに……)
セカンドは、花の間に身を沈めながら、ふとそんなことを思い出す。
ハジメと一緒に、みんなで土を耕して、種を選んで、花を咲かせて。
あの頃は、ただハジメがする事が物珍しくて、花畑も川を泳ぐ魚も、見るたびにワクワクしていた。
(ハジメ、またすごいもの、つくってるのかなぁ)
ふわり。花々の香りを乗せた風が吹き抜けて。
セカンドの背で育つ多肉植物が、小さく揺れる。
(ハジメがいってた“ダンゴムシ”も、“魚”も、ぜんぜんちがうものになったんだよ)
虫たちは、花の蜜だけでなく、植物自体を食べ始めた。
陸に出てきた魚は四つヒレで、素早く花や虫を狙う。
スライムたちはそれを花畑から追い払って。
虫も魚もスライムも、少しずつ変化していった。
攻撃手段を持って、防御機能を取得して。
スライムたちは、花畑を守る守護者のように。
虫や元魚たちはそれを狙う、狡猾な“花泥棒”だ。
ひっそりと忍び寄り、柔らかな芽をかじる。
飛んで、美しい翅で視線をそらし、あるいは素早く走って蜜を奪う。
(どうすれば、むしもさかなも、ちかづけない? どうすれば、かんたんに、おいはらえるの?)
スライムたちは考える。
柵を、罠を、武器を——。
それが“知性”であり、彼ら自身が築きつつある“文明”の始まりとは知らぬまま。
ハジメが求める“進化”は、彼が避け続けた争いの中でこそ育まれる。
優しさだけで生き延びられるのは、全ての敵を凌駕し、発達しきった文明の先——食物連鎖の、その頂点に君臨した時だけなのだ。
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