第13話 春の芽吹き

 凍てつく冬を乗り越え、春になった。

 海の中ではあまり季節の変化は感じられなかったのだけれど、陸に居たスライムたちが感覚共有で教えてくれたのだ。


(おお…生えてた草は、ほとんど全滅か)


 地上に出ていた葉の部分は、冬の寒さで凍りつき、冬を越す事はできなかったみたいだ。


(でも、タネは土の中にある。……それに、)


 土を少し掘り返してみると、根っこが残っている。

 温かい土の中で生き残ったこの部位で、もしかしたら生命も繋げられるのかも知れない。


(球根という程ではないし、地下茎みたいなものなのかな?)


 そうじゃなくても、今は黒いばかりの地面だが、しばらくすればまた緑が覆うようになるだろう。


(久し振りに、楽しみな“進化”だな)


 夏からずっと、生存を賭けた“進化”ばかりと向き合ってきた。

 この春はきっと、嬉しい事が待っているはずだ。


(お、お?おおお……なんだコレ?!)


 生き残ったスライムたちを確認する為、生存者に集合を掛けていたのだが、ここでまさかのモノが視界に飛び込んできた。


(でっ、でっか……!!)


 それは、スライム十匹以上が寄り集まって出来た、ビッグスライムとも言うべき生き物だった。


「えっ、どうしたんだよお前ら…!」


 思わず通じもしないはずの思念を飛ばし、聞いてしまう俺。

 しかし、返ってこないと思っていた返答が、まさかの返ってきたのである。


(からだ、あたためる、まりょくいる……。でも、まりょく、たりない……。みんなであつまる、あたたかい……)


「!そうか、外側のスライムが保温していれば、内側のスライムは魔力を温存できたのか!表面さえ温かいままなら凍る心配もない……。よく考えたな……!」


 危機に陥って知性が芽生えた事もそうだが、なにより生き残ってくれた事が嬉しい。

 俺が喜んでいると、周囲に集まってきた冬眠スライムや不凍液スライムたちも、ぴょんぴょん飛び跳ねて感動に彩りを添えてくれる。


(なかま、いっぱい、きえた……。でも、ハジメ、ありがとう。いきるためのこと、ハジメ、みんなに、おしえた)


「そ、そうか……。俺がした事、無駄じゃなかったんだな……」


 仲間に感謝を告げられて、泣きそうになる。

 俺は“死”をもたらした訳じゃない。

 “生き残るすべ”を教えたんだって。

 相手から肯定される事が、苦しいほどに嬉しかった。

 ——ようやく、死なせてしまった命に、顔向けできるような気がした。


(……お前たちの死は、無駄じゃなかったよ。全ての犠牲の上で、今、みんなが生きている)


 吹き抜ける風が、暖かさを運んできたような気がした。




***




『知性の芽生えかぁ…』


 ノムスはぽつり、呟く。


『思ったより早かったな…。スライムはハジメくんと関わる事が多かったから、かな?』


 ハジメの事を見守っていたノムスは、神としても想定できなかった“それ”を、それでも喜ばしく思った。


『……これで、ハジメくんも独りじゃなくなった。それならもうそろそろ、私もお役御免なんだろうか……』


 話し相手が居なくなるのは、神だとしても寂しい。

 自分の事を忘れないでいて欲しいと、誰にともなく神ノムスは願った。

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