第14話 春の風

 ビッグスライムには、“核”と呼べる拳大の球体があった。本スライム曰く、そこが思考を司っている、人間でいう脳の働きをする部位であるそうだ。

 文字通り“弱点”の誕生に、俺の身体は震え上がる。


「え、そこ傷付いたらどうなるんだ…?」

(あるていどは、なおる。なおらないなら、みんなおなじ、ただのスライム)

「そうか……。せっかく喋れる仲間ができたんだから、おまえには長生きしてもらわないとな」


 ぷるぷると震え、喜んでいるような感情が伝わってくる。

 ただ命令通りに動くのではなく、自分の意思を表現してくれる事が、なんとなく嬉しい。


「そうだ!おまえをノムスに紹介しよう!

 おーい、ノムス〜」


 ……返事がない。まだ、力が戻っていないのだろうか。


(ノムスって、だれ?)

「ああそっか…。スライムたちもノムスの事を知らないのか。えーと、ノムスはこの世界を作った創造神で、俺をこの世界に呼んだ、神様だよ」

(かみ……。わからない……)

「そ、そっか……。まあ、俺がここに居るのは、そのノムスってやつのおかげって事」


 創造神ノムスがこの世界に何をなしたのか、スライムたちに語る——事実に基づく創世神話。

 惑星を作り、大地と海を分け、植物を生やし。地球から連れてきた俺と共に、山や川、季節を作る。

 ——俺にはできない、神だからこその力。


 地球で聞いた話には、神の力は信仰の力というものがあった。それなら知性ある生き物が生まれた今、創造神ノムスを知っている者が増えれば、ノムスの力が戻るのも早まるかも知れない。

 そして、この世界を共に作っている相棒として、忘れないように。

 いつかまた、ノムスと話せる日を夢見て。





 ビッグスライムと呼び続けるのは味気なくて、名前を付けることにした。

 彼の名前はセカンド。俺ハジメの次に知性ある生き物だからだ。——まあ、安直である事は認めよう。


「セカンド、花は集まったか?」

(ん、あつまった。あとは、おそなえ?するだけ)


 川から程よく離れた場所に、山に向かって祈れる簡易的な台座を作った。

 神殿代わりというには質素だが、これが今の俺たちの精一杯だ。


 パンパン


「ノムスが早く復活しますように」


 セカンドが集めてくれた花を飾って、ノムスの作った山に祈る。地球にいた時の習慣のせいで、神に祈るとなると拍手二回で祈ってしまった。

 隣で見よう見まねのセカンドが、同じように拍手を二回打つ。


(ノムス、げんきになって)


 純粋な願いと感謝は、彼に届いただろうか。

 ——届けば良い。

 あなたのおかげで、俺たちはここに居るんだ、と。



 一陣の、風が吹いた。

 暖かなそれは、力強いのに柔らかく。

 俺のセカンドの間を通って撫でていったかと思うと、台座の上の花々を吹き飛ばし、山の方の上空へと飛んでいったのだった。

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