第11話 冬の準備

 『冬がやってくる』


 ——そう言われても、何をすれば良いのか分からない。

 夏の厳しさは、想像以上に生命の危険を伴う物だった。

 草は枯れ、海面でクラゲは茹だり、仲間のスライムは干上がった。

 それぞれにその場その場で対処するしか無くて、ようやく俺は自分の“無力さ”を思い知った。


 ——では冬はどうなるんだろう。


(雪が降ったり、地面や川が凍ったり。それが俺たちにどれだけの影響を与えるのか、さっぱり分からない)


 寒さで地面は凍るかも知れないけれど、草はタネを残しているから、土の中でタネは冬を越せるかも知れない。

 冬であって氷河期では無いのだから、海は完全に凍るまでは行かないはず。


 ——なら、問題は俺たちスライムだ。


 夏の一件からして、スライムの身体の大部分を構成する水分は、思いのほか外部の影響を受ける事が分かっている。


(それなら、スライムは身体自体が凍ってしまうのか?)


 凍り付いて、それでも“生きて”いられるのだろうか。

 あるいは、春が来る前に全てが“終わって”しまうのか。


(取れる手段を増やさないと)


 俺は自らの手を離れて進化した、クラゲたちの研究をする事にした。

 そこに、寒さを越えるための“答え”があるかも知れない。

 ——そう、僅かながらの期待を宿して。




 手始めに、まだ意思が僅かでも伝わる友好的なクラゲの身体を取り込む事にする。

 ……命までは奪わない。

 それは俺の本意では無いからだ。


 ——かつて、一緒に浮かんでいた仲間たち。

 彼らは俺から離れていったけれど、それでもどこか、懐かしい。


 彼らには、俺の知らない遺伝子情報がたくさんあった。

 自分で同じ遺伝子になるように操作すれば、その機能が模倣できる。

 毒の作り方、針への変化、目の原型。


 ——そして、魔法の使い方。


 まだクラゲは自分の身体を発光させるのに魔法を使っているだけだけれど、その内体外に影響を及ぼす魔法も使えるようになるかも知れない。

 ……まあ、まずは越冬に向けた生き残るための準備から、だな。


「協力してくれて、ありがとな。お前たちも、頑張って冬を越せよ?」


 別れを告げたクラゲたちの触手が、俺の体を撫でる。まるで、気遣った事に礼を言うように。


 浮上する前に、陸に居た間に種類の増えた海藻もそれぞれ取り込んでいく。

 浅瀬と深海での違いの他に、クラゲに捕食されるようになった事で行われた進化もあったらしい。

 緑の葉を持つ海藻、赤い葉を持つ海藻。

 そして、食べられる数が減る様に硬質化を選んだ海藻と、共存を選んで魔力を花の蜜の様に受け渡す海藻。


(陸よりも先に、海に花が咲くとはな……)


 花なんて、陸上の植物のものだと思っていたけど、ここでは違うらしい。

 思っていた進化と異なるものでも、こういう進化なら悪くない。



(……さて、集められるデータは収集した。あとは冬を越すための“進化”をするだけだ)


 体温を持つ事で、凍らなくするのか。

 体内の水分を、凍らないような物に変えるのか。

 固い外膜で身体を覆って、地中深くで春になるのを待つのか。


 様々な進化をスライムたちに促して、冬に備える。

 ——どのスライムが生き残れるのかは分からない。

 仲間で実験する様で心苦しいけれど、スライムたちは同時にいくつも命令を聞くことができない以上、仕方がない。


 種の存続を賭けて、俺たちは来たる冬に備えたのだった。

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