第10話 秋の捕食
花が咲き、タネが実り——
植物たちが次の世代へと繋ごうとする秋。
——恐ろしい事に、共食いが始まった。
始めたのは、一体のクラゲだった。
とある個体が海面で“死んだ仲間”の死体を取り込んで、海藻よりも栄養効率が良い事に気が付いた。そして、そいつは次第に“生きている仲間”にもその触手を伸ばし始めたのだ。
水中にふわりと漂う同族の身体を絡め取り、その柔らかな肉体を身の内に引きずり込む。
何が起きたのか分からぬまま、同族の身体の中で静かに、しかし確実に溶かされていくクラゲ。
(これも、ひとつの進化なのか…?)
優しい世界を作るつもりだった。
争いの無い、穏やかな世界を。
それなのに——
(夏の暑さで生き物は死に、死体だけ食べれば良いはずなのに仲間を襲うクラゲが出てきている…)
自分が引き起こした事だ。
季節の変化も。
それによってもたらされた“死”も。
「ノムス——」
俺は分からなくなって、ただ一人、助けを求められる者の名前を呼んだ。
『どうしたのハジメくん——って、ああ、捕食が始まったんだね』
淡々と告げられる事実に、動揺する。
ノムスが作ったのは生殖機能すら持たない植物たちの、“死の無い世界”だ。
それなのに、こんなにあっさりと受け入れるなんて——
『……ああ、ハジメくん。そんなに気にしちゃダメだよ。何も起こらない、何も変わらない世界は停滞——つまり、“死んでるのと変わらない”んだから』
「っじゃあ、仲間を傷付けて良いって言うのかよ…!」
『——……おキレイな理想論だけじゃ、神様なんてやっていられないんだ。ほら、ご覧よ』
ノムスの言葉と共に、脳内…というか、俺の思考に直接映像が流れ込んでくる。
『襲われる側のクラゲも、防御機能を持ったり、反撃できる個体が現れ始めている……これが“進化”って言う事だよ』
毒持ちだったり、針を持ったり。強く発光してその間に逃げたりする個体も出てきているようだ。
——そうか、これが“進化”なのか…。
『きみは何も悪い事をしちゃいない。私の願い通り、“新しい種を作った”それだけだよ』
俺の手を離れて進化し始めた個体は、スライムである俺から離れれば離れるほど、俺の命令が届かなくなっていく。
……その内、俺の“意思”すら届かなくなっていくのだろう。
『——さて、きみに映像まで届けてしまったから、私には力があまり残っていない。生物が繁栄していく——“創造”されていけば私の力も戻るだろうけど、それまでしばらくきみともお別れだ』
「えっ、そんな…!待ってくれよ!まだまだたくさん、ノムスに聞きたい事が…!」
ノムスの気配が遠ざかっていく。
その間に呟かれた言葉が、ヤケに耳に残る。
『——ハジメくん、次は冬だ。冬がやってくるよ——』
取り残された俺の心は寒々しくて。
ひっそりと忍び寄る冬の気配に、取るべき対策も、どれだけ厳しい世界が待ち受けるのかも、まだ何も気付かず立ち尽くしていた。
——冬がやってくる。
今までの“死”すら生温い、そんな事さえ思うほどに、凍える季節が。
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