第8話 惑星
「そういやさ、昼はどこも同じくらい明るいし、夜は真っ暗なんだけど、太陽とか無いの?」
ここに来てから、青空は見ても、そこに浮かぶ太陽は見ていない。
北極や南極のように陽が当たる時間が短い所と、赤道のように陽が当たる時間が長い所という差も無かったのだ。
『太陽か〜。植物が育つには光が必要だろう?だから全体に光が当たるようにしてたんだ。夜は光を吸収して暗くしてたし…』
「地軸と太陽の関係で気候の差も、天候も海流も変わるんだ。多様性を求めるなら、必要かも知れないぞ」
『そっか、そういう考え方もあるんだねぇ…。じゃあ、空からの光の均等拡散の魔法を解いてみるよ?』
ノムスのその言葉で、明るかった青空に突然眩い球体が輝き出す。
——太陽だ。
今まで見えてなかっただけで、そこにあったらしい、“恒星”。
昼と夜を作り、地軸が傾いていれば季節を作り出す、環境装置。
太陽が昇った瞬間、空気の温度が変わり、影の伸び方が変わる。
今まで、昼はいつでも真下にしか影が出来なかった。それが光の角度ができる。
(すごいな…太陽って)
草は太陽に向かって伸び、クラゲは温められた海水でできた海流に乗る。
「ノムス、これ隠してたのか」
『隠してたっていうか、見えなくなってたんだよ。全部に同じだけ光が届くようにしたから』
神様の“魔法”らしい。
“魔法”は、魔力を使って事象を引き起こす、空気中から体内から、全てに宿るエネルギーの事。——ここまで規模の大きな事は、神の御技でしかないけれど。
「いつか俺も魔法使えるようになるのか?」
『うーん、頑張れば、いつかはね』
「そっか。じゃあその“いつか”を楽しみにしておくよ」
それから季節の変化には地軸の傾きが必要だって話をすれば、ゆっくりと太陽の角度が変わり、ノムスがこの惑星を傾けたんだと分かった。
夕暮れに太陽が沈んでいく。
満天の星と、太陽の代わりに昇ってきた月は、異世界らしく大小二つ存在していた。
(ああ、異世界だなぁ…)
この時、日本に生まれ育った俺はまだ、夏と冬の厳しさなんて知らなくて。
否応なしに変化を求められる生き物たちが、次々とその姿形を変えないと生き残れない事に、愚かにも気付いていなかったんだ。
***
『さてと、ハジメくんは分かってるかな…?』
ハジメとの交信を終えたノムスは、ぽつり呟いた。
『生命の変化には時に厳しさが必要だ。つまりそれは、“死”が身近に迫るという事に他ならない』
我慢できる程度なら、生き物はさほど変化しない。
多種多様に進化するという事は、それだけ生命の危機と隣り合わせになり、差し迫った生存戦略が必要になるという事だ。
『きみ自身にも、命の危機は訪れる。それを耐えて、耐え切って。次の“未来”に繋げてくれよ——』
まだ、進化の全てを楽しんでいるハジメ。
これから彼に訪れる危機は、自らの手で引き寄せたものだった——。
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