第78話 小さな余韻



 ダンジョンゲート用フロア内に置いてあった大量のドロ箱と魔石は仕分けがされ、魔石は管理局へと売却された。

 これだけでも相当な収入だ。

 元々は均等割りだったが、アカネとレイカからの申し出で、ヒサメの取り分を増やしての分配となった。


 アカネとレイカは通常ではありえないほどの魔物を倒させてもらった。

 その上でこれもヒサメと同じだけもらうのは、気が引けるなんてレベルではないのだろう。


 とはいえ、ヒサメも最低ラインは譲らなかったが。

 確かにヒサメのおかげでレベリングのようなことができたのは確かだが、組んでダンジョンを潜ったチームなのだから。


 割合とか関係なしに、相当な収入にはなっているが。


 そしてそれは、デモンズ化したモンスターのドロ箱にも言える。

 そもそも大量に入手出来てしまったので、アカネもレイカもそこそこの数のイレギュラーモンスターのドロ箱を分配されたが、ここもヒサメが多くもらう形となった。


 ちなみに、当然この異常な数のイレギュラーモンスターについては報告済みだ。

 映像があればよかったのだが、残念ながら配信機材は色々な要因から不調となっていたので、そういうものはない。

 口頭での説明と、ドロ箱の提示と、ヒサメがちょこちょこスマホで撮影していた写真の提出という形での報告だ。


 仕分けを手伝ってくれたアークフォースの者たちにはドロ箱か魔石でのちょっとした報酬が支払われ、大量のドロ箱を会議室へと入れたヒサメたちの姿は管理局のフードコートにあった。


「さすがに疲れたわねぇ。肉体的にってよりは、精神的に」

「そうねぇ。私も今回はさすがに疲れちゃったわぁ」


 アカネとレイカとヒサメで適当なテーブル席に着き、3人とも気が抜けたのかちょっとぐでっとしている。


 実力的には何でもなかったが、色々考えることも多い面倒な事態だったこともあり、ヒサメにも少し疲れが見えた。

 流されるままに進むのはいつか取り返しのつかないことになりそうなのでしないが、だとしても面倒なことはご免こうむりたいのが本音だろう。

 その面倒なことも、降りかかった膨大な量の火の粉を払っただけで、その火の粉をまき散らした誰かを突き止めるような解決には至っていない。


 現状ヒサメが握っているのは、大量の「かもしれない」だ。

 さすがにそれでは、まだ何かをするには至らない。


 ダンジョンの異変に黒曜会が関わっていたのかもしれない。

 暗殺者にも黒曜会が関わっていたのかもしれない。

 スタンピード発生にも黒曜会が関わっていたのかもしれない。


 アークフォースの鈴木タイチがやってそうなことは、ヒサメ視点ではただの越権行為。


 馬鹿な奴では悪巧みなどまともにできないように、大規模にやれるようなやつらは、やっぱりうまくやっているのである。

 とはいえ、タイチの件は「裁かれるべき悪事」というよりは、完全にただの暴走だが。この件はリンカとサクマにちょっとした考えがあると言っていた。


 だから、誰かが用意したシナリオに迷い込んだものとして、ヒサメはひとまずはそこを抜けたと考えて良しとした。


 今はこれでいい。


 今は。


 ヒサメはメニュー表を握り、ぽけーっと見本の写真を眺めている。

 完全に気が抜けている様子だ。取り繕うような様子も減って、見た目そのままのあどけなさがいつもより表れている。


「約束通り奢るから、ヒサメちゃん好きなの注文しちゃっていいわよ」

「お言葉に甘えさせてもらいます」

「レイカさんも奢るから適当に頼んじゃって」

「あら、いいの?」

「うん。リンカさんが何度か投げつけてきた満額の投げ銭だから、実質私含めてあの人の奢りよ」


 パンチラやパンモロでハッスルしていたあいつだ。

 ハッスルしまくってヒサメに投げ銭しようとしたが、ヒサメのところは投げ銭を解放してなかったので、アカネに投げつけたあのお金だ。

 手数料として少し引かれていてもそこそこの金額になっているので、こういう場所でちょっと飲み食いする程度は余裕である。


 エロ魔女局長の奢りのようなもの。


「じゃあ、私もお言葉に甘えさせてもらうわね」

「うんうん。そうしちゃってー。……ところで、ヒサメちゃんはずいぶんと真剣な表情でメニューを見てるのね」


 ヒサメは広げているメニュー表をジーっと眺めている。

 視線もあっちに行ったりこっちに行ったり。1つのページをひたすら眺めていた。


「……レアチーズケーキにするか、焼いた奴にするか、色々トッピングがあるのもいいなあと」


 真剣な表情というか、ただ気が抜けて取り繕うこともせず、目の前に並ぶ美味しそうなのを眺めて迷っていただけのようだ。

 全部頼んでも良いわよ、とアカネが言うが、ヒサメはそんなにいっぱいは食べられないのでと首を振る。


 テーブルに備え付けられている端末を操作し、注文を済ませる。

 少しすれば、にこやかな笑みを浮かべた店員が注文の品を手にやってきた。


 そんな店員と入れ替わる様に、ハッスルして投げ銭をやっていたあいつがスマホを手にやってきた。


「アカネちゃんたち、一発なんか良い感じの写真撮っていい?」


 なんてことを急に言い出した。

 別にダメではないが、なんぞ? とアカネたちは首を傾げる。

 ヒサメもシパシパと目を瞬かせて、レアチーズケーキを口に運びながら首を傾げていた。


「あなたたちの生存報告ね。中々凄いことになってるわよ? アカネちゃんはもとより、レイカさんも人気があるし、ヒサメちゃんも最近かなり知られ出して人気が出てる。なのに、あれだものね」


 3人共が配信が途切れ、その途切れる時に凄まじい爆発音や、ダンジョン自体が揺れているのではないかというほどの何かがあった。

 アカネの機材は結構耐えていたようで、その凄まじい爆発音の連続と、揺らめく赤風のドームが映っていた。


 そしてそのままアカネの配信も途切れ、3人の配信が完全に停止し、そこから連絡も途切れ、配信の復活もなかった。


 ネット上の無数の知識は侮れない。

 色々な思惑を持って彼らは動いた。


 赤風のドームに包まれる前にヒサメが顔色を変えて蒼雷で焼き払った物が、叫念爆石なのではないか? と言い出した人さえもいた。


 さらに、彼女たちが探索に入っていたダンジョンでのスタンピードだ。

 経過報告を見る限りでは魔物の数が少ない。

 勢いが弱いスタンピードだったのだろうと思われるが、そのスタンピードの報告が上がっている中でも、ヒサメたちの反応はない。


 スタンピードの中に取り残された人がどうなるのかは、子供でも分かる。

 だから、現在のSNSでは、アカネたちに関する本当に色々な憶測が飛び交い、さらに様々な感情が飛び交っている。


 最有力は、行方不明という形での死亡扱い。

 なんせ、勇者がダンジョンに踏み込んだのに、帰りの人員が増えていなかったという情報さえ出てしまった。


 そして現在は、この管理局に居た人から新しい情報がちらほら出ているというところだった。


「だから、私が写真付きで生存報告上げちゃおうと思ってね。あなたたちのチャンネルにもペタって張ってこようと思うわ」


 リンカは、あなた達は休んでていいわよ、と言う。

 3人共が本調子ではないのは見ればわかる。

 スタンピードを逆流してボスを倒して戻ってくるなど異常事態だが、それで疲れないわけがない。 

 ここからさらにSNS上で大量の誰かの相手をしろというのは、さすがに酷だ。


 だから、ここはアークフォースの広報関係の局長で、無駄に顔も広い自分が色々やっておくと言っている。


 そんなわけで、1枚いい? とリンカがスマホを見せつつ言った。


 それならばと3人は頷いた。お願いします、と。



 エロ魔女局長ことリンカのSNSアカウントでこんな投稿があった。


 どこかの喫茶店のような場所で、3人で仲良くお菓子を囲んでいる少女と女性たちの姿。

 少し疲れが見えるし、着ている衣装にも色々と綻びがあるが、穏やかな様子でお菓子を食べている。


 笑顔でカメラに向かい小さく手を振っているアカネ。

 穏やかに微笑んでコーヒーカップを傾けているレイカ。

 メロンソーダと共に置いてあるレアチーズケーキを食べて頬を緩めているヒサメ。


 なぜかヒサメのセーラー服がかなりボロボロだが、「3人共全員元気よ。ヒサメちゃんも装備が壊れてるだけで外傷は全然ないわ」というコメントも付いていた。


 今は3人共疲れているだろうから、本人からの連絡を期待するのはまた今度ね。というリンカのコメントには、相当な数の反応が付いていた。


 様々な人たちにとっても、ここで一件落着となったのだろう。

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