第79話 嫌な予感と気持ち悪い剣



 少しの休憩をとったヒサメたちは管理局のロビーへと戻ってきた。

 色々あったということで、ロビーは少しざわついている。

 ダンジョンゲートが休眠状態になったことで、探索申請のための端末や窓口には「現在利用不可」の立札が置かれていた。


「では、空いているところで適当に開封しちゃいましょう」

「そうね。あの辺とかよさそうね。隅っこのあたりなら、少し集まってても邪魔にならないでしょうし」


 ヒサメたちが何をしに来たのかと言えば、イレギュラーモンスターのドロ箱の開封だ。

 通常のドロ箱の開封は睡眠を取って最適化後に回す予定だが、正直イレギュラーモンスターのドロ箱は保管して日をまたぎたくはないので開けてしまうことにした。


 アカネが見繕ったのはロビーの隅っこのあたりにあったテーブル席。

 アークフォースの者たちもぞろぞろと引き連れて、ヒサメたちは席へと座った。


 ヒサメたち3人がポーチからどんどん禍々しい様相のドロ箱を出していく。

 10を超え、20も超えて、驚きはただのざわつきに変わっていた。


 それらを見て、見物に来ているアークフォースの者たちがお話をしている。


「1個でも入手できると凄いものが、本当にこれだけあるとなんか圧倒されるね」

「冗談だけど、ちょっと色塗ってあったりしないか調べたくなっちゃいそうな数だね」

「俺はこの数のイレギュラーモンスター倒してピンピンしてるところに戦慄してる」

「それはもう気にしないことにした。たぶん、あの子めちゃくちゃな強さしてるんだろうし」


 話し合いの通りに分配がされて、ヒサメのところに多めのドロ箱が積み上げられている。


 そこそこの数があるが、イレギュラーモンスターのドロ箱としては多すぎるだけで、開封するドロ箱の数としてはそう多くはない。

 というわけで、1人ずつ開封を進めて行こうという形で、リンカが配信機材を浮かせてテーブルの上の様子を録画している。


 録画映像は対応する部分を切り分けた上で、後日ヒサメたちに送られることになっている。

 開封動画は需要がある。この映像はそのうち彼女たちが自分たちで適当に使うだろう。


 まずは誰から始めようか? とヒサメたちが視線を合わせたところでアカネが手を挙げた。

 どうやら彼女から行くらしい。


「私、レイカさん、ヒサメちゃんでいいかしら? ヒサメちゃんはいっぱいあるしね」

「私はいつでも。全部適当にドカっと開けちゃってもいいですし」


 やっぱりこういうことにはあまり頓着しないヒサメだった。

 ヒサメは開封自体は好きだが、それを開封動画にすることにはあまり興味がない。

 実際、ヒサメは毎回結構多くのドロ箱を持ち帰ってくる探索者だが、ヒサメの配信には開封部分は全然ない。


 とはいえ、それにはサクマが待ったをかけた。


「芦川さん。デモンズ系のドロ箱をいっぺんに開けるのはなるべくやめたほうが良いと思うよ」

「そうなんですか? なにか困る事でもあるんでしょうか」

「実は、デモンズロッドとちょっと大きなものがいっぺんに出て、そのちょっと大きなものに弾かれる形になったデモンズロッドを、反射的に握ってしまって装備してしまった事例があるんだ」


 サクマが言っているデモンズロッドとは、呪いの装備として有名なデモンズシリーズの装備品だ。

 レイカが使っているデーモンパンツのようなデーモン系は名前が似ているだけでただの強い装備であるが、デモンズシリーズは国と探索者協会が共に禁止指定をしている危険物。


 装備品とは、有効化する場合は基本的に「装備」する必要がある。

 特殊な道具はちゃんと「使う」必要があるということだ。

 ポーションを飲まずに効果を得られたりしないように、指輪を握っているだけでその恩恵を得られたりしないように。


 サクマが言っているのは、ドロ箱から出現したデモンズロッドが、その後にわずかな差で出現したちょっと大きなものにより弾かれて、落下しそうになったデモンズロッドを探索者が掴んでしまったという実例だ。


 相当に運が悪いと言える。

 杖は大体どこを握っても、あとは魔力を流してしまえばそれで装備したことになってしまう。

 デモンズロッドを装備し、呪いを受けて、精神を汚染されて暴走してしまった探索者のお話だった。


「だから、よっぽどじゃないと起こらないけど、なるべく1つずつ開封するべきだと思う」

「確かにそういう危険性もあるんですね。ご忠告ありがとうございます。全部1つずつ開けようと思います」


 そういうことなら、とヒサメも頷いた。

 確かにそれはよっぽどではないと起こらないことだが、起こる可能性が普通にあるなら避けるべきことだろう。

 ドロ箱から出てくる物はそれほど大きなものではない場合が多いが、確かに中には結構大きなものも出現する。

 お互いになるべく干渉しないように中身が出現してくれる不思議な箱なのだが、杖に対して隣の物からデカいボールとかが出てしまえば、干渉しないように軸を回してずらすも何もない。


 しかし、さらにサクマは言う。


「特に、芦川さんが持ってる……これ、これは、物凄ーく嫌な予感するから、これは絶対に個別で開けて欲しいかな」


 なんともいえない苦い表情で、サクマはヒサメの前に置かれているドロ箱の1つを指さした。

 サクマは、「覚えがある嫌な予感なんだよね」と言っていた。


 ヒサメはシパシパと目を瞬かせる。

 ドロ箱の中身がわかるなんてありえるのだろうか? と首を傾げ、不思議そうにしているレイカと視線が合う。

 さらに周りを見てみれば、アークフォースの者たちが何とも言えない表情でサクマが指さしたドロ箱を見ていた。


 なんとも、妙な反応だ。


 不思議そうに首を傾げてそのドロ箱を見ているヒサメとレイカにアカネが言う。


「えっと、まずはそれから開けるってことでも良い?」

「よくわかりませんが、構いませんよ」

「サクマさんは、なんというか、ちょっと異常なくらいに勘が働く時があるのよ。私も、その感覚を無視するべきではないと思ってるくらいにね」


 虫の知らせというやつだろうか? とヒサメは首を傾げた。

 信じがたい話であるが、説明が付かない「変な感覚」にヒサメも覚えがないわけではない。


 だから、そういうものが絶対にないとは言わない。

 その感覚が極めて強い人。そういうことなのだろうかと、ヒサメはサクマが指さしたドロ箱を手に取って移動させた。


 他のドロ箱と特に様子の違いは感じない、禍々しい様相のイレギュラーモンスターのドロ箱。


「では、最初にこれだけ開封しちゃいますね」


 テーブルの上。十分に場所を空けたところへと置き、ヒサメは開封のために干渉した。


 淡い光が灯り、ドロ箱の表面に光が走る。

 小箱を形作っていた外装がさらに小さなプレートへと解け、隣へと移動して重なり合うようにしてどんどん外装が消えていく。


 通常の物なら白い光の球体が中にあるが、中にあったのは赤い光。


 すべての外装が消えると、その光が物体の形へと変わっていく。


 柄が生まれ、刺々しいデザインの鍔が形作られて行く。

 刀身を覆う鞘もどこか刺々しい、流線型のデザインの中に角ばったところが目立つ。


 それを見ている印象としては「豪華な剣っぽいな」というもの。


 赤い光が消え去り、それそのものの色を持った。


 そこに現れたのは、艶やかな黒に禍々しい赤が走った、鞘に収まった長剣だった。


 禍々しい様相のイレギュラーモンスターのドロ箱が、そのまま剣にでもなったかのような、デモンズモンスター的な特徴が見て取れる、一振りの剣。


 ただそこにあるだけで、どす黒いオーラのようなものを放つ、異常な何か。


 それを見てサクマが言った。


「見たことあるね、これ。デモンズソードだ」


 禁止指定の武器が本当に出てきてしまったらしい。

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