第77話 スーパー大量のドロ箱



 さらに話し合いが進んで事情聴取も終わり、班長の男が「他に何かあるだろうか」と言ったところで、ヒサメが言った。


「班長さんは私たちが持ち帰った物凄い量のドロ箱は見ていますよね?」

「ん? あぁ、見ている。何個あるんだ? あれ。1000では納まっていなさそうだが」

「わかりません」


 さすがにヒサメもあれが何個のドロ箱と魔石からなっているのかはわからない。

 あれだけ膨れ上がってしまうと、数えてなどいられないだろう。


「管理局の外へとドロ箱自体を持ち出すのは禁止されています。ですが、あれは即日で開封しきれるような個数ではありません」

「確かにな。あんな数ではすぐにどうこうできるものではない」

「私たち、特にアカネさんとレイカさんは、今日寝たら最適化による成長痛のような物を連日で受けると思います」


 色々と状況が重なっている。

 あんな膨大な量のドロ箱を即座に開封して消化することなどできない。

 あと数時間で日も暮れ始めるだろうという時間帯なこともあり、今日やりまくったとしても相当な数が残るだろう。


 かなりの疲労もある以上は徹夜で開け続けるわけにもいかないし、睡眠を取ると成長のための最適化に入ってしまい、明日はその成長痛のようなもので活動などしていられないことが推察される。

 その成長痛をかなり感じるほどの最適化を、特にアカネとレイカは連日で行われることになるだろう。


 なので、保管しておける場所が必要だ。


「お金は払うので、保管のためにどこかの部屋をそれなりの期間借りたいです」

「あぁ、そういうことか。それなら、会議室があるな。会議室は条件が合えば一応長期でも借りられるようになっている」


 彼は「会議室」について説明する。

 そういう名前だが、単純に少し広めの部屋でしかないというそれ。

 大人数で探索にやってきて、バックアップ要員もつれてきた場合の控室や、物資集積所のようにも使えるように考えられている部屋。


 その部屋なら十分な広さがある。

 魔石を売却してドロ箱だけにしてしまえば、あの大量の回収物も中に入れてしまえるだろうし、しっかりと鍵も掛けることができる。


「最適化作業が入ると言っていたが、管理局の敷地内には宿泊できる施設もある。成長痛に対する補助サービスもあるぞ」


 班長の男の話に、どうしましょう? とヒサメはアカネたちに視線を向けた。


 多少の成長痛を感じる程度の最適化なら良いのだが、一度で出来る上限値まで行われた最適化となると、本当に動きたくないレベルの体の軋みを感じたりする。

 そういうサービス自体があるのは知っていたし、お世話をしてくれる人が居たほうが良いのも事実だろう。

 圧倒的に覚醒者としての階位が高いヒサメはそれほど続かないだろうと思っているが、アカネとレイカはちょっとどころではないほど一度で行える上限値の最適化が続きそうな状況だ。


 なんせ、アカネとレイカ、特にアカネは本当にもうアドラルブラストで魔物を倒しまくって粒子エネルギーを吸収しまくった。


 ドロ箱のこともあるし、近くに居たほうが都合が良いかもしれないわけでもある。


 だからヒサメは、アカネとレイカの間で視線を行ったり来たり。


 少し考える様子を見せた彼女たちに、立会人として同席していたサクマが言った。


「色々考えたら部屋を取ったほうがよさそうに感じるね。お世話の人員は俺たちが付き添う形でもいいだろうし。あ、もちろん付き添いは女性から出すよ」


 リンカとマナミはその言葉に頷いた。

 リンカはもうめちゃくちゃ頷いている。

 なんだか下心が見えてしまいそうな様子だ。下心が透けているというか、もはや顔面にそのまま書き込まれているようなレベルかもしれないが。


「あと、芦川さんに言っておくと、リンカさんとマナミさんはタイチの考えに強く反発して勝手にここに来てる人だから、タイチ側の人間ではないよ」


 サクマのこの言葉はヒサメに対する配慮だろう。

 ヒサメはタイチを敵視、または警戒している可能性が高く、アークフォース所属というだけでは信用できない可能性がある。

 現状でアークフォースの中で信用できると思っているのは、アカネだけである可能性も高い。

 そんな状況で、補助には俺たちがついても良いと言われても、安心はできないだろう。


 だから、リンカとマナミはアカネを純粋に心配してここに来ていると断言した。

 そんな彼の言葉に、リンカも言う。

 少し考える様子を見せているヒサメに寄っていき、彼女の耳元で、管理局の者たちには聞こえないようにしながら、言った。


「かくいうサクマさんもリーダーとは大喧嘩してたわよ。そんな決定ありえないってね。少なくとも、今回の件ではサクマさんを警戒する必要性は薄いと思うわ」


 声を潜めたのは、英雄サクマとクランリーダーの仲違いはアークフォースの不祥事に繋がってしまうかもしれないからだろう。

 ヒサメにこれを明かしているのは、アカネを連れ帰って来てくれたことへの感謝による配慮だろう。


 とはいえ、すべてを明かすことはできないが。

 特にここにはアカネもいるわけで、色々考えると、決定的な部分は今明かすわけにはいかないし、そもそも明かすかどうかさえも慎重に考えるべきところだろう。

 アークフォースという組織のことを考えるなら、タイチがアカネにどのような考えを持っていたのかは、本人にも明かさず内々に処理する方向で動いたほうがいい可能性もある案件だ。


 サクマやリンカたちにも考える時間が必要だ。


 ヒサメ、アカネ、レイカで少しの話し合い。

 3人が頷いて、ヒサメが言った。


「わかりました。では、宿泊施設の方も借りましょうか」


 ヒサメもしばらくは近くに居たほうが良いのは事実だ。

 ここで街に出て宿泊施設を探すようなことをしても不便を増やすだけだろう。


 少しの話し合いの後、3人は頷いた。



 話し合いを終えてヒサメたちは部屋を出た。

 ロビーへとやってきた彼女たちには班長の男がついて来ていて、宿泊と会議室を借りるための手続きの案内をしている。

 そうしてやることを済ますと、彼は一度深く頭を下げて去っていった。


 次にヒサメたちは現在封鎖されているダンジョンゲート用フロアに戻ってきた。

 そこにはヒサメたちが集めてきた大量のドロ箱と魔石の山がある。

 その周りには見張りを引き受けていたアークフォースの構成員たちが立っていた。


 その山の前へとやってきたヒサメたちに、アークフォースの男が言う。


「まずはドロ箱と魔石の選別だろう。手伝おうか?」

「俺たちはアカネさんがやべえってんで勝手に来ただけで、別に予定はないんだよな」

「そうね、アカネちゃんの救援目的で、指示がある前に勝手に来ちゃったから、暇なのよね」

「ってか、相当疲れたでしょ? 選別はこっちに任せて休んでてもいいよ」


 慕われているというか、可愛がられているのだろう。

 仲間が大切だから、配信を見ていた人から共有されて、彼ら彼女らはそのままここに来てしまったものたち。


 裏もなく、その彼女が無事だったとなれば何の憂いもない。

 この提案も純粋な善意だ。もしかしたら、その善意には感謝も含まれているかもしれないが。


「さすがにこれを私たちだけで選別は骨が折れるものね。手伝ってもらおうかしら」

「これを3人でやるのは日が暮れちゃいそうだものねえ。今日はもう疲れたし、イレギュラーモンスターのドロ箱も開けたいし、さっさとやっちゃいたいわぁ」

「そうですね。さすがにこれは……選別のお手伝いをお願いします」


 ヒサメたち3人が言えば、アークフォースの彼らは笑顔で頷いた。


「おう! 任せてくれ! なんだったら、選別は俺たちに任せてドロ箱開封やってても良いぞ!」


 快活な笑みを浮かべて返事をした彼らは動き出した。

 そこにサクマとリンカにマナミも加わり、物凄い量になっているドロ箱と魔石の選別を始めたのだった。

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