事故に遭った。そう、事故。


 翌日、気味の悪い事件が起きた。


 南館の裏のもう使われていない焼却炉が何者かによって無断で使用されたらしい。


 担任は、犯人探しをするつもりはないからやった人は名乗り出なさいと朝のホームルームで言った。


 多分誰も名乗り出ないだろう。他の、例えば教室とか廊下なら大事件だが、燃えたのは焼却炉だ。


 焼却炉が燃えたところで騒ぐ人間はいない。なぜなら、それが焼却炉の本来の姿、本来の使い道だからだ。久方ぶりに自分の中で物が燃やされて焼却炉も嬉しかろう。


 騒ぐ人間がいない事件なんてすぐに忘れられるのだから、犯人なんて出てこないはずだ。尤も、大きな騒ぎになったらそれはそれで犯人が名乗り出たりしないだろう。俺だったら世間に忘れられた頃に自白する。


 そんなことを考えてながら一限目を過ごし、授業の内容は全く理解できなかった。


 焼却炉のせいだ。


 ……いや、下校中に事故に遭って一週間入院したせいだった。





 事故に遭った。そう、事故。


 下校中だった、らしい。というのも事故前後の記憶が飛んでしまっていて俺もよく分かっていない。自転車で下校していたのだが、角から飛び出してきた原付にはねられて頭を打ったらしい。


 或いは俺が飛び出したのかもしれない。


 原付のドライバーによって通報され救急車で病院に搬送されたらしいが気絶していたので覚えていない。


 目が覚めた時には病室のベッドの上だった。人は、本当に知らない部屋で目覚めた時に


「知らない天井だ……」


とは言わないことを知った。


 頭を打ったので色々精密検査があって一週間入院したが命に別状なし。事故前後の記憶がないのは脳震盪によるものと診断され、頭を打つ可能性のある行動はしばらくしないように厳重注意された。


「もう一度強く頭を打ったら死ぬかもよ」と脅されすらした。ちょっと怖い。


 親にはたいそう心配かけてしまった。申し訳ない。

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