男子高校生にありがちな会話


 机に突っ伏して眠気に全てを委ねていた。


 この状態は覚醒と睡眠のちょうど間に意識があって一番心地良い。今は放課後。クラスに残っていたって誰にも迷惑はかからないだろう。


 教室は、下校時刻までは開放されているので、放課後に残って机で寝てはいけないなんて言われる筋はない。下校中に自転車を居眠り運転する方が何倍も危険だ。


 どうしても眠かったから数十分仮眠をとってから家に帰ろう。最近こういう風に眠って帰ることが時々ある。


 夜更かししてるつもりはないが、寝不足なのかもしれない。平日はいつも夜十二時までには大体寝ているし、七時くらいに起きる。七時間睡眠は世間的には充分とされているが、俺の体には足りていないのだろうか。なんて、そんなことを考えていると、だんだん頭がぼーっとしてきた。眠い。


 話し声が聞こえる。俺以外に教室に残っている男子たちの声だ。眠ろうとしているのに自然と耳に入ってきた。


「じゃあ、西野と山本ならどっち?」


「うーん、いやーどうかなー」


「え、ここで悩むんだ」


「いや、西野ってなんかサッカー部の部長と付き合い始めたんじゃねーの」


「見た目の話なんだから関係ねーよ」


「それにその話も噂だろ」


「え、お前ワンチャンあるって思ってんの?」


 男子高校生にありがちな会話だ。誰が誰と付き合ってるとかの噂話。


 なんか嫌な感じ。個人的な意見。


「あー美人でかわいくて性格が良くておっぱいが大きいカノジョが欲しいよー」


 ありがちな会話だ。






 ——ぼんやりと意識が浮かび上がる。いつの間にか眠っていたらしい。眠る前にどんなことを考えていたかは忘れてしまった。


 頭のスッキリ度的にかなりの時間眠ってしまったことを直感的に感じとる。恐る恐る時計を見上げると六時五〇分を指し示していた。


 一瞬、朝まで眠ってしまったのかと錯覚して焦ったが窓の外の夕焼けを見て冷静になった。そんなわけない。


——不意に人の気配を感じた。誰かが教室に入ってきたのではなく、元からそこに居た感じ。


 焦っていて気づかなかっただけで俺が目を覚ます前から教室に居たのだろう。


 振り返るとそこには鞄に荷物を詰め込む女子生徒の姿があった。


「……家帰って寝たらいいのに」


 そう声をかけてきたのは同じクラスの、……誰だっけ。名前を覚えていない。ゆるくウェーブのかかったボブカット。前髪は右の方に流していて目にかかりそうな長さだ。同じクラスになったばかりでまだ面識がない女子。


「あっ……おはよう」


「もしかして、ずっと寝てたの?」


「えーと、うん。眠かったんだ」


 うーん、山崎……だったっけ?山本?山なんとかだった気がする。


 彼女は呆れた顔をして言った。


「三時間以上寝てたの?あんたやっぱりおかしいよね」


……やっぱりおかしいってなんだよ。しかもあんた呼ばわり。まぁ俺はおかしいかもしれないけど、ほとんど面識ない相手のことあんたなんて呼ぶか?


 まぁ普段からクラスでもおかしな奴だと思われているのだろう。


「眠かったんだ。授業中に寝るよりはマシだろ?」


「そういう話じゃないけど」


 そういう話じゃないらしい。寝起きで頭が回らない。


「部活、行かないの?」


「自由参加だからな。放任主義なんだようちの部活」


「あっそ、じゃわたし帰るね」


「お、じゃあな」


 山……なんとかさんは鞄を背負って教室を出て行った。


「そういう話じゃない」とはどう意味で言ったんだろう。俺はしばらく呆然と時計を眺めていた。


 長針が十二を差したところだった。

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