机の中、横は空

山木 元春

焼却炉事件編

1 机の中が、空

青天の霹靂


 ある日、晴れた空から雷が落ちてきた。


 青天の霹靂という慣用句があるが、まさか現実でそれが本当に起こるとは、慣用句を作った人も思わなかっただろう。慣用句が誰か人の手によって作られるものなのかどうか知らないけど。青天の霹靂はまさしく「青天の霹靂」であった。


 あの日は四月で晴れていた。昼休みの時間、俺は教室の窓から見える空を眺めていて、珍しく雲一つない青空だったのをよく覚えている。


 一瞬、学校が閃光に包まれ、同時に轟音が響いた。教室のあちこちから悲鳴が聞こえたが俺はただ黙って呆然と空を見上げていた。


——理論的に考えて、雲のない日に雷が落ちるのはおかしい。異常だ。


 その次の授業時間に化学の教師が熱心に落雷の原理を語った。同じような説明を後日、物理の教師からも受けた。ほとんどの生徒はその話を聞き流していたことだろう。


「塔状積雲と発達途中の積乱雲の明確な見分け方は存在しないが雷が鳴ってたらそれは積乱雲だ」といつだったか先輩が言っていたのを思い出した。


 不可解な現象だ。だけど大した興味は湧かなかった。


 不可解なことなんて世の中たくさんある。


 最近、昼休みに昼食を食べる前に手を洗いに行って帰って来ると俺の机に女子が座っていて、友人と騒ぎながら昼食をとっていたことがあった。どうして自分の席で食べないのか、俺にとっては青天の霹靂なんかよりこちらの方が不可解である。他人の机に勝手に座らないで欲しい。


 青天の霹靂の件は、軽くネットニュースになったりした。それが、二週間ほど前のことだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る