第18話 変化していく彼女に

「……で、結局、付き合ってんの?」


「付き合ってねぇって。何回言わせんだよ……」


 昼休み、俺は男子に囲まれながらうんざり気味に答えていた。もう何回目だよ。

 そんなことを思いながら七瀬の方に目を向けると、女子たちに囲まれながら談笑していた。


 なんだろう、信じられないというか……不思議な光景。


 地味で、無表情で、人との距離を詰めないことでクラスでも浮いていた七瀬が、誰かと笑って喋ってるなんて。


 そしてその中心にいるのは――



「七瀬ちゃんってさ、わりとズバッと言うよね! 最高! ウチ、そういうとこ好きだわー!」


 大きな声ではきはきと話す、元気系の女子。

 髪はポニーテールで、目元はパッチリ。

 テンションはやや高めで、だけどどこか品のある振る舞いを見せる。

 名前はひいらぎ 琴子ことこ


 七瀬とは最近絡むようになったのに、すでに七瀬の懐に入り込みかけている。



「……さすがリア充。距離の詰め方がエグい」


 思わず呟いた俺の肩を、ドンッと叩いてくるヤツがいた。



「うっすー、結斗。まだ風邪ぶり返してねぇか?」


「うお、真也。お前の声、デカすぎるわ」


 現れたのは、俺の悪友――瀬戸せと 真也しんや

 短く切りそろえた短髪で、筋トレが趣味の体育会系全開の男である。で、柊の生まれた時からの幼なじみだそう。


「お前、あの七瀬とマジで同棲してんの?」


「してねぇっつってんだろ」


「マジかよ! もったいねぇな! よく手ぇ出さねぇな! それでも男か!?」


「うっせーな!!」


 周囲の男子の視線がさらに刺さってくる。


 そんな中、真也は俺の首に手をかけて軽くロックしながら笑う。


「ま、俺はそっちに興味ねーけどな。俺は――琴子一直線だし?」


「……お前らこそ早く付き合えよ。何年幼馴染ごっこしてんだ」


「勇気がない」


「筋肉に勇気追い出されたんじゃね?」


「やかましいわ。生まれたときからの付き合いだぞ!? 俺が泣けば琴子も泣くし、琴子が笑えば俺も笑うんだぞ!? そこで告白してフラれてみろ。俺は死ぬ」


「お前が泣いたところ、一度も見たことないけどな」


 そんなくだらないやりとりをしていると、その柊本人が近づいてきた。


 


「ういー! 神谷! あと真也も!」


「ん?」


「なんだよ」


「今日さ、遊び行かない? ウチと七瀬と四人で」


「「……へ?」」



 俺と真也は声を揃えた。


 

「いやいや、いきなり何を……」


「だってさ、せっかく話するようになったし! それに……」


 柊はふと後ろを振り返る。


 そこには七瀬が困ったような、でも少しだけ嬉しそうな顔で立っていた。


「七瀬ちゃんが、“遊びに行く”ってことに慣れてないっぽいから、まずは軽いやつ! みんなでゲーセンとか、ボウリングとか!」


「ほら、七瀬が行くなら結斗も行かねぇとなぁ?」


 真也がニヤリと笑う。


「そうだよー? これで行かないなんて言ったらちょっとねー?」


 柊がニヤニヤと笑う。


「わ、わかった。行くよ。ったく……」



 ちょっとだけ、言葉に詰まったのがバレたのか、真也がニヤニヤ顔で俺の背中を叩く。



 そして、琴子が手をひらひらと振って叫んだ。


「じゃ、今日の放課後ね!」


 こうして――


 俺、七瀬、柊、真也の四人での放課後デート(?)が決まったのだった。


 

 ◇◇◇ 



(……なんで俺、さっき躊躇しかけたんだ?)


 午後の授業中、ふとそんなことを思った。


 七瀬が女友達を作って、その輪に自然に入って笑ってる。


 それはもちろん嬉しいことだ。

 七瀬が孤立してるって思われなくなるのも。


 でも、俺だけが知ってた七瀬が、他の人達にも知られていくような感覚。 


(……独占欲? いやいやいや、なんだよそれ。別に俺は……)



「はぁ」



 まとまらない考えが、溜息として抜けていった。

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