第19話 綻ぶ頬

 そして約束の放課後。

 ゲーセンでもなく、ボウリングでもなく――


「……なぜに、ダーツ?」


 俺は場違いなネオンライトの下、壁にズラリと並ぶ電子ダーツ台を見上げながら首を傾げた。



「ふふっ、ごめんごめん、いやマジでセンスのクセ強すぎて腹筋やばい……」


 柊が脇腹を抑えながら笑い、七瀬の肩をポンポンと叩く。


「でも、七瀬ちゃんが『ミステリアスな感じがしてカッコイイ』って言うからさ~!」



 七瀬はと言えば、マイペースにダーツの矢を確認中。


「……だって、ほら、なんか大人っぽくて、無口な暗殺者が武器にしてそうな雰囲気だから。私にピッタリ」


「自分にどんなイメージ持ってたんだよ……」


 俺がそうツッコむと、七瀬はふとこちらを振り向いて、ぼそっと口を開く。



「狙い撃つぜ」


「お前……それ、アニメで見たやつだろ」


「……」


 無言で頷く七瀬。


 そして、小さく――


「泣いた。兄も弟も推し。」


「わかるっ!!!」


 と、柊が即食いついた。お前も見てたのかよ。


「てか七瀬ちゃん、そっち系見てるんだ!? やっば、今度語ろ! ウチは兄ちゃんが見ててさ! 一緒に見てたらハマった系なんだよね!」


「ん、いいよ。同担拒否はしない主義」



(おいおい、なんだこの意気投合は……)



 もはや俺の入り込む隙は無かった。


 


「さぁて! それじゃー軽く勝負いくよー!」


 柊がバッと腕を振り上げる。


「ビリは全員にジュース奢り! 負けたらちゃんとお財布開けてねー?」


「おう、上等だ!」


 柊が提案した賭けに、真也がやる気満々で矢を構える。

 何気にこういう勝負事、いつも強いんだよなコイツ。


 七瀬は落ち着いた表情のまま、後ろに下がって構えを整える。


 そして俺は――


「うわ、絶対ビリだけは嫌だ……」


(この中じゃ一番センスない自信ある……)


 

 ◇◇◇

 


 結果、ゲームは盛り上がった。


 真也が最初から絶好調で、ガンガン得点を叩き出す。

 柊も意外な集中力で追随し、七瀬は独特のフォームながら確実に命中させてくる。


 そして俺はというと……



「お、おかしいな。真っ直ぐ投げてるはずなんだけど……?」


「ねぇ、的そこじゃないよ神谷。そっち壁」


「どっちかというと芸術点は高いよ? 円運動の美しさとか」


「笑ってる場合か……!」


 ボロボロだった。


 結果は――


 1位:柊

 2位:真也

 3位:七瀬

 4位:俺


 と、なった。いや俺はどうせこうなるとわかってた。だから早いうちから財布の中身を確認してたんだ。ちくしょう。


「はーーーい! ビリー!!」


「ほら、ジュース行ってこいジュース!」


「くそがぁ……!」


「神谷くんがビリで良かった。絵面がちょっと可哀想な感じで映える」


「どんな配慮だよ!?」


「かっこいいよ。その財布を開ける仕草とか」


「ありがとよっ!」


 とはいえ、まさかこんな風に七瀬も込みで笑って、遊べる日が来るなんて思ってなかった。


 七瀬がクラスに溶け込み始めたのが嬉しい。


 柊も明るくていいヤツだし、真也は相変わらずアホだけど――こいつらがいれば、これからの日常もちょっとずつ変わっていくのかもしれない。



 自販機の前で、ふと七瀬の方に振り返る。


(ちょっと高いけどあいつの好きなジュース買ってやるか)


 俺は少し、財布の紐が緩くなった。

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