どうして、私?

久米橋花純@旧れんげ

第1話

「おはよう。」


そう言われてから朝日が眩しい。眩しいって感じるのは、朝日にあたっている、須藤すどう珠樹たまきだけど。彼は、入学当初にハンカチを拾ってくれて、「今度は気を付けてね。」と言って、にっこり笑ってくれた。その笑顔を見た瞬間、私は、彼を目で追うようになってしまった—————————。






「今日もしんくんと話してるじゃない。二人とも、顔良いよねぇ。」


隣にいるのは、明日香あすかだ。明日香は、入学の時、隣の席で、仲良くなった女の子。美人で、お姉さんキャラ。頼れる姉貴、って感じ。慎くんは、珠樹と仲がいい男子。いろんな人に囲まれてるんだ。珠樹と一緒で。


「でもやっぱ私は、慎くん派だなぁ。運動できそうでかっこいいじゃん。」


う…ん。明日香は案外、そういう系好きだよな。まあ、性格的には似てるだろうけど。


「ハルは、どっち派なのさ。答えないと……、どうしちゃおっかな。」


「いや、どっちでもない…。」


ほんとは嘘。でも、一目惚れしたなんて…、口が裂けても言えないよ…。


「ハルさあ、顔に出てるの気づいてないの?」


「!?どういうこと?」


「ふふっ。ハルってば、すごい目で追っちゃってるもんね。」


「どうせ、私なんか、眼中にないもん。だから…せめてさ、彼の姿だけでも眺めていたいなって思って。」


「……っ。健気すぎる…っ!!」


? どういうこと? 好きな人にはこれが普通なんじゃないの?


「明日香は好きな人、いないの? 結構いそうな気がするんだけど……。」


「い、いない……よ?」


ああ、絶対いるんだな。この反応は。


「明日香~!今日、委員会あるぞ!一緒にいこー。」


「え、今日、委員会?聞いてないよ!」


「お前は俺がいないと全然だめだな!」


「は、え、ちょ、……。もう!慎くんはこれだから……。」


明日香がカァーと音がしそうなほど顔を赤くする。ふうん、なるほど。明日香は慎くんが好きなんだね。てか、慎くんって天然なの……?


「ごめんね。慎が明日香ちゃん取っちゃって。その代わり、俺が話していようか?」


!?珠樹に話しか……られた?いや、まさかそんな、ね。


「あ、いやだ?全然嫌ならいいよ。」


「いえいえ!いやだなんてめっそうもない!」


「ふふ。よかった。嫌がられてなくて…。」


ニコッと笑う。なんでそんなにふわっと笑うの? まぶしすぎて直視できないじゃん…。


「ハルちゃんさ、あの二人、付き合いそうだと思わない?」


「お、思います思います。何気に仲いいですよね。」


「ふは。どうして敬語なの。俺、そんなに怖い?」


急に名前呼びされたらびっくりするんだもん…。


「いえ。そんな私が話していいような、方じゃないので…。」


「? どういうこと?」


頭にはてなマークを浮かべている。そんなところもかわいい……。っていけない。私、もう手出さないって決めたんだから。


「立場が全然、違いますから……。」


「俺は、そんな立場にいないよ? ハルちゃんと同じ立場で話したいな?」


そんな上目遣いで言われたら、断れないに決まってんじゃんか~。


「は、はい……。わかりました……。」


「まずは、敬語を外してほしいな? 珠樹、って呼んでみて。」


陰では、珠樹、って呼んでるけど、本人を呼ぶなんて、そんな勇気ないよ……。


「た、珠樹……。」


「お、やっと呼んでくれた。ていうか、声ちっちゃいじゃん。」


「そ、そんなこと…、ない…です……。」


「否定してんの?してないの?」


笑いを含んだ声でからかってくる。


「からかわないでっ。ひどい……。」


「お、やっとタメ口にしてくれた。いつタメ口にしてくれるか待ってたんだよね。」


待っててくれた……? それって、どういうこと? 私と珠樹って全然話してないイメージしかないんだけど。


「私たちって、どこかで、話してた……?」


「……覚えてないの? じゃあ、いいよ。そのうち思い出してね?」


……? なにを? 珠樹とは、ハンカチ拾ってもらったときしか、話してないのに。


「好き、なのにな……。」

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