第47話 おばちゃん聖女、お腹痛い事にされる

「ルルちゃん……」


「ルルは俺が鍛えた。銀級冒険者になれる位には強い。どうか、行かせてやってくれないだろうか」


 ハーゲンが和代たちに頭を下げる。


「ギルマスはん……」


「うっし。じゃぁ俺たちが護衛だな。で、オーキニーがその間に屋敷に潜入と」


「せやな!あんたらルルちゃんの事しっかり守らなあかんで!」


「ライガス、カズヨ……」


「ルルちゃんもギルマスさんも、頭を上げてください。皆、やる気みたいですから」


 ミラが微笑む。


「ありがとうございます!!」

「恩に着る」



 ————



 翌日の夕暮れ、和代とミラは先日の屋敷の前へ来ていた。


「ルルちゃんら大丈夫かなぁ……」


「大丈夫ですよ。ルルちゃんと暁さんたちを信じましょう。それに、エリオットさんが頑張って契約したあの子が、異変を教えてくれるはずですから」


 そう言ってミラが見上げた先には、木の枝にびっしりと並んだムクドリ。


「あれ、エリオットさん、あんなに沢山契約したんですかね……」


「ミラちゃん、ムクドリって群れんねんで」


 和代の言葉に反応したかのようにムクドリたちがギャアギャアと喚き始める。


「うっるさ!」


「あははは、さすがに、あの中からは探せませんね……」


「移動しよ」


「え、でも」


「あはっ。タカオがあかん顔してるわ」


「ゴホゴホっ。本当ですね。動きましょうか」


 眉を八の字にして情けない顔をしている猫の顔を見て笑いそうになった二人は、それを出来るだけ気取られないようにして場所を移動する。

 空を見上げながら移動する和代の目に、一羽の鳥が見えた。


「あ、あれ」


「エリオットさんの契約獣ですかね。着いてきてくれたみたいです。良かった」


 そうして和代たちは、ハゲッチーノの屋敷の裏へ回って行った。




 一方その頃、ルルたちは———



「ここがその店ですか」


 フードを目深に被りつつも、堂々と立つルルが見つめる先には『ドラゴンの鱗亭』という看板が掲げられた立派な店。


「しっかし良かったのか?顔が割れてるなら最初から正面突破だなんてよ」


 心配そうに訊ねるライガスに、ルルは不敵な笑みを浮かべる。


「だって仕方ないじゃないですか。ミラさんは町中に顔を晒して歩いたって言うし、そもそも私はハゲッチーノに妾になれって言われてるんですよ?顔が割れてるどころじゃないですよ」


「それもそうだけどよぅ……」


「それに、このスカスカな変装でどこまでバレないか楽しむのも良いじゃないですか。とりあえずフード被っときますから」


「うっ……」


 その時エリオットが耳を押さえてうずくまった。


「どうしたエリオット」


「今朝契約してきた子がさ、ムクドリだったんだけど……。さっき視覚と聴覚の共有魔術使ってみたら、なんか今群れの中に居るみたいでうるさすぎて……」


「エリオット……。腕の良い魔法使いなんだけどな。お前」


 タルクが思わず呟いた。


「あはは、ごめんごめん。カズヨたちも移動したみたいだし、ムッくんも移動させたしもう大丈夫だよ」


「ムッくん……」


「ん?どうした?」


「いや、何でもない」


 エリオットとタルクのやり取りをなんとも言えない顔で眺めていたルルは、雑念を振り払うように顔を振り、両手で頬をぱんぱんと叩いた。


「さ、行きますよ」


 四人はドラゴンの鱗亭へ向かって足を踏み出した。


「……いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」


 ライガスが扉を開けると、給仕服を着た店員が四人をジロリと一瞥して、そう声をかけてきた。


「ああ。ここへ来るようにと手紙を貰った」


「なるほど。……では、こちらへどうぞ」


 店員に連れられ、店の奥へと向かう。

 そして辿り着いたのは屈強な男が傍で守る、豪華な扉の前だった。


「例のお客様です」


 店員がそう告げると、男は頷いて扉を開けた。

 薄暗い扉の先。窓のない通路に吊るされたランタンが、地下へと続く階段を照らしている。


「どうぞ、お進み下さい」


 店員に促されて四人は扉の中へと進む。

 パタンと扉が閉められ、辺りが一段と暗くなる。


「チュー太郎」


 エリオットがそっと呟くと四人の足元をネズミがすり抜け、階段の先へ走っていった。


「チュー太郎か……」

「やめろ」


 タルクが遠い目をしたところにライガスが思わずツッコむ。


「ここが地下闘技場ね……。お客さんが沢山いるみたいだ。それにグリムリーフも売ってそう。チュー太郎の臭覚が捉えてる」


 チュー太郎と感覚共有をしたエリオットが3人に伝える。


「マジか。分かった。……気を引き締めて行こう」


 ライガスの言葉に静かに頷く三人。

 暁の守護者がルルを守るように並び、四人は地下への階段を降りて行った。


 地下へと続く階段を一段降りる度に、湿った空気が身体にまとわりつく。妙に響く足音に気味の悪さを感じつつ辿り着いたのは、赤い絨毯が敷かれ、さながら高級料理店のような装飾やテーブルが配置された広間だった。

 しかしその中央には巨大な檻が設置されており、異様な雰囲気を醸し出している。ここが地下闘技場という事を、その存在で示しているようであった。


「お待ちしておりました。お客様」


 仮面を付けた黒い服の男が四人へ声をかける。


「俺たちが誰か、わかっているのか?」


「ええ、もちろんですとも。銀級冒険者の暁の守護者様と、そのお連れ様……。お一人足りないようですが……」


「あ?……あ、あぁ。カズ……いや、あいつは腹壊して宿で寝てるぞ」


「ぷっ。おい、やめろ」


 ライガスの言い訳にエリオットが思わず笑ってしまう。怪訝な顔をしているのが仮面越しでもわかるような男にライガスが重ねて言う。


「だがよ、お前さんらが用があるのはこっちの姉ちゃんだろ?文句あんのか?」


「いえ。……では、こちらへどうぞ」


 軽く凄むライガスを意に介さず、男は四人を案内する。

 テーブルの間を縫うように進む男を追いかけつつも、四人はそれぞれに仮面を付けてテーブルに座る人々からの好奇の目に、居心地の悪さを感じていた。


「気に食わねえ」


 ライガスが小さく呟くのをエリオットが肩を叩いて宥める。


「お待ちしておりました」


 そして男が突然足を止めたかと思うと、そこには仰々しいとでも取れるような態度で、例の黒いローブの男が四人を待っていたのだった。



————

一週間休むって言って気付いたら二、三週間経ってたしストックも増えてないし書けないし……なので、しばらく不定期更新にさせていただきます……。とりあえず書けたから投下した!

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おばちゃん聖女異世界を行く 小野紅白 @bagubo

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