ワラビーのあしあと
印象秀人
ごめおでぃぷとはコンクリの味
どうにもこうにも僕の昔の話ってのは思い出にしても他言できない、つまりコンプライアンスはもちろん、しっかり法にも触れていて話せない物ばかりなのだ。
生まれつき(?)ヤクザの息子が幼なじみであったり、真正のサイコパスに包まれて育った僕の懐かしい話なんて誰に言っても共感が得られないし、つらつら話すとヤバイやつ認定されるって事に、常識がズレてるって事に気が付くのに社会に出てから何年もかかった。
じゃあ例えば高校生の頃、僕の親は厳しくてゲームはもちろんアルバイトもダメ、原付免許もダメってとこだったし、当時普及しようとしていた携帯電話なんてのも許される訳がなかった。
暇を持て余していた高校一年生の夏休み、夜になると大物ヤクザの息子で小学校からの幼なじみのラッシーと同じくヤクザの息子のずっしの二人が僕の家の周りを原付でぶいこらぶいこらと走り回る。
それを合図と捉えた僕は、サッと着替えていつもの公園に行くとラッシーは自分の愛車である当時人気の原付バイクであるZX(ゼッペケ)に、ずっしは姉から借りパクしたスーディオに跨がってタバコをふかしていた。
ラッシーは飲食店でアルバイトをしていて、そこの先輩が今夜、バリバリに改造したローレルでドリフトをするとかでヒデも一緒に行こうよと誘ってくれた。
僕は車が好きでドリフトに憧れがあったので望むところ。
ラッシーも車が好きなわけで、先輩のローレルが青色でシャコタンで爆音で…的な感じで話が止まらない。
いつも通り僕はラッシーのZXの後ろに座り、カッと立ち上げたダブルスポイラーを両手で掴んだら
ずっしも持ち前の運動神経の良さでローリングを切りながらセンタースタンドを無理やり地面に擦って火花を散らし、ヘラヘラ笑いながらZXの前に出る。
ブックワンには先輩の青のローレル、純正外装の白のR32タイプM,ウェーブッパネが特徴的な黒のシルエイティ、フルエアロの青のS13シルビア、白いホイールが映えた青のエボ4が停まっていた。
僕らが近付くとみんなこちらを見て殺伐とした空気を漂わせ、なんかやばい人たちだな、と言うのが第一印象。
ラッシーがローレルの先輩にお疲れ様です!と挨拶したら頭にタオルを巻いたガタイの良いシルビアの人が『なんや知り合いかいなぁ笑 どこのヤカラおもたわ笑』と、張り詰めた空気が和んだ。
ローレルの先輩ことツダくんは『自分も車好きなんやろ?今から山行くで!行くやろ?』と言うので僕はもちろんお願いします!ドリフト見るの初めてなんです!と頭を下げた。
お互いに自己紹介をすると先輩たちが4つ上である事、地元がすぐ隣であることがわかり、溢れんばかりのウェルカム感に安堵しとても嬉しかった。
そんなこんなで将来的に僕がS13のシルビアを欲しているという話をしたらじゃあヤッカンの隣乗ったらえーやんか、と言う話になり、人生初のフルエアロS13タービン交換仕様のシルビアの横に乗せてもらえた。
車内は芳香剤の甘い香りが強く、タバコの煙と混ざり合ってなんとも妖艶なキブンになる。オーディオのデジタルディスプレイはほんのり僕とヤッカンくんの顔を照らしていて、いつもの原付での暴走とはひと味違うどうにもヤバイ緊張感を覚える。
山までは下道で30分ほどかかるが、その道中全ての交差点をドギャー!キュルルルルルーっとドリフトしてくれて、それが人生初のドリフト体験だった…
ってこの話はドリフトして、いわゆる走り屋狩りしてくる32シーマやアコードワゴンのヤカラをヤッカンくんが金属バットでボコボコにしてそれから…と言う話ではない。
この当時は今のようなアニメから車に興味を持った根暗陰湿キモ童貞がXでピコピコ誰かの挙げ足を取るポストをするとかそんな文化はなく、走り屋=暴走族アガリの怖い人たちがメインストリームとなっていた頃。
で、話としては青のエボ4のタクヤくんが中心人物となる。
タクヤくんの家と僕の家は歩いて行ける距離にあって、それなら帰りは送ってあげるよと当時真新しいランエボ4に乗せてくれた。
車内ではzilchのアルバム《バスタタイズ》が流れており、僕がそれに反応すると『zilch知ってんねや!?俺も好きでさぁ、hideはXの頃からめっちゃカッコよくてさ…』と話が弾んだ。
僕は家が厳しい代わりに父はサックス、母はピアノの演奏をしていて、僕がエレキギターが欲しいと言うと楽器という事もあるせいかすんなり買ってくれた。
そしてテレビもゲームも何もない中で僕の唯一の娯楽となったのがギターで、ひたすらXとB'zと《BANDやろうぜ!》の適当な楽曲を弾きまくっていたのだ。
タクヤくんもギターが趣味と言う共通点があり、腹もへったしガストで飯でも食いながら音楽について語ろうぜ!となった。
そこでは音楽はもちろん、友だちとの悪さの話やいつもどこで溜まっているかとか、家庭での原付禁止令、バイト禁止令、携帯禁止令の話も打ち明けた。
タクヤくんはそんな僕の事を不自由に思ったのか、いらない携帯あるからあげるわ、とそのまま家に招待してくれた。タクヤくんの家は団地でお母さんと住んでいた。
深夜にお邪魔した割に寝ているわけでもなく、お母さんはタバコを吸いながらボッーと深夜番組を観ていた。お邪魔しますと声をかけてタクヤくんの部屋に上がった。
するとそこには当時としては珍しくデスクトップのパソコンがあった。しかも2台も。
タクヤくんは机の引き出しから携帯電話を取り出すと『これ受け専やけど使い!一応あと数千円残っとるけど受け専用にしときや!』
それはいわゆるプリペイド式携帯電話だった。
コンビニでお金をチャージして使うタイプの携帯電話で、うろ覚えだが残高さえあれば使えるというやつだったと思う。
そうしておけば相手がかけてくれれば電話に出れるのだ。これをきっかけに僕はワン切りの魔術師となる。
一通り使い方の説明を受けているとタクヤくんのお母さんが、突然部屋に入ってきて『あんた松田優作の息子に似てんなぁ。あんた名前なんや?』と深夜に似つかわしくないテンションで開口した。
タクヤくんは飽きれた顔で『ヒデやで、もうえーってほんま。大人しくしといてくれや…』と言うとQoo(オレンジジュース)とポリンキーを配給してくれた。
タクヤくんは部屋にあった車の
当時キムタクが流行らせた茶髪ロン毛にサーファーファッションは僕らガキの憧れだった。
そんな身なりで優しいタクヤくんは、理想のお兄さんができたようで本当に本当に嬉しかった。
その日は家まで送ってもらって憧れの携帯電話、陸サーファーの服、タクヤくんと走り屋の先輩たちができたことで輝かしい人生が始まった気がした。
翌日ラッシーが昼間から僕の家の周りをZXでピコピコ走っていたことに気付いてすぐいつもの公園へ行った。ドリフト体験の感想を言い合って、あのあとのタクヤくんちでの出来事を話した。
そしてずっしも呼び出し、携帯電話番号、メールアドレスを交換した。次の僕の目標は原付をゲットすることだと宣言したらラッシーがどこそこのマンションの下にZRがあったからガチリにイコやと。
ZRはめっちゃ速いでと。
ほならイコかと建設中で誰もいない一戸建てのお家に誠に勝手ながらお邪魔し、使えそうなマイナスドライバーとモンキーをお借りしてZRの場所まで白昼堂々訪問させていただいた。
僕はマイナスドライバーを鍵穴に刺し力をかけて、ラッシーはマイナスドライバーをしっかりホールドするようにモンキーをかけて無理矢理回した。
ほんの数十秒で任務は完了し、そのまま3台で離れた。ラッシーの情報通り、ZRはトルクがあって、フルスロットルにしたときは飛ぶように加速した。スピードリミッターの効く60キロなんてすぐだった。
正直速過ぎて怖かったくらい。
いつもの公園に行って、ZRの品評会が行われた。
走行距離、タイヤの減り具合、ボディの状態から新車と判断しテンションは爆アガリ。
しかし60キロで効くスピードのリミッターカットをしないと話しにならないと言うことで、次はどこかでカスタムされたZRからパーツをちょうだいしようぜとラッシーが意気込んでいた。
ナンバープレートを取り外して森に還したところで、クロやんと会うことにした。バイトをしているラッシー、おばあちゃんからお金をもらってるずっしは国家予算がそこそこある。
僕はと言うと、良いタイミングでずっしの家に行き、ずっしのおばあちゃんに『今から三宮へ行く』と言うと僕の分まで一万円くれるのだ。他にはずっしと粗大ゴミの日にゴミステーションで金目の物を拾い集め"キツネ目のおっちゃん"とこへ売りに行く。
それを国家予算の主軸とし、あとはクロやん。
クロやんはバカなくせにヤンキーに憧れている。
クロやんは中卒でフリーター。なんのバイトかはよくわからないが、割と平日フラフラしていた。
で、クロやんはバカなクセにドラッグに興味を持っていた。
試しにラッシー、ずっしに口裏を合わせてもらって僕が用意したタバコに近所のスーパーで誠に勝手ながらお借りした香辛料のハッパを詰めて大麻という事にして1本3千円で販売したら買ってくれた。これをシノギにしていた。
で、クロやんにはバイト先の人でも良いから利益乗せて販売してもえーよと言ってたので、わりと買ってくれていた。ちなみにホントは1本5千円だけどクロやんだから安くしとくねと言っていた。つまりどう転んでも詐欺だ。
ちなみにその香辛料が何なのか忘れたが、クロやんいわくフワフワして気持ちいい、やめられん大麻最高や〜とつべこべ抜かしてたから僕らも吸ってみたら確かにフワフワしてボーッと感じた。でも別にって感じ。
そうやって適当に過ごしていたらタクヤくんが僕の携帯電話に連絡くれて、夜ご飯食べに行こうやと誘ってくれた。ちなみにタクヤくんは大学生で、かなりの頻度でガストでご飯を食べていた。
いつものブックワンで待ち合わせしていたらタクヤくんの青のエボ4がボボボーっと入ってきた。
僕のZRを見るなりシブイやんと褒めてくれた。
しかしそこはアニキ分、僕が勝手にお借りした車体である事を見抜いていた。
で、その経緯を話すと嬉しそうに笑顔で話を聞いてくれた。
その日はガストでタクヤくんはハンバーグステーキ的なやつとワイン、僕も同じやつでワインの代わりに無料でやらせてもらうタイプのドリンクバー。
これが数日続いたある日、雑談の中で僕の収入の話になった。
ずっしの粗大ごみビジネスとクロやんとの大麻外交の話を聞いて、タクヤくんは『お前が考えたんか?アホやなー笑』と。
で、『金ほしいんやったら仕事を授けようではないか弟よ』とタクヤニーサンが寄り添ってくれた。
とはいえちゃんとした仕事なんてやったことないしどうすれば良いのかという不安はあったが、仕事の内容はこうだ。
タクヤくんとその友だち達で運営している出会い系サイトで女のフリをして男とメールをしてほしい。男性は有料で女性にメールをした分のポイントが入る。ポイントは換金して小遣いになる。
で、僕の場合はタクヤくんと知り合いだから一般よりもポイントを多く貰えるという話。つまり世界初のリモートワーカーは僕なのである。知らんけど。
どんなメールをしたら良いかとか実際のやりとりをタクヤくんの部屋のパソコンで、利用者の内容を見せてもらった。
タクヤくんはやり方のコツはあるけど自分で考えてやってみぃと突き放し、なにか試されてる気がした。
サクラをするためのプリペイドカード代はもらった。
さっそく家に帰ってサクラを遂行。タクヤくんに言われた通り土地勘のある兵庫県を選択して《どこどこに住むアユミです!16歳です!彼氏欲しいなぁ〜》的な内容を書込んだ。
出会い系自体は当時最強だった”スタビ”で鍛え上げていたのでどんな内容だと男が釣れるかは身を持って経験しているつもりだった。
※スタビとはスタービーチという無料の出会い系サイト。僕はもちろん周りのみんなも暇さえあればそれを使って経験人数を増やしていた。そのお陰でコンパにありつける事もあった。
投稿するやいなや有料にも関わらず続々と男性からメールが来た。
どこどこに住む〇〇です!何歳で何をやってます!車は何に乗ってます!芸能人の誰々に似てるって言われます!仲良くしましょう!
と言うのがありがちな初手のメール。
シンプルなのだと 誰に似てる?の一言とか 1.5でどう?とか。
で、なるべくメールの回数を重ねなければいけないので 〇〇さんメールありがとう!好きな食べ物はなんですか? という質問を添えて返事する。
感の鋭い人は、メールをなるべく多くしてポイントを稼ごうとしてると見抜くヤツもいる。多くが偉そうに怒るタイプ。少数派のデキ男はなるべく雰囲気を壊さないようにする。後者は他愛もない会話もちょっとおもしろかったりするし、ちゃんと結婚して幸せな家庭を築くタイプだ。前者は未だ独身でリーマンショックかコロナショックかそれ以外で自殺か餓死しているはずだ。
絶対汚いしキモい。出禁の店が必ずある。奇跡的に生きていても鬱の薬を飲む事が唯一の楽しみでアル中だと思う。
話は逸れたが初日は一晩でサクッと7千円稼げた。
翌日は2〜3万円稼ぐ。
その夜にまたタクヤくんとガストに行って成果報告して、タクヤくんちでお支払。タクヤくんは僕のメールのやり取りを見てなるほどなるほどと頷く。
ずっしもバイトをしてないから誘って良いかと問うと、ヒデほどポイント付かんけどえーよと言ってくれた。
翌日ずっしにその旨を伝えたら俺にはできへんわぁと断られた。これじゃ面目ないのでラッシーを誘うと、ほんの数回だけメールのやり取りでギブアップ。
タクヤくんに一連の事を伝えると『まぁそうやろな笑』と。
僕は彼らがチャンスを目の前にして諦める姿に苛立った。
しばらく僕のシノギの主軸はサクラとなり夏休みも無事終わった頃、やり取りをする男がいつも同じ人となり、どれだけ名前やプロフィールを変えても勘付かれるようにもなった。するとみるみる日々の報酬ポイントは下がる。次の手を打たないといけないなと思い、登録地を東京に、土地勘がないから上京したての設定にして再度チャレンジ。
僕の住む兵庫県とは違い爆発的な瞬発力でメールがドカドカ来る。指はギターと過度のサクラメールにより秒速で腱鞘炎になった。
誰とどんな話になっていたか管理できなくなり、絶対おかしな流れになっているのにそれでもドチンポくんたちは喰らいついてくる。ありがたい。
すでに自分で支払いしているプリペイド式携帯電話はすぐに上限を突破する。1日5万円ポイントを稼いでもそのうちプリペイド代でほとんど手に残らないほどで、タクヤくんにプリペイド式ではない普通の携帯電話であるimodeを契約してもらった。
プリペイド式携帯電話は通信料が割に悪かったのだ。
タクヤくんとはポイントから携帯代を差し引いてもらう約束をして、晴れてD502iが我が人生初の携帯電話となった。
もちろん親には内緒だ。
しばらくすると巷では出会い系サイトのサクラの存在が囁かれたり、出会い系がキッカケの事件なんかも起こり利用者は激減するし、メールのやり取りが長いと男がすぐに引くようになった。
シノギもこれまでか、という時に我がZRも悪党窃盗野郎にパクられてしまったのだった。
ちなみに稼いだお金は服と靴と雑誌とカラオケ、サイゼリヤ、スロット、楽譜とCDに消えていった。
もちろんタクヤくん率いる有料出会い系サイト運営者軍団も例外なくダメージを受け、次の一手を打つことに。そのサイトはサーバーの更新費用だか管理費用がどうのこうののタイミングで閉鎖した。
そんなある日、タクヤくんから大阪に行くぞ、お前も行くぞ!とメールが来た。タクヤくんがエボ4で僕を迎えに来ると助手席にヤッカンくんがいた。
リヤシートに乗り込むとヤッカンくんが『お前ー、クラブ行ったことあるん?』とドスの効いた声で話しかけてきた。ヤッカンくんはダンプの運転手で、筋肉質な腕が太くてイカツイ。いつも頭にタオルを巻いていて、金髪坊主が横からはみ出ている。
歯は溶けてるし爪も内巻いている。多分過去にシンナーを吸っていたんだと思う。やはりイカツイ。
金属バットで人をボコボコにする人だし金属バット自体もボコボコだし。
気を引き締めないと怖くて話せなくなる可能性がある。
で、つまるところこれからクラブへ行くらしい。トランスというジャンルの音楽が流れてると。で、ヤッカンくんがその素晴らしさを説いてくれる。
『音がな、レーザービームでな、女いろたらイッテまうねん!もうほんまゴッツいで!』
タクヤくんは『ヒデにはあかんで』と意味深な事を告げた。
アメ村にある適当な駐車場にランエボを停め、てくてくと歩いていくと"Juice"なるクラブがあった。
入場料的なやつはヤッカンくんがみんなの分を払ってくれて、エントランスではローパスフィルターがかかった重低音域だけの音だったが、ドアを開けるとバッーーーッと全身に音の針にぶっ刺さる。
そこには4つ打ちのキック、裏打ちのスネア、まるで音の津波のようなシンセサイザーの音が攻撃的で、でも熱冷たく心地が良く、体が浮遊する宇宙のような空間だった。
なるほどヤッカンくんが言ってたアレはコレなのかと。
タクヤくんが『どや?すごいやろ!?ロックもえーけどトランスもえーで!』と僕の耳元で大きな声で叫んでいる。
だけどちっとも大きく感じない。なぜならトランスの方がもっと大きく響いているからだ。
重低音が波打つ度に僕の体は震える。
タクヤくんがヤッカンくんをおいてトイレに誘った。トイレは少し音量が小さい。おしっこをしながらタクヤくんが僕に警告した。
『今日は酒もあかん。ドラッグもあかんで。見るだけな。踊るだけな。ナンパもあかんで。ケンカも揉め事も全部無しな。OK?』
やっぱりなんかやばい所に来た感があって帰りたくなった。しばらくタクヤくんがエスコートしてくれるようで、クラブの中を案内してくれた。
『あそこの席は座ったらあかんで。しばかれるから。』
『DJブースの前見てみ!あの女。ラリラリやろ?』
『あいつ見て。たぶんプッシャーやで。ほら見てみ、あの女たぶん何か引くで。…ほら、今なんか渡したやろ?横行って見よか!プッシャーの方ジロジロ見たらあかんで!』
タクヤくんとドラッグの売人のいわゆるプッシャーと、何かの薬を買ったギャルの女の横に付いた。
ギャルが手のひらサイズのガラスパイプの先に何かを入れた。クラブの照明がストロボになり、ギャルがパラパラ漫画のようにガラスパイプをライターで炙り吸引、煙を吐く、という動作に見えてなんとも言えない情景だった。
ギャルは煙を吐き終わった瞬間爆発したように両手をグルグル回しヌガーーーーっと叫び、バキバキに踊り出した。
これがモノホンのドラッグかぁと関心していたとき、エアコンの風に乗って僕の方にさっきギャルが吐いた煙が襲ってきた。なんとも言えないケミカルな香り。
まるで全生物を否定するような、これまでに嗅いだことのない化学式満開の香りだった。
こらやばいやろなと悟った瞬間、僕の体全体が赤い心臓になり、バクバクバクとBPM140で波打った。
なんじゃこりゃー!んんんんー楽しい!ぐおりゃー!
というしかない気分になり僕もギャルに合わせて体を踊らせた。
タクヤくんはというと鼻を手で摘み煙を払って距離を取った。
で、《Sandstorm》という曲に合わせて爆発していた心臓が主となっていた僕の体はすぐにいつもの人間の姿に戻った。
タクヤくんにさっきのなんですか?ヤバかったんですけど!と報告すると『ごめんごめん!たぶんクラック!コカインやで!あれあかんからな!』と。
僕の初クラブは初クラックでもあったし、トランスを細胞レベルで感じた瞬間でもある。
しばらくタクヤくんとフロアの人間観察をしていたところ、ヤッカンくんが最前列のギャルとバキバキダンスをしているのを見つけた。どう見てもシラフじゃないのはわかる。
で、よく見ると最前列はみんなバキバキだ。さっきタクヤくんはラリラリと表現していたが正しくはバキバキである。
で、このバキバキが理解できると他のところにもバキバキがいるって事が見て取れる。
なんやかんやトランスを楽しんだ僕とタクヤくんはヤッカンくんの元へ行き、帰宅を伝えた。
…が、ヤッカンくんの反応は『あ?たらぼけーやったんぞ!チンコガチガチやぞ!俺一人でドンフライと寝倒せるで!やいこしよったらすぐ上いぐで!』完全に意味不明で支離滅裂だった…。
諦めてクラブを出ると耳が遠くてすべての音が小さく聞こえた。
タクヤくんは『ヤッカンやばいな笑 あいつ昔からあんなんやねん笑 体ガタガタやからなあいつ笑』
あれもクラックですか?と聞くと『たぶんシャブちゃうかな笑 クラックはすぐ抜けるからな。お前もさっき吸うたやろ?すぐ抜けたやろ?』
確かに。
帰りの車ではタクヤくんの薬物講座が待っていた。
それぞれの薬物の特徴や入手経路や人体へのリスク。
タクヤくん曰く、覚せい剤とコカインは絶対にヤメとけ。理由はヤメられなくなるから。金もかかるしぶっ飛ぶだけ。究極の消費者になって脳も壊れる等々。ついでに大麻についても教えてくれた。
講座が終わると『明日は元町行こか』と遊ぶ約束をしてくれた。
翌日、約束通り僕は電車で元町へ、タクヤくんは大学帰りにランエボで集合した。
この元町というところには高架下なる暗い蛍光灯の照明だけで照らされた空間で、見たことないタイプの吊り下げ式スピーカーが、いちおう流行りの音楽を流しているが、高架上を電車が走るとガタゴトガタゴトとすべての音をかき消すというなんだか臭い匂いのする商店街があって、そこにはサブカルやアングラ感のある古着屋やミリタリーショップ、絶対的型遅れの誰が買うねん的どっかからか拾ってきた家電専門店、古いおもちゃしかない需要無しのお店やこれまた型遅れ感のあるアダルトショップ等々がたくさん連なっていて、見ているだけでも楽しいので小学生の頃から足繁く通っていた。
タクヤくんはめぼしいお店があるってことでそこへ向かった。その店はなんだか不思議な気持ちになる甘い香りのお線香がぶっ焚かれていて、店内にはまともな照明はなく、幻想的なキノコのオブジェが唯一の光源になっていた。
先日のクラブとは一味違うトランスのような音楽が流れていて、なんだかわからん喫煙具のような物や絶対アカンそうな白い粉が販売されていた。
タクヤくんがガラスパイプやボングなる物の実物を目の前にして使い方や特徴を事細かく説明してくれた。
そしてディスプレイケースに入っていた”ゴメオ”なる物の購入を店員さんに伝えると、5千円支払って、白い粉の入ったロケット型のプラケースをゲットした。
タクヤくんの話ではこの”ゴメオ”および”ゴメオディプト”および”ファイブメオディプト”および”フォクシー”という呼び名がたくさんあり過ぎてそれはどうなん的な薬物は、合法ドラッグという安心安全なお薬のようだ。現在は違法だが。
後日、ヤッカンくんにこのゴメオの味見をしてもらうって事でそれまでギターを弾く事以外で暇を持て余す僕にランエボ4の運転を教えてくれた。
いきなりの路上教習で、車好きな僕はMTの操作は知ってはいたけど実際は難儀した。
タクヤくんはうまいうまいと常に褒めてくれて港の倉庫の周りを何周もクルクル回っていた。そんな日々を続けてるうちにいつもの港からタクヤくんの指示に従って田舎の方に車を走らせた。
途中パトカーとランデブーしたけど落ち着いて運転していたお陰で何もなくやり過ごせた。
そうしているうちにヤッカンくんのゴメオ試飲会の日が訪れた。
その日はタクヤくんとヤッカンくんの共通の友だちであるはしもんくんの家に行く事になった。
はしもんくんは実家の庭にある離れの2階建てが部屋で、1階にはお兄さんの部屋となっていたが空き部屋だった。まぁ就職とかで実家を出たんであろう。
はしもんくんは理学だか薬学だかの分野の人でなんかそういうのに詳しい大学生で白いAE101のレビンというマイナーなオヤジ臭い見た目のスポーツカーに乗っていた。
はしもんくんの部屋にはガラス製のビーカーやら実験道具やハンダゴテや銅線、端子なんかもあって、車の電気系統の知識もあるという。
《オートメカニック》という車の機械的な事に焦点をあてた雑誌が本棚にビッシリ詰まっていた。
髪は坊主が伸びて青ひげが少し伸びていて、レイバン型のメガネにファッションに無頓着なTシャツにダサいジーパン。まるでオウムの信者というか、当時のオタク的なオーラを出していた。
声も小さく無表情気味にボソボソ喋る。
これからゴメオをキメるヤッカンくんに、タクヤくんは何やら確認を始めた。
酒飲んでへん?
飯食ってから2時間以上経ってる?
最後に薬やったんいつ?
気分は?
ヤッカンくんはどれもパスして、タクヤくんの指示のもと、ゴメオの入ったプラスチックのロケット型のケースを開け、半分ほどコップに入れた。そこに水道水を入れてグビッと飲み込むと『んー、まずい!コンクリみたいな味や笑』と苦い顔をしながら喜んでいた。
その時はしもんくんはストップウォッチをスタートさせて何やら時間と摂取量らしきメモを取った。
はしもんくんはゴメオをほんの少しだけ指先に取り、ペロッと舐め、しばらく味を確かめたら窓から外にツバを吐き捨てた。
『んん確かに苦いな』とつぶやき冷蔵庫からアクエリアスを取り出しヤッカンくんに『これあげる』と早口気味にのっそりと渡した。
ヤッカンくんはグビグビっと飲むと『どないなんねやろなー!楽しみやなぁ!』とテンションが上がっている。
そしてヤッカンくんが車から持ってきたトランスのCDをはしもんくんのラジカセにセットすると音楽に合わせて肩を揺らせた。
タクヤくんははしもんくんのプレステを起動させ、僕とグランツーリスモで遊びだす。
しばらくしてヤッカンくんが『腹痛い腹痛い』と良い、1階にあるトイレへ向かった。
タクヤくんははしもんくんを見るなり『通過儀礼始まったな。そろそろ効く頃かな?もしあいつがバット入ったらみんなで踊ろな笑 楽しい雰囲気にしたろや!』
ヤッカンが通過儀礼という、ゴメオを飲むと必ず起こる下痢や吐き気に見舞われ、戻ってくるとすかさずさっきのアクエリアスを飲ませる。
ヤッカンくんは『あーーーぁ、、、んーーー、、』と恍惚な顔になり、はしもーん、エロいやつ流してえぇんと甘え出した。
ラジカセからはトランスが流れ、プレステは強制終了でエロビ劇場が始まった。
はしもんくんはやはりマトモではないので、ブラウン管に映し出されたのは未成年の無修正モノだ。中学生くらいの女の子がオジサンに優しくされるやつだった。
ヤッカンくんはバッとズボンを脱ぐとプワーんと酸っぱい臭いと共にカチカチのヤッカンジュニアがポーズを決めていた。
ヤッカンくんは『やばい、めっちゃ硬い!石やんけこれ、あーーーぁ』と一人でシゴキだすと、ケラケラとタクヤくんは笑っていた。はしもんくんは目を逸らして鼻で笑っていた。
ヤッカンくんはテレビの画面のみ一点集中だが『ヒデ、触ってみ!ごっつ硬いで!ほんまほんま!はよはよ』とモノを突き出してきた。
金髪坊主のムキムキ現場系アニキのアソコなんて触りたくもないし、なんなら酸っぱ臭いのに近付きたくもないが、タクヤくんがイケ!イケ!と僕を攻め立てる。
仕方なく指先でアソコをぷにぷにと触るとビックリ。マジで硬い。感覚的には石のようだった。
で、僕が触ったからと言ってヤッカンくんがなにかリアクションする訳ではなく、そのまま一点集中でしごき出した。
急にピタッと止まるとワンテンポ遅れてヤッカンくんのヤッカンエキスがトクトクと出てきた。タクヤくんは口を抑えてオホホホホと笑ってるし、トクトクが止まらない。
ヤッカンくんは、んんんと小さく喉を鳴らし絶頂していた。
自分と比べても出ている時間が長い。はしもんくんは部屋にあったトイレットペーパーを渡して、これで拭いたらトイレに流してなと言った。
一通り拭き終えたらまた一点集中でしごき出した。
タクヤくんは『これなんなん笑 何がおもろいんこれ笑』と言いながら腹を抱えて声を抑えて笑っている。
僕もよくわからないけど大きめに愛想笑いした。
そしてヤッカンミサイルの二回目も発射成功し、はしもんくんの言う通りにトイレに流しに行った。
その隙にはしもんくんはビデオを止めてテレビにチャンネルを変えた。お笑い番組が音もなく流れていてラジカセからはトランスが流れ続けている。
ヤッカンくんはトイレに閉じこもり出てこない。
その間、タクヤくんは『ゴメオってアッパーやんな?』とはしもんくんに問うとはしもんくんが『まぁセロトニン系でもあるからどっちとも言えんのちゃうかなぁ』となんだか小難しい事を話し出した。
しばらくしてヤッカンくんが右手を顔の前でフリフリしながら帰ってきた。
ヤッカンくんは『やばいやばい!残像めっちゃ残る!見て見て!』と言いながら手をフリフリしている。
タクヤくんは『俺らはシラフやから見えませんが 笑』と答えた。
ヤッカンくんのご希望で部屋の明かりとテレビを消すと『おおおお!ラジカセのディスプレイがレーザービームみたいに見えるわぁ!音もレーザービームみたいになっとー!もう宇宙やん!』と盛り上がっている。
『まばたきしたらやばい!全部スローモーションやん!』と意味不明な事を言って目をパチパチしながら音に合わせて踊ったり、手をフリフリしたり楽しそうだ。
はしもんくんはその間ずっとノートに時間となにかをメモっている。
その日はずっとそんな調子で朝まで続いた。さすがにヤッカンくん以外はみんな眠いのでタクヤくんがヤッカンくんと僕をランエボに乗せて帰宅することに。
帰宅途中ずっとヤッカンくんはスピード感がやばいだの、スローモーションに見えるだの、光の反射が星に見えるだのうるさかった。
後日談だがヤッカンくんの眠気は何処かへ行ったようで、翌日の夜も眠れず、昼頃にやっと寝れたそうだが30時間程ぶっ続けで爆睡していたそうだ。
時は変わって、しばらく僕はタクヤくんの家でインターネットをしたり、はしもんくんちでプレステをしたり何となく過ごした。
そんなある日、タクヤくんが次の仕事決まったぞと言って僕を呼び付けた。タクヤくんの部屋に入ると見覚えのあるロケット型のパケがたくさんあった。
パケには《5Meo-Dipt》とか《5Meo-AMT》とかその他にも《2C-B》だの化学式的な文字のシールが貼ってあった。
タクヤくんは『みなさんにこれを販売してもらいます』と当時流行った映画のビートたけしのセリフを真似て言った。
『良いかヒデくん、ここに飛ばし携帯と飛ばし銀行口座があります。ヒデくんにはこのゴメオは1パケ500円で買ってもらいます。飛ばし携帯と口座は合計30万円で買ってください。支払いは合法ドラッグの売上から後払いしてください。販売方法はイーコマースサイトです。つまりネット通販。
サイトの使用料も毎月支払ってください。合法ドラッグの価格はあなたが決めてください。このサイトの実質的な管理者はあなたです。ヒデ社長に従ってサイトのデザインや機能を追加します。その都度お金をお支払ください。では社長、お願いします。』
突然の事で頭が止まった。
タクヤくんはさっきの文言を几帳面にプリントアウトして渡してくれた。
『さぁヒデ社長、値段の設定はどうしましょう?高架下では1個5千円でしたね?仕入れは500円ですよ社長〜』
とタクヤくんはパソコンでサイトの編集中のようで、HTMLでプログラミングした画面を見ながら質問をぶつけてくる。
『例えば覚せい剤なら始めの分は格安だったり下手すりゃ無料なんよ。ゴメオは覚せい剤ほど依存性はないから無料にしてもどうかと思うけど、このサイトの知名度を広めるには安くしとけばえーと思うんやけど…』
いわゆるビジネスの基本のような事を交えながら僕に考える余地を与えつつ質問を繰り返す。
『そういやヒデくんは偽大麻の価格設定はどうしてたっけ?』と大いなるヒントを与えてくれた。
相場が5千円なら例えば半額くらいにしておけばうちで買ってクラブで手売りする人もいるだろう。そうすれば勝手に売り捌いてくれるなぁと。
いやまてよ、仕入れが500円だし、サイトの知名度拡大キャンペーンとして最初はとにかく安く売っとけば口コミも期待できるし、固定客も付くかな。固定客がうちのサイトをブックマークしてくれれば多少値段を上げても離れないかな、と考えられるようになった。
タクヤくんに他のサイトではいくらで売ってるか見てみたいと伝えたところ『サイトでも実店舗と同じ5千円です』とのこと。
その
そこで僕は1,500円を打診し、顧客が着いたら徐々に3千円まで値上げする事を伝えた。
僕らの通販サイトには淡々と商品名どんな効果があるのかとか効果の内容を軽い説明文にして載せた。タクヤくんのアドバイスで禁忌(やってはいけない摂取方法)も載せた。
意味はわからなかったが、タクヤくんがサイトの仕組みを教えてくれて、サーバーにファイルをアップロードした瞬間『社長!開店おめでとう御座います!』と言いながらガムテープをビーっと伸ばしてテープカットの真似事をした。
晴れて合法ドラッグのECサイトが始まった。
このサイトを運営するにあたり身を隠すため、誰かの名義の携帯電話番号と銀行口座を使っている。銀行口座の名前は”鈴木鶴"というおばあちゃん系の名義だった。もちろん暗証番号もわかっている。
在庫ははしもんくんがアメリカから大量に取り寄せたそうで、はしもんくんが在庫担当、サイトの管理はタクヤくん、社長と称して営業のようなのが僕だった。
これでまたシノギができる!と思っていたが、しばらく閑古鳥状態の我社。なんの注文もない。仕方がないからタクヤくんとクラブへ行き、手売りすることにした。
タクヤくん曰く細心の注意を払って声をかけないと、すでに仕切ってるプッシャーに見つかったら殺されるとのこと。話し合った結果、クラブの外で売る事にした。
つまりアメ村の三角公園付近。今からクラブへ行きそうな人を見つけては合法ドラッグありまっせと声をかけていった。
あまり合法ドラッグが浸透していなかったせいか、度々どんな物かを質問されるハメに。お陰で声が枯れたが持って行った20個すべて売れた。
帰りの車内では、よくある質問や、使用上の注意、携帯電話とサイトのURLを添えた紙を添付するという計画を練った。今回の路上販売では3千円だったが、ネットなら安いよ、とサイトの利用を促す魂胆だ。
そんな事で金曜土曜は路上で草の根販売を開始した。
タクヤくんは家で待機するという事で、はしもんくんのレビンを借りて大阪へ向かうことにした。
気付いたら一人で僕は何をしているのだろうと考えながらダサい白レビンをバリバリ無免許で走らせた。
前回同様、三角公園付近でそれっぽい人にとにかく明るく声を掛けていく。なにゆえ治安が悪いもんでいつ戦闘に巻き込まれるかわからなかったので、なるべく女の子を中心に声をかけるようにした。
しかし人の入れ替わりが少ないのとあまり興味を持たれないので、ここは一つクラブへ行って売ることに。
いつものクラブへ入るとノリノリなトランスが僕を踊らせる。しかし目的はお薬の販売。まるでナンパするように耳元で囁きまくった。
『合法ありますよ!?どないです?3千円!』と声をかける。
そこはさすがクラブ。どんどん売れていく。用意した説明書兼販促チラシも渡すとみるみる千円札が僕の財布を太らせた。
持っていた在庫が売り切れてその日は終了。サクラのバイトよりも全然稼げる。ウキウキ気分で環状を周回して帰った。次はもっと持っていかなあかんなと。
タクヤくんの部屋で結果報告をすると『クラブの中はやばいって。せめて神出鬼没的に場所変えなほんま殺されるで』と怒られた。念の為に明日は行かないこととミリタリーショップで警棒なりスタンガンなり護身用品を買えとアドバイスをもらった。
ナイフは出したら刺し殺すまでやっちゃうからナイフはあかんとも警告された。
はしもんくんの家で在庫を受け取ると『そのままずっとレビン乗っといてえーよ。好きに使って』と言われ、願わない愛車となってしまった。
ついでに10万で買ってくれとも言われたがあんなダサい車に10万も出したくない。
翌日タクヤくんから注文が入ったから発送してくれと言われ、タクヤくんの部屋で発送について教えてもらった。
ついでに思いつきで各ドラッグの体験レビューを"ねつ造"して載せてもらった。
説明文も充実させて、効果が☆の数でわかるようにした。例えば多幸感☆☆☆★★のように。
さらにそのサイトの利用者用の掲示板も追加してもらった。ここで利用者同士で勝手に情報交換してもらえれば購買意欲もわくはず?
掲示板はサーバーだかの負担が増えてどーたらこーたらCGIがなんたらで…と、小難しい単語を浴びせられ、やたら高い金額を要求された。
しかしそれが功を奏したのか、掲示板に体験談や質問が寄せられて、それを見た知識人が勝手に返信してくれて賑やかさが訪れた。
それと共に注文もちょこちょこ入ってくる。
理想としてはネットの注文だけでやりくりしたいが、まだ納得の行く売れ行きではないので、ミリタリーショップへ行き店員さんおすすめの安くて良い警棒を買、キモいレビンで大阪へ向かった。
タクヤくん協力のもと、どこにクラブがあるとか、クラバーがどこ辺りに集まるのかを書き記した地図を持ち、キモいレビンでうろついていた。
場所や時間によって売れ行きに差があったりするから、客としてクラブを楽しみ客層を観察した。
一人でうろうろしていると、女の子が声をかけてきた。『ひとりなん?』よくよく考えると一人でクラブに来るなんて当時は珍しいというか、ボッチ過ぎる。だから嘘をついた。『あー、今はね!さっきまでツレおってんけど女の子と消えてったわぁ』
すると女の子『あたしもやねん!遊ぼーや!』やったぜ!これはヤリカクや!
僕の瞬間湯沸かし器型ロケットは爆発寸前。とにかく早くホテルに行きたい。クラブを出てホテルに誘う。土地勘がないからイチャイチャしながらホテルを探し、適当にインした。
そこはまさかのクソボロホテル…。時代錯誤の昭和風なホテルで、フロントにはポタポタ焼きの婆さんがいた。まぁそこは目をつぶり、部屋へ行くがどうしても70年代感が否めない。
完全に選択ミスだったと言うことをポジティブに捉えながら事を終えた。
そこでお互いの名前や年齢や住みを話した。そのコは僕より4歳上のマユちゃんという名前だが、ひとり暮らしのアパートは僕の家から近かった。これは神が与えた運命だからこんなボロいホテルからズラかろうって事で高校生にして車を運転して来ているという衝撃をマユちゃんに与えつつも環状線を爆走して彼女を家に送った。
それから毎日マユちゃんからメールが来るし、会いたいと言うからラッシーとずっしにも紹介してチヤホヤされたり、タクヤくんにも紹介してみんなでドリフトに行ったりして交友を深めた。
ちなみにタクヤくんたちと同い年だ。ヤッカンくんは僕の目の前でマユちゃんにひどいセクハラするのが凄く嫌で、それに気付いたタクヤくんがほんとに怒ったりでちょっと申し訳なかった。
ちなみにマユちゃんは本当に音楽が好きで一人でクラブに行くコで、家には僕の知らないゴアトランスなるサイケデリック感マシマシのCDがいくつかあった。
これはまさかと思いマユちゃんに合法ドラッグの経験があるのかと聞くと、めっちゃ興味あるけどやったことないとの事。僕が自称IT系合法ドラッグ界のドンである事を隠しておいて『ゴメオやったら持ってるけど僕もやったことないねん、一緒にやる?』と恐る恐る尋ねると、それどうなるん?と言うから音楽がレーザーになる等の効能を説明すると、やろやろ!とノリノリだった。
マユちゃんのアパートでは音問題があるので、あの白キモいレビンが一生無縁であろうラブホテルのカーテンをくぐらせてやった。
ホテルの駐車場内をキモいレビンの4AGの排気音が埋め尽くす。
とりあえず空室の中で一番安い部屋のボタンを押し部屋へ向かった。
マユちゃんにはゴメオの注意事項を十分に言い聞かせ、バットに入らないようにと持参したラジカセにサイバートランスのCDをセットしたら1つのパケをハンブンコして、ホテルへ行く途中にコンビニで買っておいた大きいペットボトルのアクエリアスで流し込んだ。
ヤッカンくんの言った通りクソ不味く、その味はコンクリーティーで化学合成工場の配電盤の中に顔を突っ込んで鼻で息をしたときのような味がした。
それだけでバットが入りそうだったからマユちゃんの金髪シャギーとぱっちりした二重とサンラウンジで焼いた綺麗な肌でアゲアゲモードにしようと彼女の顔を見たら、僕のゼロヨン仕様のGTRが暴走してゴメオなんて忘れてしまってマユちゃんの濡れたハイウェイを滑走した。
ホテルにはホテルでしか見ないタイプのスナックの内装みたいなデザインのコンドームが2つ添えられていて、16歳の僕は3点バーストのマシンガンなわけで足りるはずがない。
ブカブカと満点の星空の流星群のように腰を降っていたら僕の腕を掴みヘロヘロな声で『トイレ…』と呟く。
さぁ始まった。
いわゆる通過儀礼だ。
僕の膝はマユちゃんの汗でペタペタになり、マユちゃんは声を出さずにブレスレットをジャリンと鳴らし、手首を口の前にして今にも泣きそうになっている。
僕は咄嗟に『お!通過儀礼始まったね!OKOK!これから効いてくるねぇ♪』とあくまでもポジティブに振る舞い、大きなアクエリアスを持たせてトイレへ誘導させた。
僕はアソコをロケットにしたままマユちゃんの香水であるエンジェルハートの残り香に身を委ねていた。
なんとなく前髪を掻き上げると手の残像がしばらく消えない。あれ?と思っていたらどんどんと手の残像が残っていく。おおお、これがヤッカンくんが言ってたやつか!
おおお!
そして僕のロケットを触ると確かにカチカチ!彫刻のような硬さだ。うほほほ、キタキター!と思っていたら僕も通過儀礼が始まった。
トイレは一つしかない。
困った。一応フロントに行けばロビーにトイレはある。しかし今の状態で誰かと会うと緊張や勘繰りでバットに入りそうだった。
そこで頭がおかしくなりそうだが僕は我慢した。
肛門がありえないくらい内容物を外に出そうとするが、ラジカセのトランスに集中するため音量を上げた。
マユちゃんは何度も何度もトイレの水を流している模様。
耐えれない耐えれないと思いながらテレビを観たりするが我慢できない仕組みになっている模様で、仕方ないからマユちゃんに便座を譲ってもらった。
座るなり、漫画のようにブリュリュリューっと勢いよく出ていった。
そんなこんなで通過儀礼をブリッと出したらキラキラ輝く"トイレその後に(消臭剤)"を噴射し、シャワールームにて虹色に輝く聖なるお湯でお尻をキレイにして、残像がすんごいタオルで拭き上げる、という動作をお互い繰り返す。気がついたらトイレその後にの作られたすっぱいデジタルレモンの香りでホテルの部屋が充満している。
そんな腹痛は一度おさまってしまえばこっちのもので、ゴメオで覚せいした若い二人は体を求めあった。
驚いたのが僕がマユちゃんの体に触れるだけでキュンと反応すること。それが腕だろうがふくらはぎだろが背中だろうが。
ヘロヘロのマユちゃんはウララララ〜と悶え、キラキラの愛液をぽたぽたと垂れ流す。
何度もサイバートランスのCDはリピート再生を繰り返し、ずっとずっと残像とレーザービームと虹と星と温かい柔らかい世界で絵の具のように混ざり合っていた。
そんなのも3時間以上経つと落ち着くもんで、気がついたらお互いぼーっと深夜番組を観ていた。
その日は朝方にレビンで幻覚と現実を見極めながらマユちゃんを家へ送り、僕も帰宅した。全然眠れないままだったので夕方地元の先輩から大麻を買い、吸って寝ることにした。マユちゃんはというと、自前の睡眠薬で眠ったらしい。
その間タクヤくんから売れた物を郵送してくれよと催促のメールが来ていたが、マユちゃんとゴメオする旨を伝えると、気を利かせて発送してくれるようだった。報酬はガスト食べ放題で手を打った。
大麻で爆睡を決め込んでいると、携帯電話がガタガタと震えて目を覚ました。
気がついたら17時間くらい寝ていたようで、寝起過ぎて疲労感が凄かった。携帯電話の画面を見ると、ラッシーからだった。
かけ直す前にメールを見ると『コンノくんがお前のこと探しとーで』という趣旨の内容だった。コンノくんは僕の一個上で、中学時代の卓球部の先輩。卓球部といっても我が母校のそれは少し特殊で、半数が本気で卓球部をやる人間、あとの半分は遊び目的で部室に溜まるために所属している人間で、主な活動はおしゃべりや喫煙だった。
もちろん僕は後者の方だったが、部活に入りたての頃に2年生のリーダー的なコンノくんに部室の用具置き場(主に溜まりになっていた)に呼び出され、ボクシングの相手をさせられた。これはこの頃の1年生の洗礼となっていた。
コンノくんは細身で背が高く、小顔で目と耳が大きくどう見てもサルから進化した人間だった。ずっと偉そうで命令口調。ちょっとでも返事が遅いとすかさず攻撃的な言葉を投げてくる。
コンノくんのことはみんな嫌っていたが、1コ上のヤンキー軍団の一軍にいたため、みんな言われるがままされるがままだった。
もちろんコンノくんは2年生の真面目に卓球をやっている先輩ですら呼び出し、僕とボクシングのマネ事をやらす。こんな状況の時、他の同級生たちは優しいので手を出さない。手を出さないとコンノくんに殴られる。僕は天才なので、前もって先輩たちにその状況になったらダメージを受けたフリをしましょう、殴ったフリをしましょうと提案して難を逃れていた。
そんなコンノくんはあろうことか僕の進学先の高校にいた。いわばここでも先輩だった。言っていなかったが僕の高校は超エリート校。卒業後の進路としては、フリーター、その日暮らし、暴力団、刑務所が主だった。
そこでもコンノくんは先輩風を吹かしまくり、僕達下級生にも一目置かれていた。
そんなコンノくんが僕を呼び出した理由だが、実はマユちゃんとホテルへ行く道中で大きいアクエリアスとタバコを買うために立ち寄ったコンビニでコンノくんと出くわしていた。僕はコンノくんがやはり嫌いなのと、白いキモいレビンを見られたくなかったので適当に挨拶を交わしそそくさと退散した。どうやらコンノくんはその態度が気に入らなかったらしい。で、ここは推測だがかわいい彼女を連れていることに嫉妬があったはずだ。
コンノくんは僕が携帯を持っていない頭になっているため、ラッシーづて僕を呼び出せとなったらしい。あいつは調子乗ってると憤慨しているとのこと。全くアホだ。
ラッシーはコンノくんに囚われの身になっているらしく、どうも含み口調から彼の本音も伺える。
僕はその電話だけでブチ切れてしまい、その場所を聞き出す声だけでその怒りが伝わった。ラッシーは小さく早口で『謝ってな、あかんで、あかんで、』と言い電話が切れた。
こんなのも全部バカバカしいし、ヤッカンくんに比べたらクソ小者だし、こんなのに怯える事も無駄に思えた。
近所のヤクザのラーメン屋のおっちゃんから教わったケンカ術が心に響く『ケンカはな、負けを認めたらあかんねん。どんなに相手が強くても何度も立ち上がって殴りにいけ。そしたら相手もこいつややこいなぁってなって次から大人しぃなるから。俺はいつもそうやで』
この言葉を僕なりに解釈し『負けても一発入れたらOK』を当時の格言にしていた。実際僕は体も小さいし、ケンカも弱い自覚があったから、絶対に強い相手としかしなかった。
もし弱いであろう人とケンカして負けたら人権がなくなる。例え強い人に負けてもそらそうだろなと周りは思うはずだからステータスは下がらないと信じていた。
実際仲間内のケンカでリーダー格のノジちゃん(ケンカ屋で背も高く筋肉質)とやった時はマウントを取ったし、その一件で一目置かれたことがある。
コンノくんのいる溜まり場までエンジン全開のレビンで駆けつけた。車を持っていることを知らないコンノくんとその同級生3人とラッシーは驚いた顔をしているが、コンノくんは開口一番『なんでお前ヤン車乗っとんねん』と言い放ち僕の正面に立った。僕は怒り過ぎて言い返すこともできずにコンノくんを睨みつけ近寄ると、グッと胸ぐらを掴まれた。
僕はレビンで向かう道中、ヤッカンくんのケンカの話を自然と思い出していた。ヤッカンくんが坊主なのはケンカで勝つため。髪が長いと掴まれてシバカれる。ピアスも引っ張られると痛い。サングラスをかけていると殴られるとめっちゃ痛いし、ネックレスは掴まれると首を持っていかれる。だから俺はアクセサリーを着けないと言っていた。
そこでヤッカンくんの護身術講座が始まって、実践の練習もしていた。そこで得たヤッカン師範の秘伝の技をコンノくんにお見舞いしてやろうという気でいた。
コンノくんは僕のTシャツの丸首をグイグイ締めて『お前ほんましばくぞ』と顔を近付ける。もう手を出したら後には引けないし…と考える間もなく両手でコンノくんの髪を掴んで頭を下にして膝蹴りをなるべく早く何度も側頭部を狙って繰り出した。
僕が有利な状況ではみんな見てるだけ。心の声で『やってまえ』と聞こえる。
そのあとどうしたか忘れたが気がついたらコンノくんは鼻から大量の血が出てコンノくんの白いスタンスミスが血まみれになっていた。おそらく1分か2分ほどの格闘だったが二人とも息が切れて肩で呼吸をしていた。
それでも最後に“腹をビンタで殴れ、みぞおちをビンタで殴れ”というヤッカン師範の天の声が聞こえたのでそれを遂行したら、ストライクゾーンに入ったようでゥ゙ーーーっと唸り、腹を抑え辛そうに悶えだした
。コンノくんが『ぃ、ぃ、息でけん…』と言うと僕のスイッチは平常モードに切り替わった。
それを無言で見つめながら平常を取り戻すべくタバコを吸った。みんなはこっちを見て黙ったまま。
そういやそのあとどうすれば良いのかヤッカン師範は教えてくれなかった。でも過去のコンノくんの悪行や、ヤンキー軍団の報復も怖かったからなんかもっとやっとかないとやばいなと考え、そういやレビンに警棒があったなと思い出し、レビンの助手席のグローブボックスから警棒を取り出し、コンノくんの前に向かった。
さすがにラッシーが『お、おい、もうヤメとけって』と言うと、コンノくんの目の前で警棒をジャキッと伸ばし、眉間に先端を近付け『次は殺しますよ』とフリーザ並の敬語で忠告した。
あまり喋らないほうが良いなと勘付きそのままレビンの方に足を向け去る方針を選択した。
で、僕の心の中では、やったぜ!勝ったぜ!という気持ちと何人かの先輩ヤンキー軍団の顔が浮かび、その報復対策の答えが全く出てこないことに恐怖を覚えた。
(後で気が付いたことだが、この時僕は異様にブチギレでいたのは、おそらくゴメオが抜けたせいでキレやすくなっていたのだ)
警棒を短くする方法がわからず長さMAXのまま助手席に放り投げたらそのままタクヤくんの家に向かうことにした。
とりあえずブックワンの駐車場にレビンを停めラッシーには今どんな状況かとメールを送ると、電話がかかってきて『お前やばいな、めっちゃ怖かったわ』と緊張と興奮が合わさった声で僕を称えてくれた。
先輩軍団はそのままコンノくんを家に送ったらしい。
さらにレビンの運転も褒め称えてくれた。ちなみにラッシーの方が僕よりケンカが強いから、ご覧の通りコンノくんは雑魚だから今後ムカついたらボコボコにしようと洗脳もしておいた。
タクヤくんにアポを取り、家に行くと大量の封筒が用意されていた。『おいおい社長ちゃん頼むで〜。発送が追いつかんですぞ〜』とおどけていた。
そんなことはさておき僕は先程1キルしているのでその興奮と感動をお伝えし、マユちゃんとのゴメオ体験もレポートした。
その話を咥えタバコでパソコンに向かいながら『そっかそっか』とえびす顔で聞いてくれた。
ところで商品の在庫がないらしい。そこではしもんくんがどのようにして商品を仕入れているか、はしもんとの関係を詳しく聞いた。僕らが扱っているゴメオ等の合法ドラッグは、合成済みの商品を買うのが一般的らしいが、それだと値が高く付くのではしもんくんが材料だけを仕入れて日本で合成しているそうだ。
だから安いとのこと。
また、仕入れは船の輸送を使うから送料は安いが到着まで数ヶ月かかるらしい。
空輸だと物によっては税関で没収される可能性があり、送料も高いとのこと。
そこでタクヤくんがある提案をした。
このままだと数ヶ月間いつサイトを見ても売り切れになってしまう。そうなるとお客さんはサイトを見なくなるだろう。アクセス数が減ると売れる数が減る。
だからメーリングリストなるものを用意して、"◯◯が入荷しました!ご購入は早めに!"と一斉送信し、入荷後即売切れました!ということにして購買意欲を維持しようという作戦だ。
ではそれをやりましょうと伝えると、システム構築代をくださいと言うので、そういえば銀行口座にはいくら入ってるか見ていなかったことに気がついたのでコンビニATMへ行くことにした。
コンビニまではレビンで行こうという話になり、助手席の伸びたままの警棒を見てタクヤくんは『世紀末やなこれは笑』とツッコミを入れた。そういえば縮ませ方がわからない旨を報告すると、先っちょを地面に向けてトントンとするがなかなか縮まない。思いっきり地面を突いてやっと元の形に戻ったが、ゆっくり伸ばすと地面を突いた衝撃でクネクネに曲がっていた。
次はもっとえーやつ買わなあかんなとタクヤくんは助手席で警棒をクネクネして遊んでいた。
コンビニに着くと二人でATMにキャッシュカードを入れ残高を確認すると38万円とちょっとの文字が出てきた。タクヤくんは携帯の未送信メールをメモ代わりにしているらしく、それと照らし合わせて問題ないことを確認。次からは毎日確認するようにと念を押された。どうやらコンビニのATMでは20万円しか引き出せないらしく、とりあえず20万円を引き出し財布に入れた。
レビンに戻ると大金は財布に入れるな、ポケットに入れとけと忠告された。財布を落としたと仮定して、(財布を見つけた人は)財布=お金が入ってる=ネコババされる、という理由らしい。
とりあえず新しい警棒を買いに行くぞということで、閉店時間まで迫ってるからタクヤくんに運転を代わり爆走してくれた。タクヤくんのランエボ4は280馬力、対してこのレビンはたぶん150馬力くらいで僕としてはクソ遅い車だと思っていたが、タクヤくん曰く、レスポンスもえーし軽いし速いな!と感動していた。
しかしヌケヌケのサスペンションは段差を捉えるた度にカフカフカフカフ…と貧相な音を出しユラユラ揺れるし、不規則的に後ろの方からカンカンカンと音が出る。この車は後ろに修復歴があって、適当修理のため溶接が剥がれて鉄板同士がカンカンとブツかっているらしい。
あとなぜか真っ直ぐ走らないのだ。ハンドルもずっと左に傾いている。
しかし、はしもんくんのゴッドハンドで手入れされたエンジンだけは快調のようだ。はしもんくんはこの車を亡くなった漁師のお父さんの保険金で買ったようで、しばらく乗っていたがどうやら飽きたらしい。だから僕が独占して乗っていても気にならないとか。
ミリタリーショップに着くとタクヤくんがクネクネの警棒を取り出し、伸ばして縮めただけで曲がったという経緯を伝えた。そしたら新しい同じものがないので返金しますよと前向きな対応だった。
それなら新しい別のやつを買うから値下げしてくれないかと交渉してくれて、これまでとは違う太い重い、なんとかバトンとか言うアメリカ製の特殊警棒をおすすめしてきた。
確認も兼ねて店員さんが慣れた手つきでシュッと伸ばしクルッと回転させてサッと収納させた。よく見ると店員さんは地味なオタク風だが腕が太くて体格が良い。
それから店員さんが手取り足取り嬉しそうに警棒の使い方やウンチクを教えてくれた。基本的に相手を打ちのめすのではなく、伸ばして威嚇するようにして使うらしい。ってことは奇跡的に僕はコンノくんに対して正しい使い方をしていたようだ。
値引きしてくれた上にクネクネになった方も差し上げますよと言われ、そんなのいらないのにタクヤくんは嬉しそうにしている。
タクヤくにはサイトの制作料や管理費など一部支払ってガストでご馳走した。そのときは上機嫌でいつもより多くお酒を飲みベロベロになっていた。僕のドリンクバーを使ってワインにコーラをカクテルしてみたり、ビールにファンタを入れてみたり。
しまいにはガストのアルバイトの真面目そうな地味な女のコをナンパしたり大変だった。んでなぜかそのコはメアドを教えてくれた。僕は終始『すいませんすいません(汗)』という態度であったがそのコはまんざらでもなかったようだ。
レビンの助手席でスーパーユーロビートのCDを爆音で流し、知りもしないパラパラを踊ってフーフー叫ぶタクヤくんに呆れながらやっとの思いでタクヤハウスにぶち込んだ。
部屋に戻るとお母さんがバカでかいアサヒの缶ビールを持ってきた。うろ覚えだが1Lほどの容量の物。それとQooのペットボトルとスナック菓子多数。『まぁゆっくりしていきや』と言葉を残され、僕は絶望の淵に立たされた。
こんな酔っぱらいといるよりマユちゃんと会いたかった。
マユちゃんには時々状況を伝えていて、タクヤくんがエセパラパラをしているときには『もうすぐ帰れそう』と言っていたのに申し訳ない。
タクヤくんはヒデかわいいなぁ〜と口をチューの形に近づいてくる。僕はそれを必死に交わしながらグランツーリスモでカルソニックスカイラインを走らせていた。
気が付くとタクヤくんは寝ていたからグランツのキリが良いところでオイトマしようと考えた。お菓子やジュースのほとんどに手を付けてないが、ガストの後にこれはキツイ。
気がつけば土日祝日と金曜日の夜はマユちゃんかタクヤくんたちといることが定番になった。ラッシーはバイトと彼女、ずっしはパチスロとPS2と、生活リズムにすれ違いが生じてきた。ところで僕はコンノくんをイワしたことが地元と高校で噂されてランクがちょっぴり上がっていた。
しかもヤッカンくんとツルんでいることも同じように話が広まっていて、ヤッカンくんといえば先輩の先輩たちの間ではケンカ最強として名が知れ渡っていたそうで、そこにきっとラッシーがネホリハホリこっちの都合の良いように話を付け加えてくれたこともあり、より快適なパーソナルスペースが確保されつつあった。
ある休みの日マユちゃんと、僕らの地元のヤクザがやっているラーメン屋へ行った。ここのおっちゃんは元ボクサーとかでそれからヤクザをやりつつラーメン屋をしていて地元の子どもたちにはタダでラーメンや餃子を食べさせてくれた。
高校生の今でもタダで食べさせてくれるハズだが、ラッシーがそれは悪いやろということでお金を払って食べるようにしている。
店に入るとラッシーのお父さんがいた。このお父さんは冒頭で説明したが大物ヤクザだ。どれほどの地位かは知らないが、焼肉屋やステーキハウスを何店舗も仕切っており、2、3年に一度ほどのペースで新車のセダンに乗り換える。お母さんの車の方は遊び心があり、GT‐RやRX-7とかの国産スポーツカーやらゴルフやPTクルーザーのようなおしゃれ外国車とか、見ているだけでも楽しい。
いつものようにカウンターに座ると僕の右側にいるラッシーパパが『おー!彼女か!えらいべっぴんさんやなぁ!今風の!』と反応した。どうも空のビール瓶が数本並んでいるところを見るとそこそこ酔いが回っているようだ。
それに気付いておっちゃんも『お!ヒデも大人になったんやなぁ〜』と成長を喜んでくれているようだった。
しかしラッシーのお父さんは手強い『ちゃーぅわいなぁ。こいつ手ぇ早いで!もっと前に大人やで!この前のコぉどうなったん?あのコ!?』と、この場にもっとも不必要な質問をした。
すかさずおっちゃんは『そんなコおらんやんなぁ、なに言うとんのたっちゃんー。ビールで頭おかしなっとんやで〜。しかし君べっぴんさんやなぁ!』とフォローしてくれた。
ラッシーのお父さんは何もなかったかのようにテレビを見つめている。ほおずえしている指には太くて金色のやらしい指輪とギンギラギンのロレックスが存在感を示していた。
ラッシーのお父さんは僕の方を見て、タバコくれやとカツアゲ。箱から一本だけニョキッと出してどうぞと差し出すと『ラークかいなぁ』とイチイチ文句をつける。
右手でタバコを抑えながら口で咥えて何かを待っている。そう、火を付けろと。僕は察して持っていた百円ライターをタバコに近付け火を付ける。
すると『お前ぇ…アホか』と凄んでくる。
『まずな、赤のライターは絶対あかんで!赤は挑発の赤や。ほんでな、自分の前で火ぃ点けるやろ、ほんでタバコの方に持ってくねん。』そんな教育を受けるとおっちゃんが『おい、たつぅ〜、ヒデを子分にでも取るんかぁ?笑 いらんこと教えらんでえーでぇ。えーとこの子やねんからなぁ』と願ってもない状況からおっちゃんが助けてくれた。
これはつまるところヤクザのルールなんだろう。
ラッシーのお父さんが真っキンキンのライターを渡すと片手でタバコを持ち咥えながら僕を見る。どうみても言い訳の効かないドヤクザ感がやばい。
言われた通りライターに火を点けるべく蓋を開けると"ンカキンッ"と高い音が出た。横向きの砥石を回して火を灯すとそっとタバコに近付けた。
ラッシーのお父さんはフーっと煙を吐くと『ご苦労』と呟いた。そしてライターを取り上げ僕のタバコの箱の上に置いた。
僕の左いるマユちゃんの方に目を向けるとニコニコ微笑んでいる。
できたてのラーメンを二人でもぐもぐ食べてるマユちゃんが『めっちゃおいしいです!』とおっちゃんにしっかり伝えた。ここの醤油ラーメンはめっちゃおいしい。おそらく隠し味にニンニクと何かを忍ばせている。今でもここよりおいしい醤油ラーメンを食べたことがない。むしろ他の醤油ラーメンをおいしいと思ったことがない。
僕はマユちゃんを軽く紹介して、くだらん質問をする迷惑系ラッシーパパの話をおっちゃんがすべてフォローしてくれた。
大きなゲップをしたらラッシーのお父さんは真っキンキンのライターを置いたまま店を出ようとするから『忘れてますよ』と言うとお前にやるわと。その代わりその失礼なライターは捨てとけよと言い放つとどう見ても高価な物なので遠慮していると、おっちゃんは厨房から笑顔で『気持ちよくもろとき!』と言ってくれので、感謝の言葉を述べていただいた。
ラッシーのお父さんが店を出ると、ライターの蓋を開けたときの音が気持ちよかったので"ンカキンッ!"カシュ "ンカキンッ!"カシュ と何度か開け締めを繰り返した。マユちゃんにもこの感触を体感してもらいたいから、ほいっと渡すと両手で蓋を開けようとしてなんとも不器用な仕草が可愛さを増した。
おっちゃんがここで『えーか君ら、奢ってもらった時とか物をもらった時はな、素直にありがとうございます!言うてもらうんやで!これから一生な!』と、とても大切なことを教えてくれた。
そしたら頼んでないギョーザとコーラがでーんと出てきので『ありがとうございます!』と言っておいしくいただいた。
その次の日の昼頃、タクヤくんから電話がかかってきて、商品が入荷したのかな?と思い出てみると『ヤッカンから電話あっても出たらあかんで。ラッシーくんらにも言うといてな。今晩いつもの港に来て。最悪ヤッカンにおーてもこの話秘密やで!』と言って電話が切れた。どうやらなんかあったらしい。
ずっしはなんとか無双とか言うPS2のゲームをやらなあかんらしく断られ、ラッシーはバイト終わりにレビンで拾った。そういえばラッシーはこの日初めて僕の運転に乗った。終始『レビンいかついな!とか運転上手いな!』を繰り返し僕の気持ちをアゲてくれた。例の港のいつもの倉庫前には見覚えのある青のローレル、白のR32タイプM,黒のシルエイティ、タクヤくんの青のエボ4、初めて見るノーマルのSM-Xと音楽に合わせてネオン管がピカピカする張り出しエアロにカスタムされたキューブ、サーファーヤンキーのようなクリアテールのアベニールが停まっていた。
自己紹介を済ますと『君がヒデくんか!はしもんの車からヤンキー出てきたわ笑』と少し茶化された。みんなロン毛とか金髪とかでガラが悪い。
一通りメンバーが揃ったところでタクヤくんが事情を説明した。要約すると国道で事故が起きていてそこにはクラッシュしたであろう軽自動車とヤッカンくんのフロントガラスが割れたS13があったそうで、パトカーや救急車が集まっていたらしい。それを目撃した人がタクヤくんの友だちだった。
時を同じくしてヤッカンくんが切羽詰まってツダくんに車を貸せだのしばくぞだのと連絡を寄越したらしい。ツダくんが事情を問うと、えーからお前どこおんねんと怒鳴り散らしたらしい。ツダくんはたまたま友だちと車で大阪で遊んでいたらしく難を逃れたとか。
どうもヤッカンくんは"コオリ"なるものをやっていたのではと言う話で、だとしたら危険だからどうするか、巻き込まれないようにするにはどうするか、というミーティングだった。
そういや以前タクヤくんが教えてくれた薬物講座で覚せい剤のことを"冷たいの"とか別名があるとか言ってたことを思い出した。
あんな筋肉男が、しかもケンカ最強として名を馳せる人間が覚せい状態なら危なくてしょうがない。
話の流れでここにいるのも危ないよなって事になってアベニールの兄さんがそれならえーとこあるで、どのどのの場所でで、と説明するが誰もピンと来てなくて、結局アベニールの兄さんが先頭を走るから着いてこいとなった。
ゆっくり港から出ると、ンボーッとアベニールのアクセル全開音がする。それに続いてキューブとSM-X、ドリフト軍団、僕のレビン、タクヤくんのエボの順で出発した。
バカみたいにカッ飛ばすもんだから僕のボロボロのレビンは着いていくのに必死で、しかも2国を全線信号無視で滑走するもんだからお祭り騒ぎ状態。途中、通りすがりのVIPカーやシビックや普通の車もそのお祭りに参加して一緒に大爆走する。僕も横に乗っているラッシーもテンションアゲアゲ。
この前酔ったタクヤくんがエセパラパラを踊ったスーパーユーロビートのCDのボリュームを上げて恐怖と緊張感と興奮をうやむやにした。
こんなのパトカーに見つかったら逃げるしかない。
2国から住宅街を抜けて見知らぬ峠道に差し掛かった時、ドリフト軍団が僕の目の前で白煙を上げてドリフトしながらホーンをプップップーと鳴らしてひっちゃかめっちゃか。もうこの状況を楽しむしかない。
目的地が近いのかスピードが下がり森の中にある建設会社のダンプ置き場のような砂利の駐車場に到着した。
適当に車を停めるとみんなプルプル震えながらタバコを吹かす。おそらくみんなも僕と同じ心境なのだろう。僕はこのときマユちゃんの胸に顔をうずめたい気分だった。
なんのためにここへ来たか忘れたように今日初めて会った人たちが僕の知らない人の話で盛り上がり始めた。僕とラッシーは愛想笑いしながらタバコを吹かす。そういえばラッシーのお父さんからもらったライターの話をラッシーにしたら気付いていたようだ。
そんな話をしていたら今日初めて会った兄さんが『それデュポンのライターやん!シッブゥ!』と興味を引いた。
そこで僕らが16歳であることを初めて知ったようで、みんな驚いていた。ずっと18とか19とかだと思っていたらしいく、16歳ではしもんくんのレビンを操る僕は期待のホープとして崇められた。
しかもラッシーのお父さんはデュポンのライターをガキにくれたヤクザとわかると『どこの組の人なん?』という話題になった。
ラッシーは父がどこの組なのかは知らないらしいが、◯◯という組長さんとご飯に行ったとかのエピソードを話すとラッシーくん名字って何?という展開になった。◯◯ですというと、まさかあの◯◯さんの息子…?と。タクヤくんも驚いていた。
僕らはよく知らないが有名人らしい。ツダくんも驚いていて『ほなラッシーおったら最強やん!』という流れになり、ヤッカンくんに絡まれたら助けてもらおうやという結末に至り安堵した。しかしタクヤくんが『助けてもらうなら大金いるやん』と言うとみんな肩を落とした。
そういやラッシーのお父さんはいつも携帯で金がどうたら用意しろだのブチギレてるからタクヤくんのその一言はやけにリアルだった。
万が一の話としてタクヤくんが打診したのが、もしヤッカンくんに捕まってどうにもならんかったらバレないように110番しろと。それだけでどこからかけているかがわかるし、会話の内容から察して警察が来るはずだとのこと。
タクヤくんはまじでなんでも知っている。
そこから今日会った人たちと交流して和気あいあいの雰囲気となり、ヤッカンくんの悪口大会が開催された。
借りた金を返さない、紹介した女をゴミ箱に捨てた、酔っ払って肩パンならぬ胸パンされてアバラが折れた、人のレンタルカードを使ってツタヤで延滞料金を通り越して数万円分を買い取りさせられた、笑いながら実銃で足元を撃ってきたナドナド…みんなおもしろおかしく話すからそんなに悪い感じに思えなかったが冷静に考えるとかなりヤバい。特に最後の。
そんな人だから僕ら歳の離れた後輩はどんな嫌なことされたのかという話になり、僕はせいぜいゴメオで固くなったアソコをツンツンさせられたくらいだし、むしろジュースとかお菓子とかタバコとかを奢ってもらったり、ヤッカン師範のケンカ術の施しを受けたように、特に変なことはされてないと伝えた。
みんな信じられないようなリアクションだったが、タクヤくんやドリフト軍団は『ほんまにそうやねん。はしもんとこのコらには優しいねん』と証言してくれた。
特にはしもんくんに優しい意味がわからないようだった。はしもんくんはずっとイジられっこだったようだ。しかしヤッカンくんはそれに参加していなかったらしい。
それでケンカ術ってどんなのを教わったのかの話になり、最近それで僕の嫌いな先輩をぶっ倒したあの技を説明した。そうするとみんな納得し、あいつ確かにやってたなぁと頷いていた。
その他にも心拍数を上げると頭の回転が落ちて単調な技になるから呼吸を整える方法、ケンカになったらとにかく早く攻撃を連打しろとか、距離を取れとか、胸ぐらを掴まれたら両手で相手の髪の毛を掴むとかピアスを引きちぎれとかサングラスを押せとか鼻を折れとか、側頭部や耳、みぞおちを狙うとか、グーじゃなくてビンタしろとかバットは振りかぶるんじゃなくて突けとか。
その他には白バイに追われたら轢いてしまえとか、なんでもかんでもいくつもあって思い返せばかなり情報は多い。
そんな話をすると確かにヤッカンはそんなことしとったなとみんな思い出に浸っていた。
そんな話をしていると誰かがネムなってきたというと『ほないのこか』となり、帰りはみんな大人しく帰った。
ラッシーを家に送り自販機の前でタクヤくんとゆっくりタバコを吹かしながらコーヒーを飲んだ。僕は『そういやあの人らを合法ドラッグの売人に誘ったら良かったすね』というと『あいつらアホやからつるまんでえーで。アホってわからんかった?』
まぁ確かに節々にアホ感はあった。
タクヤくん曰く、合法ドラッグの販売の軸はインターネットでやろうとのこと。いくらラッシーの父がバックにいようが関わるとややこしいとなった。
そして待ちに待った商品の材料が届き、はしもんくんが続々と製造していると連絡があった。
タクヤくんの部屋に行くと商品のラインナップを増やす旨を告げられた。それぞれどんな物かという説明してサイトデザインを僕にやれという。ルーズリーフの紙にはここに商品名、値段、説明、といったラフな絵を描く。
今さらながらショップ名がないことに気がついて、タクヤくんが本棚から”コピーライトの基本”や”商品はネーミングで売っていけ!”といったビジネス本を取り出した。
ペラペラとそれらの本をめくると『ショップ名はわかりやすい方がええねん。例えばいつも俺等がおる"ブックワン"なら名前聞いただけでも本屋ってわかるやろ?ショップ名って大事やねん。特にインターネットの世界ならヤフーで検索してから文字だけでサイトに来てもらわないとあかんからな。でも扱ってるのがグレーではあるから”合法ドラッグショップ〇〇”はキツい。あくまでも観賞用とか実験用とかで売ってるし、誤飲したらこんな効果がありますっていう説明にしてるからなぁ。んで決して誤飲しないようにって注意書きしてるし…』
僕は天才だが脳の引き出しは全く無い。そんな無い脳みそをフル回転させて"ケミカルクルー"にしましょうか?と呟いた。
するとタクヤくんは『お!、それええなぁ。いや待てよ。ケミカルはまずいかな?ん?でも語呂ええしなぁ』と言うことで迷いつつも決定した。
合法ショップケミカルクルー
あえて合法"ドラッグ"はヤメておいた。リスクヘッジだ。
それといくらメーリングリストで入荷してる風にしたところでお金の確約はないから、入荷が決定している商品は予約販売したいと提案した。それならさっさと入金があるはずだし、梱包と発送に時間がかけられる。
なるほどそれはえーなぁとなり、しばらくパソコンの前で何やら考えている。
その場合サイトに新しい機能を付ける必要があるから金を払えとのこと。まだサイトの制作料を払い切ってはいないが今回ので全額支払えそうなので、サイトの改装をお願いした。
プログラミングの関係で後日デザインができたら連絡するとのこと。
それから数日後タクヤくんから連絡があった。
確認すると、これまで文字だけだったが、ショップ名のバナーがあることでカッコよくなっていた。”予約受付中!” "全国発送!"の文字もチカチカして賑やかだ。
一通り動作確認も済むと、ファイルをサーバーにアップロードして『お待たせしました!ホームページリニューアルにつき、これまで即完売で入手困難だった商品の予約販売を開始いたします! これにより多くのみなさまの元へお届けできることを願っています!』というメーリングリストを送信した。
久しぶりに見た掲示板はありがたいことにいつも書き込みがあってちゃんと動いている。
一段落してタバコを吸うタクヤくんが『そういやちょっと前にこんなメール来とってんけどなんやろな、キモいねんけど』と言ってあるメールを見せてくれた。そこには『今日はありがとうございます!エリコです!嬉しかった!なんてお呼びすれば良いですか!?』だった。
日付からしてタクヤくんが、ガストで酔っ払ってナンパしたアルバイトの女の子だろう。事情を説明したら全く覚えていないらしいがしっかり返信していた。
地味なアルバイターのエリコはすぐさま返信してきて会う約束をしたらしい。
しつこいくらいにタクヤくんはエリコがどんなコだったかと聞いてくるから、髪は全部逆立っていたとか、爪はコウモリのように鋭いとか、幼女の肉を食べているとか、しょうもないガセネタばかり言ってからかっていた。
そうこうしているうちに予約販売がじゃんじゃか入ってくる。やはり人気はゴメオだった。タクヤくんは発送と梱包をやったときの報酬の交渉や、はしもんくんも発送人として使いたいという事を相談されありがたく承諾した。
僕は高校が終わったらすぐに帰宅してはコンビニで入金後のお金を引き出し、はしもんくんの部屋へ行き発送作業やサイトの掲示板を見たりするのが日課となった。はしもんくんの部屋は鍵が掛かってないので自由に出入りできる。
ある日いつものようにはしもんくんの部屋へ行くとはしもんくんが居たので挨拶をして軽く雑談をした。
はしもんくんの好きなモノについて問うと、ガンダムやラジコン、ゲーム、自動車などについてボソボソと早口気味に難しい言葉を使い説明してくれた。
次にヤッカンくんやタクヤくんたちとの関係についても小学校時代からの幼馴染で、あの凶悪なヤッカンくんがはしもんくんを平等に扱うにはキッカケがあったそうで、小学校4年生の頃に将棋を教えてから一目置かれるようになったとか。ヤッカンくんは将棋に夢中になるが、はしもんくんには一度も勝てなかったらしい。
ところでヤッカンくんはあの事件以降、どこかの女の家だかに匿われていて、指名手配が掛かってるらしい。
信号待ちの軽自動車に突っ込んでそのまま走って逃げていったとか。あのシルビアは車検が切れた違法改造車だしおそらくヤッカンくんは覚せい剤をキメていた。軽自動車に乗っていたおじさんは重症だと夕方のニュースで報じられていたとか。
そんな話の流れでレビンはそろそろエンジンオイルを交換するべきだと言い出し、テキパキとフロアジャッキを持ってきてはしもんくんが交換作業をしてくれた。どこにジャッキアップポイントがあるとか、ウマの掛け方、どこからオイルを抜くとか、交換のタイミングとか。ついでにミッションオイルなるものも交換ししようとかで、そのときのはしもんくんは初めて頼りがいを感じた。
一通りオイル交換が終わるとエンジンフードを開けてプラグという点火装置をレンチでくりくりと外す。細い先端を見せて、ギャップがどうたらで新品と交換してくれた。
その他真っ直ぐ走らないことや、いつもハンドルが左に傾いていることを伝えると、アライメントなるものを調整しようというが、しかしこの車体自体が曲がっているしそもそも道路は平らじゃないしと、ブツクサ言いながらも工具箱とジャッキと積んで、いつものブックワンの駐車場へ向かった。
はしもんくんの運転は16歳の僕にわかるほど下手くそで、車間距離はやたら近いし、右車線を不安定な速度でユラユラ走るし、右折時も直進車にブレーキを踏ませる危ないタイミングでやるしで怖かった。
ブックワンの駐車場ではネジピッチが1.25ミリだから2周回したら2.5ミリになるとか、聞いてないことをまたブツクサ言いながらフロントタイヤ付近の棒のようなパーツをスパナで回しては試走を繰り返す。
するとハンドルは真っ直っぽくなり、安定感が出てきた。
『おーすごいですね!天才メカニックですやん!』と大きめに感動するとはしもんくんはまんざらでもないように初めて明るい笑顔を見せてくれた。
そのあとはしもんくんはめちゃくちゃな運転をしながら『本当はこうした方が良いとか本当はあーした方が良い』と真実を語りまくっていたが、好きにしてくれ訳わからんと思いつつ、フムフムと相槌を打ち続けた。
その日、はしもんくんと親睦を深め、一緒にいつものガストへ行き僕がご馳走する旨を伝えたらはしもんくんはほうれん草炒め的な物と水をチンタラ時間をかけて食べていた。僕のハンバーグ定食的なものは10分ほど遅く出てきてすぐに完食したが、はしもんくんはまだモゾモゾ食べていた。
お会計のときにお金を払おうとするとはしもんが出してくれた。どうやら年下にお金を出させる訳にはいかないらしく、案外男前なところがあり、見方が変わった瞬間でもあった。
ある日タクヤくんから、銀行へ行って通帳記入してから家に来てくれと連絡があったので、言われたとおりにして家へ行った。リフレッシュされたレビンはとても快調で、シフトチェンジもハンドリングも軽くなりこの頃にはレビンのことが少し好きになっていた。
部屋へ着くと通帳とパソコン画面のエクセルの計算表を照らし合わせて問題ないことを確認していた。
この頃少し売上が落ちていたが、僕はあまり気にしていなかった。タクヤくんはなぜ売上が落ちたかを調べたらしく、その結果どうも競合のサイトがいくつか現れていたようだ。
タクヤくんは僕が売上が落ちたことに無頓着している僕に少し怒っていた。なぜ気にしないんだ、気になったら俺に聞けよ。全てはホウレンソウが鍵を握っているんだ!チームワークの鉄則だと。
ホウレンソウと言われるとはしもんがガストで食べていたことを思い出し『はしもんがチンタラ食べてるからさっさと食えってことですね!』とふざけると、ここは真剣な話だからと注意された。
ホウレンソウ=報告・連絡・相談だと。これが重要だ。一生覚えておけと念を押された。
確かになにかある事にタクヤくんはホウレンソウしていたなと思った。
競合サイトを見てみると金額は我らケミカルクルーよりも高い。おそらく僕らは原料を仕入れてはしもんくんが製造するから、出来物を買うより原価が安いからだろう。
しかし他社はオマケで雑貨類の小物や試供品と称して何らかの合法ドラッグを添えているようだった。
で、それが実際何なのかは買ってみないとわからないらしいので、市場調査として競合から買ってみることにした。
身バレ防止の為、身代わりの誰かに買ってもらおうという流れになり、その身代わりくんを誰にするかを考えた。
条件としては
・自分たちと接点がない
・なるべく低コスト
・信頼がある(飛ばれないようにすることや警察にチクられないようにする)
しばらく考えた後、中学時代から粗大ごみを買い取ってくれている"キツネ目のおっちゃん"のところにいる中国人の若オヤジの顔が浮かんだ。
おそらく不法滞在だから警察にチクれないだろうし、家も知っているから飛びようもない。
この中国人のニーサンよりは歳を食ってそうな人は"サカモト"と名乗り日本人に擬態しているつもりだが、中学生のガキすら騙せないレベルのカタコトで話す。
その人物についてタクヤくんに話すと適任だということでさっそくキツネ目のおっちゃんのゴミ溜め場に向かった。そこは川沿いのただの広場で、自販機とか自転車とか、鉄パイプとかタイヤがへこんだ軽トラとか、なんせ鉄素材の物が野外に放置され錆びている。
よく見るとボロボロの看板には"鉄、ステンレス、なんでも買い取りいたします"と何年も前にペンキで書かれたような文字が薄っすら残っている。
キツネ目のおっちゃんはいないが当のサカモトさんがいた。僕を見つけると『しゃちょいない。あしたきて』と早まった事を言うもんだからサカモトさんにこちらの案件を相談した。
指定のサイトから商品を買ったら品物と報酬を交換しようと。するとサカモトさんは一言返事で承諾してくれた。
数日後サカモトさんから連絡があったので商品を取りに行った。そのままはしもんくんの家に行き、タクヤくんも交え開封した。
僕らが注文したものは封筒で済むサイズなのにどれも立派な段ボール箱だった。まずこれに驚いた。しかもゴソゴソと大きな目な物が入っているようだ。
はしもんくんがカッターで箱を開けると六角形の箱に入ったお香が出てきた。それに注文した物はもちろん、5Meo-AMTと書かれたパケも出てきた。はしもんくんはそれを見て『あー出ましたなアルファですか』とオタク丸出しの小声早口で呟いた。
次に届いた箱にはピンクローターが入っていた。合法ドラッグオナニーの質を上げる物なので必需とも言える。なるほど。
もう一つの箱は少し小ぶりでオマケとしてCD-Rが入っていた。違法コピーのCDだ。ラジカセにセットし再生するとエラーになって聴けなかった。ドジだ。
とりあえずオマケのお香を炊くとエスニックな香りが部屋を充満した。煙が異様に出たのでさすがに窓を開けたほど。
その状況で我々ケミカルクルーはどうするかを僕が考えろとタクヤくんが課題を出した。
と言われても何も思い浮かばないので、うーんと腕を組んで考えているフリをするとタクヤくんが『なんでもえーから声を出してみろ。単語でもえーぞ』と言うもんだから『金魚』と言ってみた。そしたらタクヤくんがマジカルバナナ方式で金魚と言いった水→水と言ったら冷たい→冷たいと言ったら氷→…のように展開していけと。
それを紙に書いて今の問題解決に近付けていけと言った。
んな無茶な。なんか恥ずかしいが仕方ない。
で、一人マジカルバナナを始めた。『エレキパンダ、と言ったら………え?』
といきなり自分の出した難問で躓くと二人ともクスクス笑った。それなんやねん、実在せんやんかと言われ、しまいには頭がオカシイと罵られた。
タバコを吹かした僕は『そもそもそのオマケっていくらするんすかね?』と言うと、タクヤくんが僕に指差し『それそれ!そーゆーやつよ!』と目を見開いた。
これはあくまでも商売だから、オカネがオカネを生む世界なんだと。
はしもんくんのパソコンをタクヤくんがパチクリパチクリ動かすと問屋を探し出した。
しかしこの時代、問屋は自社サイトを持っていないことが多かった。仕方なくはしもんくんの家の近くの電話ボックスからハローページを盗んできて問屋っぽい電話番号を調べる作戦に出た。
大阪のある一角に行けば問屋街があるが、今から行くのはしんどいという理由だ。
手分け"あ"から探すはしもんくん、"わ"から探すタクヤくん、僕は手が余ったので初めて自分でインターネットをやった。
競合サイトと自分のサイトを見比べた。掲示板機能があるのはケミカルクルーだけだった。そこでレビューみたいなのがあって、直腸で何mg入れて何時間後にどんな効果があったとか、今バットに入りました誰か助けてとか、色々書き込みがされていた。
そこにある話題が盛り上がっていて、ゴメオと2C-Bをカクテルしてみたとか、ラッシュと組み合わせたらどうなりますか?だの書き込まれていた。
これを見つけた僕は『カクテルして商品名付けて売ってみます?うちしか無いオリジナルになりますよね?』と提案した。するとはしもんくんがニヤッと嬉しそうな顔をして『それは良いけど物質名を隠すってこと?基本的にカクテルは一般的な薬でも動物実験してないしリスクどころかベネフィットも不鮮明だし倫理的にどうかと思うけどもまぁやるなら面白そうだけど自分が実験体になるのは嫌だしだからといって誰かを使ってそれをやって死ぬのもマトリックス(障害者のことだと思う)になるのも…』とやたら饒舌なった。
タクヤくんは『まぁ倫理的にはグレーやしな。仮に謎の死者が出てみんなケミカルクルーで買った痕跡があれば俺らの未来は…うん…明るくは無いな…でもそういう方向性はありかもな』とハローページを閉じた。
はしもんくんがまた嬉しそうに『じゃあ動物実験して大丈夫やったら売ろう。実験器具とかラットとか買ってくれたらやるけど』
話を進めるとどうもラットで実験したい欲が勝っていた。
あとは嘘かほんとかわらない掲示板のレビューも参考にするとか。
ある日マユちゃんと久しぶりにゴメオをやる目的でホテルに行った。ここまで言ってなかったが、はしもんくんもタクヤくんもちゃっかり合法ドラッグの経験者だ。僕たちは合法ドラッグが手に入りやすい環境だから依存リスクがあるためあくまでも距離を取ると誓っていた。
耐性もつきやすいので1ヶ月に2回までと約束していたのだ。
マユちゃんと使うのはほんとに久しぶりで、今回持参したのは競合から買ったやつだった。ラジカセとCDも持ち込み通過儀礼のトイレタイムをズラすため時間差でキメた。
で、二人ともうまくやり遂げたがなんか効きが違うことに気が付く。味もちょっと違った。買ったやつは新品の靴底のような味がした。
いちおうタクヤくんに報告すると、そんなことはないやろ?と信じてくれなかった。初めの一回目は耐性ゼロだから良いように感じたんだと聞かない。ならばとしばらくしてはしもんくんの作った方を今度は一人で試した。
やっぱり違った。はしもんくんの方がパリッ白く効く。半信半疑のタクヤくんにやはり報告し、ケミカルクルーのサイトに"うちのは純度が違います!"的なことを添えてもらった。
すると掲示板にも確かにここのは違うとの書き込みがあり、右肩下がりの売上が少し回復した。
ある日タクヤくんから緊急で呼び出された。
部屋に入ると週刊誌を広げタバコをくゆらせる。
『これ見てみぁ』
そこには見開きで”死者も!若者の間で流行の合法ドラッグとは!?”なる記事が掲載されていた。
記事の内容は、マジックマッシュルームを接種した若者がクラブで倒れてその後に死亡したという話が載っていた。
マジックマッシュルームは知ってはいたが興味は無かった。もちろんうちでは扱っていない。タクヤくんによるとヤクザとの関連が強く"ダルマ"にされるリスクがあるという。
そして週刊誌のページを捲ると通販広告でマジックマッシュルームが掲載されていた。このときタクヤくんは広告と雑誌社との関係、記事の関係を教えてくれた。つまり広告主を問題視すると広告料が取れなくなるから普通はこんな記事を出さないと。
そこから逆算するに、週刊誌の記者は警察の情報を掴んでいて、この広告主が検挙されるのではないかと。
だから次の新刊の広告は無くなる、それなら記事にして注目を浴びてもう一度このネタを擦れると目論んでる…と名探偵タクヤホームズが推理していた。
そしてその広告にはうちでも取り扱っているゴメオを代表する合法ケミカルが載っていて、商品説明欄はうちのサイトのそれがそのままパクられていた。
さらにそこで注目を浴びたおかげで注文数が増えていると。喜ばしくない状況だから次の手を考えとけよとタクヤくんが命令した。
そんな状況の最中、はしもんくんの新商品が誕生した。"多分"多幸感が強くて"多分"5時間くらい続いて"多分"シモに効いて"多分"音楽と相性が良いらしい。そんでもって"多分"依存性が強いから使う時は注意してねってこと。
とりあえずラットの実験ではうまくいったっぽいが、ネズミはチュー!としか言わないからほんとのところはわからないとのこと。
なので最後は人体実験が必要で、死んでもカタワになっても良い人はいないかなってはしもんくんが呟いた。白いシャツを着ている彼が本物のオウム真理教の幹部に見えた。
それなら適当にクラブで配ってフロアで観察しますか?と提案したのが僕の皮を被った悪魔だった。
配る係と観察係。もちろん観察係はオウムの幹部ことはしもんくん。配る係は以前手売りしていた経験を活かせるだろうということで、僕だった。まぁそうなるだろなと思ったが、タクヤくんは言い訳できないようにもっともらしい鉄壁の理由で僕を見つめた。
仕方ないから僕がこの作戦を煮詰めた結果、僕が商品とサイリウムの光るブレスレットを配りマークしやすくする。タクヤくんとはしもんくんは観察係。僕は配り終えると着替えてから再入場し、普通にクラブを楽しむという流れにした。
そうすることで配るときだけの服選びとファッション、この2つも楽しみが増えるわけだ。
それならばということではしもんくんもクラブに似つかわしくないオウムの信者服以外の服を買おうってことで1グラム1円計算の古着屋へ向かった。どうせすぐに捨てるから安いほうが良い。
僕は適当に服を選んで買い物カゴに上下一着ずつと、人生初のバケットハット、念の為靴も安いコンバースにした。
はしもんくんはアディダスの3本線のオレンジのTシャツ、迷彩の軍パン、ドクターマーチンの黒いブーツをタクヤくんが選んだ。ついでにジャミロクワイのようなおしゃれリテラシー高めのモサモサハットに女性物のバブル風フサフサジャケットをチョイス。
サングラスも提案したが、眼鏡じゃないと視力がなくなるってことで却下された。その格好にレイバン風のメガネはキモいのに。
タクヤくんは関係なく自分用に思いのまま買っていた。
実験当日、タクヤくんの部屋でそれぞれ用意した服に着替えた。僕は赤に黒い横縞のセーターにジーンズにバケットハット。はしもんくんはご存知の通り中身の人間性と全く関連性のないおしゃれリテラシー高めファッション。これにはみんなでケラケラ笑った。
やっぱりレイバンメガネはダサいので、タクヤくんの部屋にあった白縁のサングラスを掛けたらはしもんくんがコシノジュンコになった。で、これまた爆笑した。はしもんくんは鏡を見てもボヤケて見えないようですぐに外した。
そのサングラスをタクヤくんが僕に掛けると『偽物カートコバーンやん笑』と一人で笑っていた。カートコバーンがなんなのかは知らなかった。
とりあえずカートコバーンのサングラスをかけて特徴を持たせた僕はレビンで、タクヤくんとはしもんくんはエボ4でいつものクラブへ向かった。その道中、前を走るエボ4の助手席に光が当たると、モフモフのハットが出現するのがなんとも笑えた。
クラブ近くのコインパーキングに停めるとジャミロはしもんが紙袋を持って近付いてきた。今日の実験用ケミカルだ。よく見るとめちゃくちゃあった。50個あるらしい。吐き気がした。そんなに配る予定ではなかった。せいぜい10個かと思っていた。これではジーパンのポケットに入らないではないか。サイリウムのブレスレットも同様に50個ある…。
自分で天下を取ったかのような気分で提案しておいて後悔した。こんなことならサカモトの若オヤジをお金で雇うべきだったな。
あまりにも量が多いので、一度半数をクラブのコインロッカーに入れて…とか考えたが面倒なのでマユちゃんから奪い取ったセシルマクビーのショップ袋に全部詰め込んで職質されたら一貫の終わりだなと覚悟して僕が先にクラブへ向かう。
カートコバーンのサングラスはすべての物質を否定するほど真っ黒くてクラブへの道中、光を発しない物すべて見えなかった。
無事クラブに入るとご機嫌なトランスが爆音で流れている。今日のミッションのことを考えるとキックの音が心拍数を上げていた。そういやヤッカンくんが言ってた"心拍数が上がると頭が回らない"を思い出したし、それと同時にヤッカンくんはいつも心拍数が高いってことも発見できた。
心拍数を整える呼吸法を意識しながら脱力してゆらゆら歩いていると、自分だけ場違感出るなと焦り、音楽に合わせてピョンピョン跳ねながら実験体に近付いた。
実験体としてはシラフが良いってことですでにバキバキな人は避けておいた。とりあえず男だけで盛り上がっているグループの正面に立ち、フー!と声を上げピョンピョン跳ねると彼らも僕に合わせてピョンピョン跳ねた。
適当なタイミングで『合法、飲んで』と言いつつパケを渡していった。これはなにかと尋ねるヤツがウザいから『アゲるやつアゲるやつ!はよはよぉ!』とノリを失わないように飲ませていった。
飲んだ事を確認したらサイリウムのブレスレットを嵌めていく。
そんなノリで目ぼしい実験体を見つけて繰り返していった。DJでもないのにクラブにいる人間を全員見たのはその日が最初で最後だろってくらい。
そのおかげで普段テレビでしか見ない男性アイドルとか芸人もいた。魔が差した僕はそいつらにも飲ませてやった。
意外と順調に捌いているとジャミロクワイはしもんのハットが見えた。まるで芸能事務所のスカウトか、ファッションデザイナー、はたまたクラブのオーナーかのような貫禄でゆっくり周りを観察している。
実験用ケミカルももう少しで配り終えると思って勢いよく声をかけたらタクヤくんだった。当初の趣旨とは違い、女の子グループとお近づきになっていた。念の為彼女たちにも声をかけるとやはり怪しいモノなのでこれはなにかと尋ねる。定番の軽いノリで『アガるやつ!アガるやつ!』と言うとタクヤくんがほなちょうだい!と言って飲んだフリをした。女の子たちもそれを見て飲んでくれた。タクヤくんにもサイリウムのブレスレットを付けてやった。
全部配り終えたので一度クラブを出てタクヤくんにはメールで状況を報告し、レビンへ着替えに行った。カートコバーンの衣装はすべて捨てる計画なので、セシルマクビーのショップ袋にギュウギュウに詰めて捨てる場所を探す。別にコインパーキングの隅に放置しても良いが、ちゃんとゴミ収集車に入る確約があった方が落ち着く。
付近には良い捨て場所がないのでレビンで探索することに。さっきまで緊張していたのでドライブでリラックスしたい気分だった。しばらくすると適当なコンビニがありゴミ箱があったのでそこを墓場とした。
カートコバーンとの告別式を終え、元のコインパーキングに戻るとすでに別の人が車を停め満車になっていた。さすがアメ村。
仕方なく少し離れたところコインパーキングに停めテクテク歩くと、サイリウムのブレスレットの女の子が二人歩いていた。これはと思いナンパして様子を見てみることに。『どこいくん?今日どっかイベントあるん?』とあくまでも初対面を装った。
『終電やからごめんなー』と完全に相手にされていない。少しだけ食い下がってみて『どっかトランスのイベントやってへんかな?』と尋ねると『Juiceでやってんでー』とこれまた短く返事するもんだから『今日誰が回しとんの?』と問うと『知らんー。もう時間ないねんバイバイ!』と完全にフラレた。
僕は失恋した気分でクラブへ戻るとジャミロクワイはしもん監視員が目を、いやメガネを光らせていた。はしもんくんに全部配りましたよと伝えると相変わらずボソボソしゃべっている。クラブでは叫びながら耳元で話すのが鉄則なのに。
僕は携帯のメール画面で“何言ってるかわかりません〜 大きな声でお願いします〜”と打つと、はしもんくんもメール画面で“今見てる 今のところ異常なし いや考え方によっては逆に異常かな?”と独特の世界観をぶつけてきた。
僕もサイリウムのブレスレットの人たちを観察しているとはしもんくんが“早く帰りたいT_T レーザービームは目に入ると失明するぞ 大変危険”と打ってきた。こんな場で何を考えてんだ。もうどうしようもない。
掛ける言葉がない僕はぼーっと突っ立っているとサイリウムのブレスレットの一人がこっちへ向かってくる。タクヤくんだ。
実験体の様子を間近で見ていたタクヤくん曰く、まだ何も起きてないらしい。失敗なのかと思ってとりあえず僕もフロアで踊ることにした。
いいタイミングで大好きな《Out of the Blue》が流れたので僕は純粋に音楽に身を任せているとプッシャーが寄ってきて『合法もイリーガルもあるけどどない?』とのことなので『何がありますかぁ?』と僕。『何が欲しん?』と即座に返したプッシャー。『今日は気分じゃないけど物によってはアリやおもてまして〜』と言うとポケットから紙をサッと取り出しペンライトで照らしてくれた。そこには商品名がズラリ。”早いの 冷たいの 野菜 紙 バツ...” 気が付いたら僕はその隠語すべてを理解できる人になっていた。
『ごめん、やっぱえーですわ!』と断ると僕を睨むようにして消えていった。顔を見ると30代後半くらいのヒゲのオヤジだった。
タクヤくんたちが帰る時メールしておくという約束をしていたので、時々携帯を気にかけて踊っていた。さすがに喉が乾いたが酒を飲む気はサラサラないのでトイレの手洗いの水で誤魔化そうと思った。
トイレに入ると酔っ払いなのか大便器に顔を埋めてうーうーと唸っている。それを尻目に僕は蛇口の水を手ですくうようにしてチュルチュル飲んだ。もう一度酔っ払いを見るとお尻が濡れていて、大きいのを漏らしていた。最悪だクサイ。
あ、サイリウムのブレスレットをしている…
念の為はしもんくんのところへ事情を説明しトイレへ。はしもんくんはまたブツクサ言っている。
クラブのトイレは音量控えめだがさすがに聞こえない。
おもむろにはしもんくんが実験体の顔を持ち上げた。すると目を閉じているがまぶた越しに眼球がグルグル動いているのがわかる。はしもんくんはメールの画面で"きいてきたしょうこ ラットもめがまわってたよ"と興奮気味に打った画面を見せてくれた。
これはほんとに成功なのかと?と半信半疑だった僕。
それなら他の実験体にも効果が現れる頃だと思い、観察を再開するためフロアに戻ると、急に音楽が止まってフロアの一部でケンカが始まっていた。どうやらさっき僕を睨んだプッシャーのオヤジをギャル男たちが攻撃しており、そこに黒人を含むガッシリとした体格のセキュリティーが駆けつけていた。
僕は恐怖を覚えた。手売りにはリスクがあることを目の当たりにしたからだ。
すぐに音楽は再開し、何もなかったかのようにフロアで人々が踊り始める。しかしポツポツと、穴が空いたように空間ができていることに気がついた。その空間を目指すようにセキュリティーが人混みを分け近付く。
割れた人混みの間をセキュリティーがコンニャクのようになった女を抱え、フロアの外へ出ていった。
きっとさっきの暴動を見てバットに入った人だろうなと思っていたら、アチコチでコンニャク人間が倒れている…。
あれ、みんなサイリウムのブレスレットをしているぞ…。はしもんくんの顔を見ると無表情でメガネを反射させていた。
タクヤくんが僕らを見つけ外に出ようと言う。はしもんくんはどうやら残る感じらしい。
クラブの外に出ると倒れたさっきの女がセキュリティーによって壁にもたれ掛かるように座らされ、虚ろな目をして空の方向を無向いており、口からはヨダレが糸を引いて地面に向かっていた。
その実験体に寄り添うように跪き、救急車を待っているであろう屈強なセキュリティーのもとへクラブの店員さんが駆け寄ると、そそくさと店内に戻っていった。なかなか冷たい人だなと思ったが、男を抱えた黒人のセキュリティーが出てきた。さっきトイレにいた実験体だ。もう彼の目はクルクルしていなかった。
タクヤくんはタバコを吸いながら『腹減った』と呟く。そしてはしもん早く出てこいよとかグチりながらメールで退出を促していた。
救急車がやってくると、テキパキと実験体の状態を確認して担架に乗せる。そこへクラブの女店員さんが救急隊に眉毛をへの字にしながらなにらや訴え掛けている。
おそらくまだ他にも体調不良者が居るんだろう。一人の救急隊員が携帯電話を使いどこかへ掛けている。僕もタクヤくんも野次馬も『イマドキは無線じゃなくて携帯使うんだな』と思ったはず。
一度コンビニに入り、タクヤくんはおにぎりを僕の分まで買ってくれた。二人でなかなか走り出さない救急車を前にしてモグモグと食べている。どこからともなくもう一台の救急車が駆けつけてきて、赤色灯がクラブの前を赤く賑やかにする。
少し遅れて消防車も駆けつける。クラブから客がぞろぞろ出てきて火事でも起こったのかと思ったが放水する様子はない。はしもんくんも出てきたが僕らに気が付かずコインパーキングの方へ歩き出した。僕が大きな声ではしもんさんを呼び止めるとニヤニヤしながら近付いてきて、タクヤくんはおにぎりを頬張りながら車に戻ろう的な感じで僕らを誘導した。
エボ4に3人で乗り込みエンジンをかける。《モー娘。》のCDがチャカチャカと小さく再生され、クラブの中の様子をはしもんくんに聞いてみた。
はしもんくんはメガネを外し、手で顔をクシュクシュしながら『たぶんセロトニンシンドロームかな空腹で服用してほしかったのにみんな酒も飲んでるし想定外やったでも分量的には少なめのつもりやったけどアルコールでブーストかかったんかなそれか動物性タンパク質と相性悪かったかなまぁ命には別状ないと思うけど…』とはしもん節が炸裂した。
僕ははしもんくんのメガネを取った顔を見たのは初めてで、意外と目が大きく二重だということが面白かった。青ひげをちゃんと処理して眉毛を整えてボソボソしゃべりをやめたら今の服装でも違和感がないかもとか思っていた。
タクヤくんははしもんくんがクラブではお酒を飲むとか食後だとか言うことを知らなかったことに気付いて『まぁしゃーないな』の一言で片付けた。
救急車や消防車が続々とクラブの方へと集まって来たのでレビンの駐車場までエボ4を回し、レビンははしもんくんに運転してもらって一度はしもんくんの家に戻ることにした。
タクヤくんは帰りの道中『これヤバイんちゃう?他にも何人か倒れたんやろ多分?消防車来たってことは最悪事件になるやろ…。なんかあったらすぐ飛ぶで。サイトも即削除や』と不安そうに言った。
はしもんくんの家に着くと店内の様子を聞いた。その説明では他にも倒れたり痙攣したり、もがき暴れていたとか。みんなサイリウムのブレスレットを付けていた人達らしい。適切に処置をすれば死んだりすることはないとか。おそらくアルコールとカクテルしたとか、他のドラッグとのカクテル、うつ病の薬なんかの影響もあってそれになると説明してくれた。
ひとまず死人が出ないことに安堵したし、良い感じにトリップしてる人も見られたからこれは成功だとはしもんくんは言った。しかし感想が聞けてない。
ヒデもやってみーやと一個渡してきたが、アレを見てからだと思い出してバット入りそうだし、マユちゃんに使うなんて絶対嫌だ。
しかしヤッカンくんのような世捨て人で効果をそのまま教えてくれる人も他にいないし………いた。バカのクロやんだ。
タクヤくんとはしもんくんにクロやんの人物像を説明をして、食後念の為4時間は空けてアルコールは禁止とかの注意を受けて、良いタイミングで実験することに。
翌日どうやらクラブでドラッグで5人意識不明との記事が小さく新聞に載っていたとタクヤくんから連絡が来た。もちろん死者は出てないし、犯人はあの日ギャル男にボコボコにされたプッシャーオヤジではないかと容疑が向いていて、すっかり安心した。
クロやんに飯を食うな、スポーツドリンク系のジュースを持参しろと言って地元近くの大森公園へ呼び出した。ここは割と大きな森林公園で、いくつか池があり森に囲まれていて、子供の頃から釣りをしたり、訳ありの原付きを土に還したりするのに最適な場所だ。
もちろんラッシーとずっしとも頻繁に訪れ、秘密基地を作るべく大人なら絶対に行かないような森の奥深くまで入ったりしていたのでここの土地勘には世界一詳しい。
クロやんに最後いつ飯を食ったかとか質問を一通りして、例のパケを渡した。クロやんはしきりにこれなんて言うやつなん?と聞いてくるので、名前をつけ忘れていたことを今になって思い出して『うーんと何やったっけな~』ととぼけながら時間を稼ぎ、僕のスーパー頭脳をフル回転させた。商品はネーミングが大事だったからここは慎重にいきたいところだった。
で、はしもんくんのあのときの服装が頭に思い浮かんできて”ジャミロクワイ”と名付けようかと思ったが、著作権とかの関係がありそういうのは良くないとタクヤくんが言ってたことを思い出した。次に頭に浮かんだのはクラブのトイレでウンコを漏らしていたギャル男のにーちゃん。”うんこ”はまずいし目がクルクルしてたのはどうも嫌な思い出だし…。
そうだ、タクヤくんがマジカルバナナ方式で名前を考えろとか言ってたな。
ケミカルクルー→クルーは船乗り→船は英語にすると→シップ→ケミカルシップ…んー…サイリウムのブレスレットが黄色で星のようだったからスターで……スターシップ!
『あ、そうそう!スターシップっていうねん』と、言ってみたが即座に訂正したいほどダサい名前になってしまった。
クロやんはありがたいことにバカなので、どんな効果があるのかと聞かずにニヤニヤしながらスターシップを、見たことないタイプの安そうな缶のスポーツドリンクで流し込んだ。
どんな味かと聞くと『薬みたいな味やな~』と当たり前のことを答える。やっぱりバカだ。
効果が出るまで時間があるので、最悪このバカが倒れても良いような場所へズカズカ進む。運が良ければこの奥に昔作った秘密基地があるはず。
立入禁止のフェンスを越えると、地球誕生から僕とラッシーとずっし以外、一度も人類が立ち入っていないであろう木々の奥深くを通り昔作った秘密基地を目指した。ここは何度も来ているから僕はスラスラ歩けるが、クロやんは木の枝が服に引っ掛かりすぐに立ち止まる。このまま僕が走って逃げたらこいつはココで遭難死するだろう。
特に目印はしていなかったが、感覚だけで秘密基地にたどり着いた。昔設置したバス停からお借りした木のベンチはそのままあった。小枝や落ち葉を払い除け、クロやんに座るよう促すと、当時屋根代わりにしていた木の板を探しに行った。一応クロやんは客様なのでおもてなしをするのだ。
台風だとかでちょっと離れた場所に行ってしまった屋根代わりの板と、当時集合住宅の倉庫から借りたキャンプ用の椅子とランタンも見つかったので、秘密基地を僕なりに当時の形に再建した。
効果が現れるまではクロやんのことについて根掘り葉掘り聞くことにした。
クロやんはお父さんの友達の一人親方の人のところで、人手が足りない日だけバイトしていて、その内容は建材を運んだり、穴を掘ったり木を切ったり解体したり、なんでもかんでも色々してるとか。ある日はお金持ちの家に行って、池を作るとかしていて、施主さんにお礼としてお寿司をごちそうになり、帰り際に缶コーヒーをケースでもらったと喜んでいた。
最近は母親が離婚で家を出ていき、弟と別々になったそうだ。そういえばクロやんが弟と仲良くしている姿を見たことがなかったが、特に不仲ではないが、あまり干渉的ではなかったらしい。
土木の仕事の給料は安く、最近のクロやんはトビの仕事がしたくなったようで、誰かやっている人を紹介してくれとも言われた。
クロやんは僕のコンノくんとの一戦と車の話を聞いたようで、こっそり僕がいつもレビンを停めている場所まで見に行ったとか。イカツイとかシブイと言って褒めてくれたが、レビンはおっさん車的な見た目なのでしっくりこなかった。
しかしクロやんとじっくり二人きりで話すのは初めてなので、これまで僕が思っていたイメージとは違う印象だった。
風が吹くとゆっくり木々がさえずり、木の隙間から日が差し込み情緒を誘った。
クロやんには最悪お腹が痛くなったら池の方でやってくれと伝えているし、トイレットペーパーも用意した。ラッシーが昔、その池でウンチをしたら鯉が寄ってきてパクパク食べてた話もした。
そしたらクロやんはクククククと笑い出し、ヘロヘロな声で『ふぁ~みね~んんん』と変な声を出し始めた。おお、効いてきてるなと思い、その時間を未送信メールにメモをした。
どう?と聞くと『あああああんんんんんん、、、、ふふふふ、、、、、』と完全に会話にならなかった。
タクヤくんからもらったパナソニックのMDプレーヤーを取り出し、サイバートランスを再生し、ヘッドホンをクロやんに装着した。クロやんはベンチで横になって嬉しそうに笑いながら『んんやばいいいいい』と楽しそうだ。
体をクネクネしてヘラヘラ笑い、目は半開き。これは気持ちが良さそうだ。
しばらくその状況が続き、薬が抜けてきたのか徐々に言葉がハッキリしてきた。彼はまだ横になっているが効果を確かめるべくヘッドホンを外しいくつか質問すると『めっちゃフワフワしてる』『風がやわらかい』『寒いけど暑い』『宇宙の星が全部見える』『ずっとこのままでいたい』と教えてくれた。
オナニーしたいなら俺は離れるよと言うと『そういうの無くても気持ちがいい』と、とても幸せそうだ。
どうやらピークも過ぎて、あとは抜けるだけなのでさっさと帰りたくなってきた。
クロやんが歩けるようになり、と言ってもまだフラフラしているが無理やり解散し、実験成功をタクヤくん電話で報告した。
後日、タクヤくんの部屋で新商品として販売することを決めた。商品名を問われたので”スターシップ”と答えると、まぁそれで良いやと決定した。そしてオマケとしてスターシップを添えて発送することに。
はしもんくんがロケット型のパケの在庫が少ないのでと、スーパーで売ってるお刺身に付いている魚型の醤油差しを大量に用意していた。
タクヤくんはそれを見てケタケタ笑い『バカ客が寿司にかけて食ってまうやんけ』とツッコミを入れた。
それからオマケは魚、購入品は通常のパケとした。
それから数日後にケミカルクルーの掲示板にスターシップのレビューが書き込まれるようになって、バットに入りにくく深いトリップができた、という感想が見られた。するとスターシップの注文がリニアに増えていった。
ここでタクヤくんが『発送が追いつかない。誰か雇わないと』と言い出した。合法とは言えグレーな仕事なので、条件としては口が固く、捕まりたくない人だ。
それならと思い、不法滞在であろう中国人のサカモトさんにお願いすることに。タクヤくんも踏まえて一度面接をし、報酬額も決まった。タクヤくんはズバッと不法滞在か?と聞くとあっさり『うん』と答えた。
また、”サカモト”は適当に考えた名前らしく、本名は”ルー・ジェンユ”日本に来た理由は、中国政府の政策の一環で日本に派遣され横浜で働いていたそうだが、逃げ出してきて今の会社で働いているそうだ。
お金を貯めて自分の会社を作るのが夢らしい。本名を知ってからはルーさんと呼んだが、サカモトで呼んでと頼まれた。
ところでネット販売を開始したときに”飛ばし携帯”を用意しており、サイトに番号を載せてタクヤくんが質問に答えたりしていたが『バカの電話はダルい』とのことで今は掲載していない。
しかし一度ネットに載せたもんだから当時番号を登録した者から時々掛かってくるらしく、留守電でそれを二人で聞くのが日課になっていた。
殆どがラリった状態で意味不明な話をツラツラしているものだ。『空がオレにウインクしてくる~信号機が歌ってる! ラララ~ってさぁ、赤は辛えカレー味! 手握って月までドライブな!』とか『ソファーにくびれができてますけどあなたが咥えたモノですか?』とか。
それか同業者と思われる恐喝とか嫌がらせだった。『テンメェ誰の許可でやってんだゴラァ!テメーら特定してっからなゴラァ!港に沈めてやっからなぁゴラァ!』とかだった。
留守電の録音時間は短いので手軽にサクッと楽しめた。
明くる日、発送先の住所をプリントアウトしてこれからサカモトさんに届けに行く。プリントアウトには時間がかかるので、僕たちはいつものように留守電を楽しんでいたところ『◯◯テレビのオクダと申します。一度取材させていただきたいので折り返しご連絡をお願いいたします』と言うメッセージが入っていた。
僕が少し戸惑っていると、タクヤくんは『無視無視!』と言い次の留守電を再生させた。『お忙しいところ失礼致します。わたくし◯◯テレビ報道局のアオキと申します。合法ドラッグについてお伺いしたいのですが…』とまた報道関係者から連絡が来ていた。その他雑誌社も合わせると10件ほど。
『まぁ有名税ってやつやな』と言い、タクヤくんがプリントアウトした住所を見てみると、さっき留守電にあったテレビ局のオクダの名があった。タクヤくんはタバコに火を付け『ヒデ、これどうする?』と聞いててきた。僕もタバコを吸い、デュポンのライターをカチンカチンと鳴らしていると『それうるさいわぁ』と苛立った言葉を投げられた。
僕は会釈で謝罪し『返金して在庫なしってことでどうですか?』というと『うん、それでイコか!』と明るめの返事をしてくれた。
タクヤくんがテレビ局のオクダ宛に在庫がありませんでしたごめんなさい、明日返金しますという旨のメールを作成し、最後に今後あなたとはお取引はしませんと付け加え送信した。
プリントのオクダの欄はマッキーで消してサカモトさんに届けた。
大変な事が起きた。はしもんくんが逮捕されたのだ。
決してオウムの指名手配犯としてではなく、大学の研究室から劇薬を盗んでいたことがバレたそうだ。タクヤくんは『アホすぎるやろ。買うたらえーのに』と怒っている。
しばらく在庫が尽きたら例の入荷したら即売り切れ商法で食いつなぐしかない。
ありがたい事にはしもんくんは合法ドラッグを大量生産してくれていたので尽きるまでは時間が稼げそう。
それから数日後、タクヤくんと一緒にいつものコンビニATMへ向かった。タクヤくんの提案で、この20万円をスロットに使おうとのこと。今日は《ファイヤードリフト》のイベントでとってもアツイらしい。
そんな事を言いながらコンビニを出ると、ニッカポッカの金髪ロン毛ノッポ、カナイのジャージの金髪ロン毛チビの2人組に絡まれた。”カツアゲかよ”と思ったら『イシガキィ、イサカリィ、黙って乗れ』と言い放ち、タクヤくんのエボ4の後ろに停めたエスティマを指差した。
タクヤくんは戸惑いながら『どないしました?』と言うとニッカの兄さんが『黙って乗れや殺すぞ』と殺気立っている。エスティマには運転手も乗っている。これはタダでは済まない感じだ。
僕らは三列目のシートに詰め込まれ、車は走り出した。後ろにはシルバーのインフィニティも仲間のようでエスティマにぴったり着いてきている。
港近くの倉庫に着くと、僕らは中に連れて行かれた。倉庫の中の更に奥の部屋に案内されると鉄パイプを持ったジャージのヒゲオヤジが椅子に腰掛けタバコを吹かしている。床には血まみれの細身のヒゲの男がくたばっていた。よく見るとサカモトさんだった。
遅れてインフィニティに乗ってきたちょっと身なりの良いスーツの角刈りのオヤジが入ってきて『どない?』と大きな声で聞くと鉄パイプのオヤジが『全然あかんわ』と答えた。
角刈りオヤジが『ルーさん、ほなダルマやなー』と大きな声で言うとサカモトさんは『ほんとわからない。誰の名前も知らない』と言う。
僕らはイマイチ状況が理解できなかったがメンバー的にはケミカルクルーだ。
倉庫のドアがダンと大きな音を立て、さらに誰かが入ってきた。振り向くとラッシーのお父さんだった。
みんなラッシーのお父さんにご苦労様です!と挨拶するとラッシーのお父さんがユージ!ちょっと来いと呼び出し二人で外へ出た。
タクヤくんが恐る恐る『…すいません、…どういったご用件でしょうか…』と言うと鉄パイプのオヤジがニヤッと笑い『おい、お客様に茶ぐらい出せやアホ』と僕を拉致った奴らに言った。
金髪ニッカのノッポがコーヒーでえーですか?と不器用に聞いてきたので『あ、はい』と言うと缶コーヒーのプルタブを開けて渡してきた。タクヤくんも同様に。
よくわからないままコーヒーをスルスル飲むと鉄パイプのオヤジが『灰皿持って来たれや』とニヤついた。
またニッカのノッポがそそくさと一斗缶の上にガラスの灰皿をセットして置いてくれた。
頂いたものは気持ちよくもらう精神で、タバコを咥えてデュポンのライターをカチンと開けた。10畳ほどのコンクリの部屋で高音が良く響く。それを横目にタクヤくんもペコッと会釈しタバコに火をつける。
サカモトさんは『本当に知らない』と鉄パイプオヤジに言うとニコッと笑って返していた。
しばらくしてラッシーのお父さんが戻ってきて『ヒデー、タバコくれやー』と言いラーメン屋で教わった方法で渡そうとすると『外で吸おや』と部屋から出した。
外にピカピカのメルセデスが停まっていて『新車やで!乗ってみ!』と言い僕を車に乗せた。
『お前、この事ご両親は知っとんか?』と言うと、何の事ですか?と答えた。『お前なぁ、全部知っとんねん。俺を誰やおもとんねん』
『合法ドラッグの事ですか?』と正直に答えると『お前、そんなんしとんか!』とあざとく驚くように返事した。
『お前ルーに何されたんや?俺はお前の味方やから今やったら助けれるで』
ん?なんか話が噛み合わんなぁと思った。
『いや、ルーさんは発送だけお願いしてますけど…』
『ほなあのロン毛のニーチャンが社長みたいな感じか?』
『社長は…僕?みたいな…ハハハ』と笑って誤魔化すと
ラッシーのお父さんが『えーかヒデ、状況わかるよな。例えばポリの情報とか全部筒抜けや。警察とヤクザはツーツーやて聞いたことあるやろ?』
『あります』
『俺はお前の人間と話したい。うちのガキとも仲良ーしてもろとるし。お前がここで道踏み外すような事があったら俺は止める。お前らにはマトモに生きてほしい。
えーか、この車なんぼかわかるか?1,200万すんねん。例えばお前が蕎麦屋でバイトして買ーた原付きが10万とするやろ?どっちが価値ある思う?』
『まぁそりゃベンツですね』
『アホか。セコい真似して稼いだ1,200万なんて1円の価値もあらへんねん。それよりマトモに稼いだ10万は100万も1,000万もそれ以上の価値があんねん!
俺にはそれがでけへん。その選択肢はないねん。わかるか!?』
『あ、はい…』
『ほな聞くで。その商売誰の指示でやっとんの?正直に言わなお前、わかるよな?』
さすがにラッシーくんのお父さんは酔っ払った時のそれと違い、ホンモノのそれだったので僕も誠意を持って正直に話す覚悟をした。
そしてこれまでの経緯を全て話した。はしもんくんの名前は伏せておいたが存在だけほのめかした。
『それ、ほんまやねんな?』
『はい』
ラッシーのお父さんはタバコに火をつけプーッと煙を吐く。
『お前ぇ、俺の手ぇ煩わせるって相当やで。お前もうやらんな?約束できるな?』
『あ、はい』
『嘘ついたらどーなるか』
『はい…』
僕を車内に残し、ユージとインフィニティのトランクに肘を付きながらなにやら話している。
一通り話し終えるとユージが僕を倉庫に招く。
何も言わずラッシーのお父さんはメルセデスで去って行った。
倉庫に戻るとさらにボコボコになったサカモトさんは唇を腫らしペッペッと血をツバのように吐いている。
ユージがタクヤくんを問い詰める。
『イシガキくん、正直に教えてほしいんだけど、あのホームページ作ったん誰?嘘ついてほしないねん。死体の処理面倒いから。おかしな事あったらすぐ殺すで。あのホームページ作ったん誰?』
『私です』
『誰の命令で作ったん?』
『僕が合法ドラッグに目をつけて企画しました』
『ほな売上は誰に収めてんの?』
『僕はサイトの管理代をもらってます』
『他は?めっちゃあるやろ?なんぼあんの?どこにあんの?』
『…』
『イシガキくん。殺したないねん。正直に言ったらどう言う成り行きでも殺さへんから』
『内訳は携帯電話にメモしてます。見せて良いですか?』
と言い、ポケットから携帯電話を取り出し、きっといつもの未送信メール画面を見せているようだ。
それを見たユージが
『うんうん。そっかそっか』と言い少し考えて部屋を出た。
おそらくラッシーのお父さんに報告したのだろう。
さっきから時々あるどうなるかわからない空白の時間がめちゃくちゃ怖い。
帰ってきたユージがタクヤくんにいくつか質問をぶつけた『君、学生さん?』
『はい』
『ふーん。なんの大学なん?コンピューター関係?』
『新戸大学経営学部です』
『マジ!?シンダイなん!へー、カシコやん!ほな君ぃ、うちの店のホームページとか作れるぅ?』
『あ、まぁ、モノによりますけど…』
『けどあれか。ヤクザの仕事はあかんか?』
『ま、まぁ…』
『なるほどカシコやな。グレーやったらえーもんな。お前さぁ、なめとーやろ?おいごらぁ!』
と急に豹変した。わけがわからん。
『おいハヤシ、道具持って来い』というと金髪ノッポニッカがそそくさと"ドウグ"なるものを取りに行った。
ハヤシは鞘に入った日本刀を持ってきて、タクヤくんを後ろ手にしてワッパを掛けろと指示した。
そしてタクヤくんをひざまずかせて鞘から刀を抜いた。
それは映画とかのシャキーンと言う気持ちいい物ではなく、木と鉄が擦れるようなザザザザと言う生々しい音だった。
タクヤくんは口を開けさせられ、その中に真剣の先を挿し入れた。
タクヤくんは涙目になり、震えているのか歯がカッカッカッと真剣に当たる音がする。
ユージは『シンダイ入るの大変やったなぁ。ごっつ努力したよなぁ』と甘えた声で問うと
『は、はい』と前歯をカチカチ真剣に当てながら答える。その間ずっとカッカッカッと音が響いている。
ユージはハヤシに『タバコ』と言うと、箱をサッと差し出し火をつけた。ラッシーくんのお父さんに教わった方法だ。
ユージは咥えタバコのまま『ご苦労ご苦労』と言う。
また恐怖の空白の時間となり、カッ、カカカカと震えが増すのがよくわかった。
タバコを吸い終えると地面に落とし足でもみ消す。
ユージが僕を親指で差しながら『お前、こいつのために死ねるか?』と無表情で質問した。
タクヤくんはとうとう涙を流し『は、はい!はい!』
と答えた。僕は反射的に恐怖がそのまま怒りに変わり、負けてもえーから一発かましてやろうと言うモードに入ったが、ユージが『えへ?まじ!?』と驚く。
『ひにまふ。ぼくがひにまふ!』
タクヤくんは涙と鼻水と口から血を流し強く応えた。
日本刀をガサガサっと鞘に戻すとユージが『お前ごっつ根性あんなぁ!この友情泣けるわぁ!』と絶賛し、鉄パイプのオヤジは拍手した。
『お前ごっつ男前やなぁ。ウチくるかぁ!?ハヤシ!お前もういらんわぁ死ねやお前ぇ』というとハヤシが下を向いてすんませんっと呟いた。
タクヤくんは無事開放され、ハヤシにタオルを貰い顔を拭った。
ユージは笑顔でタクヤくんに聞いた。『お前、ルーのために死ねるか?』
『…それは…』と言うと、ユージがタクヤくんの肩をポンポンと叩き『おい!この子ら送ったれ!あとキミらドラッグのやつ、二度とすんな!約束やで!』と念を押された。
元のコンビニに着くと青のランエボ4の姿がなく、代わりに地面にナンバープレートと時間が書かれていた。
神戸 55 い 1835 17:58 レッカー済
ワラビーのあしあと 印象秀人 @insyouhideto
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