第23話 永遠の誓いと魔法の終焉-4
引っ越し作業も終盤に差し掛かったある日、目の前で水晶のお守りが光り輝き、そして淡い光の粒子となって悠斗くんの体の中に吸い込まれるように消えていった。その瞬間、私はすべてを悟った。驚きと同時に、深い理解が私を包み込む。あの不思議な夢は、やはりあのお守りが導いていたのだ。縁結びのお守り。その言葉が、心の中で確信に変わった。
その夜から、私の夜の夢は、以前とは違う、新たな変化を見せ始めた。夢の中の悠斗くんとの関係は、これまでの激しい官能的なものではなく、穏やかで、静かなものへと変化していくことを感じ始めたのだ。以前は毎晩のように訪れていた肉体的な結合は、頻度が減り、その強烈さも薄れていくような暗示的な描写がされた。それはまるで、夢の中での情熱が、現実の私たちの愛へと完全に移行したかのようだった。
夢の共有が完全に終わりを告げたことを自覚する。夢の中の悠斗くんは、以前と同じように優しいけれど、どこか遠い。彼の表情や、私への触れ方も、以前のような狂おしいほどの情熱よりも、静かな慈しみに満ちているように感じられた。その変化に対する、僅かな寂しさや、物足りなさを感じた。夢の中で肉体的に深く結びつき、「いつ子供ができてもおかしくない関係」にまで深化していた体験がなくなったことへの名残惜しさだ。それは決して不満や後悔ではない。ただ、私にとっての秘密の救いであり、現実では得られなかった甘美な体験を与えてくれた夢が、終わりを告げようとしていることへの、名残惜しさだった。
それでも、私はその変化を受け入れることができた。なぜなら、現実の悠斗くんとの関係が、今、最高の充足感で満たされているからだ。彼と現実で深く結ばれたことで、夢が果たしていた役割は、もう必要なくなっているのだ。そう、直感的に理解した。夢の変化は、現実の幸福が満たされていることの証であり、私たちが新たなステージへと移行している証なのだ。
毎朝、目覚めると、枕は以前ほど汗でじっとりとは湿っていなかった。肌にじんわりと滲み出す汗も、ショーツの股間を濡らす甘い蜜のような痕跡も、以前よりは顕著ではなくなっていた。心臓の激しい脈打ちや、しばらく収まらなかった動悸も、穏やかになっていく。夢の痕跡が薄れていく中で、私は、現実の悠斗くんとの絆が、何よりも確かなものとして存在することへの揺るぎない確信を得ていた。
夢の役割は、私たちを繋ぎ、育むことだったのだ。それが終わろうとしているのは、私たちが、もう夢の力に頼らずとも、現実世界で愛し合えるようになった証なのだ。そう思うと、寂しさの奥から、温かい感謝の気持ちが湧き上がってきた。
悠斗くんとの結婚準備は、順調に進んでいった。ウェディングドレスを選ぶ日は、まるで夢のような時間だった。純白のドレスに身を包む私を見て、悠斗くんが目を潤ませたのを見て、私の胸は幸福でいっぱいになった。招待状のデザインを二人で考え、席次表の配置に頭を悩ませる。一つ一つの準備が、私たちの絆をさらに深くしていった。ささやかな意見の相違があっても、互いを思いやり、協力して乗り越えることで、夫婦としての自覚が芽生えていった。現実の悠斗くんとの共同作業は、何よりも私の心を温かく満たした。
友人である莉子には、結婚式の準備を手伝ってもらった。ドレス選びにも付き合ってもらい、莉子は私の幸せな姿を見て、心から祝福してくれた。
「まさか、あの夢見がちだった佐倉が、先に結婚するとはね!でも、あんた、本当に良い男捕まえたじゃん。あの葉山くんなら、絶対幸せにしてくれるよ!」
莉子はからかい混じりにそう言ってくれたが、その瞳は優しさに満ちていた。私は、高校時代に莉子に夢のことで相談したこと、そして彼女が私をからかいながらも、いつも現実的な視点を与えてくれたことに感謝した。
母も、結婚式の準備に忙しく動き回ってくれた。
「葵が、こんなに幸せになる日が来るなんてね」
ドレスの裾を直しながら、母は目を細めてそう言った。高校時代、私が夢に悩んでいた頃の相談を、母は覚えていたのだろう。
「あの時の夢が、葵の心を強くしたのね。そして、悠斗さんと本当に結ばれた。お母さんは、それが何よりも嬉しいわ」
母の温かい眼差しに、私は過去の葛藤を乗り越え、母に支えられながら成長してきたことを改めて感じた。友人や家族、そして何よりも悠斗くんに支えられながら、私は人生の新たなステージへ進む喜びを噛み締めていた。
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