第24話 永遠の誓いと魔法の終焉-5
大学卒業後間もない6月、梅雨の晴れ間が差し込むこの日、葉山悠斗と佐倉葵は、永遠の誓いを交わすために、チャペルの扉の前に立っていた。緊張と、これまでの道のりを思い返す感動が、二人の胸中で入り混じる。
悠斗は、真新しいタキシードに身を包んでいた。鏡に映る自分の姿は、高校生のあの頃とは違う、一回りも二回りも大きくなった男の顔をしている。ネクタイを締め直し、深く息を吸い込んだ。人生最大の晴れ舞台だ。失敗するわけにはいかない。
一方、葵は、純白のウェディングドレスに身を包んでいた。繊細なレースが施されたドレスの裾が、床に美しく広がる。母と友人の莉子が、私の支度を手伝ってくれた。莉子は「まさか葵がこんなに早く結婚するとはね!」とからかいながらも、その瞳は優しさに満ちていた。母は、私の髪を優しく撫で、潤んだ瞳で「おめでとう、葵」とだけ言ってくれた。その温かい眼差しに、私はこれまでの全てを思い出した。あの夢の葛藤も、母の支えも、全てがこの日のためにあったのだと。鏡に映る自分の姿は、あの夢の中の結婚式の姿と寸分違わず、現実が夢を超えた、あるいは夢が現実になった瞬間だと感じた。
チャペルの扉がゆっくりと開く。柔らかな光が差し込むバージンロードの先に、悠斗くんの、愛おしい姿が見えた。彼が、私を真剣な眼差しで見つめている。一歩、また一歩と、父の腕に支えられながら、悠斗くんの元へと歩みを進める。その一歩ごとに、これまでの悠斗くんとの思い出が、走馬灯のように脳裏を駆け巡った。
悠斗の目の前で、チャペルの扉が開いた。純白のドレスを身に纏った葵が、父親と腕を組んで、ゆっくりとバージンロードを歩いてくる。その姿は、息を呑むほど美しかった。高校の図書室で、隣に座って黙々と勉強していたあの頃の葵とは違う、自信と幸福に満ち溢れた、大人の女性の姿がそこにあった。夢の中で幾度となく見た花嫁姿が、今、現実となって目の前にいる。悠斗の瞳から、熱いものがこみ上げた。
祭壇の前で、二人は向き合った。牧師の厳かな声がチャペルに響き渡る。
「葉山悠斗さん、佐倉葵さん。あなたは病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、妻を愛し、敬い、慈しみ、永遠の愛を誓いますか?」
「誓います」
悠斗の声は、震えていたが、その瞳には揺るぎない決意が宿っていた。
「誓います」
葵の声も、涙で少し震えていたが、その心は晴れやかに響いた。
指輪の交換。悠斗は、震える手で指輪を葵の左手の薬指にはめた。指輪が、彼女の細い指に吸い込まれるように収まる。その輝きは、二人の愛の証だ。
そして、誓いのキス。
悠斗は、葵の顔を優しく包み込み、ゆっくりと唇を重ねた。それは、これまでの現実での初々しいキス、夢の中で幾度となく交わした甘く激しいキス、そして第20話での真の結合のキス、その全てがこの瞬間に統合されるかのような、深く、温かく、そして永遠を誓うキスだった。唇から伝わる互いの温もり、微かな震え、そして混じり合う吐息。夢と現実の境界線は、もはや完全に消え去り、二人の愛だけがそこにあった。
披露宴会場では、友人や家族からの温かい祝福の言葉が贈られた。莉子は、涙を拭いながら「まさか、あの夢見がちだった佐倉が、先に結婚するとはね!」とからかい、母は「葵が、こんなに幸せになる日が来るなんてね」と、私たちを温かく見守ってくれた。周りの人々に支えられながら、私たちは人生の新たなステージへ進む喜びを噛み締めていた。
結婚式を終え、二人は新婚旅行へと向かった。穏やかな南の島で過ごす時間は、幸福に満ち溢れていた。夢の中で見た「未来の家」が、今、現実のものとなっていた。朝、目覚めると隣に悠斗くんがいることの確かな幸福感。共に朝食を準備し、食卓を囲む。休日に二人で家事をしたり、穏やかに過ごしたりする共同生活のすべてが、悠斗にとって、そして葵にとって、何よりも尊いものだった。夢の中で体験した「いつ子供ができてもおかしくない関係」の深化は、現実の二人の間に新たな命が宿る可能性として、静かに意識されるようになった。夜の夢は、お守りが消えてから、穏やかな日常の続きへと変わっていた。もう、あの激しい快感の夢を見ることはない。夢の役割は、現実の二人の関係へと完全に移行したのだ。
二人は新居のソファに並んで座り、互いの手を見つめ合った。薬指には、きらめく結婚指輪が輝いている。悠斗は、手の中に残るお守りのひんやりとした余韻を感じていた。それは、遠い記憶のようで、しかし確かに彼らを結びつけた証だった。
「悠斗くん、私……」
「葵」
二人は同時に、互いの顔を見つめた。言葉は要らない。
この「水晶の夢路」は、私たちを現実の愛へと導く、夢の道筋だったのだ。奇跡のような力に導かれ、私たちは出会い、そして結ばれた。それは、ファンタジーの力を超えて、現実の深い愛として完成した物語だ。
その日、葵の腹部に、じんわりとした温かいものが広がるのを感じた。それは、かつて夢の中で感じた、小さな命の予感によく似ていた。悠斗は葵の手にそっと自分の手を重ね、未来への確かな希望が、二人の間に満ち溢れた。
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