第20話 社畜(サンダーバード)VSラヴォルス騎士たち


「イマズマ!」


 窓から飛び出した俺に一瞬だけ遅れて、増殖した黄色い羽たちが追いかけて来る。


 ――バサバサッ!!


 増殖したイナズマは、俺の意志通りに背中に集まり、羽が組み合わさって翼になる。

 グンと俺の体が持ち上がった。


「よし、行くぞ」


 ――ギュン!!


 俺の体が宙を舞い、一気に加速する。

 冷たい夜風が肌をなでた。


 バチバチと弾ける電撃は抑えて、村の人々の目を欺くように音もなく飛行する。

 風を切る小さな音だけが夜空を駆け抜ける。


「方向はこっち……さすがに暗いな」


 メイドが出かけたという方角へ、空高くから街を見下ろしながら進む。

 建物の影、路地の奥、怪しげな物音……神経を研ぎ澄ませて索敵するが、元の世界と違って夜の明かりが少ないというか、建物から洩れる光が弱いようだ。

 場所によってはほとんど真っ暗な場所もある。


 この世界特有の赤い月と青い月は、地上を照らすに不向きのようだ。


「目視で探すのは難しそうだな……だったら」


 新しい目を増やす。

 

「イナズマ、頼む!」


 いくつかの羽が翼から飛び出し、地上へ急降下した。

 さすがにイナズマの視界は共有できないが、意識は伝わる。


「目立たないようにな」


 すぐに反応があった。

 人気のない裏路地で、急いで近づくと、微かに男たちの下卑た笑い声が聞こえてきた。


「あの騎士たちか……!」


 甲冑が月明りを反射する。


「イナズマ、いくぞ!」


 急降下して近づくと、月明かりの下でもその光景が鮮明になる。

 見覚えのあるメイド服の女性が、数人の騎士に囲まれているのが見えた。


(シルヴィアと同じメイド服……!)


 メイドは恐怖で顔を歪め、露出した肩を震わせている。

 服は乱れ、今にも泣き出しそうな表情だった。


 俺は速度を上げ、一気に地上へと舞い降りた。


 ――ザッ!!


 ワザと音を立てて着地する。

 同時、イナズマは翼モードから解放し、懐に収めた。


 増殖しても元の一枚の羽に戻れるらしい。

 便利だな。


「あ……? 誰だっ!?」


 騎士たちが慌てて振り返る。


 騎士は……2人だけか。


 周囲には他に人の気配はない。


「なんだ? 見かけねぇ顔だが……難民の寄生虫野郎か?」


「いや、俺は見覚えがあるぜ。エルンの連中だよ。あのお嬢ちゃんと一緒にいるのを見たことある」


 コイツ……以前、ナクシャ村に向かう途中ですれ違った騎士か。


 相変わらず人を見下したようなムカツク態度だ。


「エルンの女ってのはなんでこうも上玉揃いなんだろうなぁ? ん? コイツもエルン村のヤツってことは、関係者か? 助けに来たってか?? ぎゃはは!」


「へへっ、もうちょっとで極上の遊びが味わえたってのに、邪魔すんじゃねぇぞ?? てめぇみたいな貧相なモヤシには、こんな上等な女はもったいねぇからな!!」


 騎士の一人がメイドの顎を掴み、舐めるように顔を覗き込む。


 どうやらまだ決定的な事態には至っていないようだ。

 だがメイドは恐怖で顔を蒼白にし、震えている。


 騎士たちの醜悪な顔と吐き捨てるような汚い言葉に、俺の胸に冷たい怒りがこみ上げる。

 

「一応、警告してやる。今すぐその人から離れろ。言う通りにすれば、俺もお前らに何もしないでやる」


「あ……?」

「は……?」


 騎士たちは一瞬、ポカンと呆気にとられたようだが、すぐに分かりやすく血管を浮き上がらせた。


「おいおい難民の寄生虫野郎、どうやらお前から遊んでほしいらしいなぁ?」


「ってく、これだからカスどもは……少しやさしくするとつけあがりやがる! 教育が必要だよなぁ!?」


 威圧的な言葉を吐き捨てながら、騎士たちは武器に手をかけた。


 こいつら、煽り耐性が低いな。

 格下だと見下していた相手に少しでも反抗されたら、今までもこうして武器をチラつかせていたのだろう。


 同じ人間相手でも簡単に抜くらしい。

 暴力に頼るだけで知性の欠片も感じない。


 実に情けない連中だ。


「警告はしたぞ? どうしてもケガしたいって言うなら……こい」


 ワザと挑発してやると、すぐに乗ってきた。

 単純で助かる。


「調子に乗るなカスがぁああああ!!!!」


「死ねぇえええええええええええ!!!!」


 一人は剣。

 もう一人は槍。


 それぞれの武器を振り上げて突進してくる。


(何の武器だろうと関係ないけどな……)


 騎士たちがメイドから充分に離れたところで、俺は静かに一歩、踏み出した。


「イナズマ」


 ――バチィン!!


「がっ!?!?!?」


「ぎゃ!?!?!?」


 闇夜に一瞬だけ、青白い閃光が走る。

 次の瞬間には兵士たちの体がビクンッと硬直していた。


 騎士たちが手にしていた武器は音を立てて地面に落ちる。


 甲冑の隙間から潜り込ませた小さな羽が、騎士たちを感電させたのだ。


「大丈夫か?」


 その隙に、俺はメイドの元へと歩み寄った。


「あ、あぅ……」


 恐怖で言葉がでないらしい。

 乱暴に剥かれた服の代わりに、まとっていたローブをかぶせてやる。


 メイドは目にいっぱいの涙を浮かべていた。

 肩はまだ震え、呼吸も浅い。


「もう大丈夫だ」


 彼女を安心させるように、やさしく抱きしめた。


「あ、ありがとう……ございます……」


 その声は震えていたが、確かに感謝の言葉だった。

 俺はメイドの無事を確かめ、倒れた騎士たちに冷たい視線を送った。


「……で、電気!? こいつ、魔術師か!?」


「うっ……クソがぁ!! 卑怯者めっ!!」


 騎士たちはまだ意識があるようだ。


(この世界の人間は、俺が思っているよりも頑丈みたいだな)


 もう少し痛い目にあってもらうか。

 この女性の恐怖は、この程度じゃなかったハズだ。


「イナズマ、出力をあげるぞ」


 ――バチィィィィン!!!!


「ぐっ、があああああっ!? いってぇぇぇぇええええ!?」


「ひ、ひぎぃぃぃっ!? 体が、体が痺れるぅぅぅぅ!?」


 騎士たちは、泡を吹いてその場で悶え苦しみ始めた。

 まるで壊れた操り人形のようにガクガクと震え、のたうち回る。


 さっきまでの傲慢な態度はどこへやら、醜い悲鳴を上げながら地面を転がり回る姿は、まさに無様な虫けらだった。


「や、やめてくれえええええ!!」


「止めやがれえええええええ!!」


 全く、人にモノを頼む態度ってのができてないな。


 あとは口止めしておくか。

 仕返しをしようなんて考えられても困るからな。


「ここでのことは全て忘れろ。誰にも、何が起きたかはしゃべるな。そうすれば……これ以上、苦しむ事はない」


「う、うるせええええ!! 電撃をやめやがれええええ!!」


「て、てめぇは絶対に許さねえからなああああああ!?!?」


 情けない姿でよくもそんなセリフが言えるものだ。

 逆に恥ずかしいと思うのだが。


「そうか、まだまだ元気みたいだな。だったら望む通り、遊んでやる」


 ――バチィィィィン!!!!


「ぎゃあああああああああああ!!!!」


「ひぎぃいいいいいいいいいい!!!!」


 数回、電撃を浴びせてやると、騎士たちはやっと少しはマシな態度になってきた。


「だ、助けでくれぇぇぇっ!! 体が、体が焼けるぅぅぅっ!!」


「ゆ、許してぐれぇ! もうじません!! もうじませんからぁっ!」


 なさけなく失禁しながら言うが、今更こいつらを信じようと思えない。

 でも、効果はあることは分かった。


 だから……


「安心しろ、許してやる。おまえらが心の底から屈服した時にな?」


 そして騎士たちが完全に気絶するまで、イナズマによる制裁は続いたのだった。

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