第2話|ざしきねこ、風呂場で滑る

 風呂掃除が面倒だ。

 けど、古民家の風呂は何かと傷みやすいらしく、放置してるとすぐにカビる。


 しぶしぶバケツに水を汲んで、ゴム手袋をして、床と浴槽をざぶざぶ擦る。

 ついでに風呂のフタも、久々に天日干ししようと持ち上げた、そのときだった。


 ズルンッという軽快な音とともに、何かが滑り落ちる気配。

 反射的に風呂場の天井を見上げて、すぐ足元へ視線を戻す。


 そこにいたのは、白と黒のまん丸モフ。


 しばらく固まったのち、ふわっと尻尾だけが立ち上がる。

 その後、モフモフは何事もなかったかのように、フタの裏側に隠れた。


 「……いたのかよ」


 何かが、胸の奥でぷつんと弾けた。

 たぶんそれは、久しぶりの“笑い”。


 声こそ出なかったけど、口元が自然にゆるんでいた。

 あの猫、絶対風呂のフタの上で昼寝してた。滑って落ちた。かわいい。

 いや、何の生き物だよ、そもそも。


 掃除を終えたあと、ちゃぶ台の上には、今日も**うまい棒(サラミ味)**が2本。

 そして、付箋が1枚。


 『すべったの、内緒。』


 そこに描かれた、まんまるな足跡のスタンプ。

 バレバレだ。

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