ざしきねこ日和。

せしる

第1話|うまい棒が2本に増えていた日

 朝。いや、正確には昼前。


 目が覚めて、時計を見たのが10時過ぎだった。

 でも特に焦りはない。というか、焦る理由がもうない。


 「……今日も、何もねーよ」


 つぶやいて、カーテンの隙間から差し込む光をぼんやりと眺める。

 都会での仕事を辞めて、田舎の古民家に越してきてから、こんな日がもう何日も続いていた。


 この家は、祖父母が住んでいた築60年の木造家屋。

 急な階段と、ギシギシ鳴る床と、やたら広い縁側が特徴だ。

 不便だけど、空気はうまい。虫は多いけど、隣人はいない。


 「……メシでも買ってくるか」


 着替えて、駅前の小さなスーパーへ向かう。

 田舎のくせに、うまい棒だけは種類豊富だ。

 特にサラミ味が好きなので、1本だけカゴに入れる。


 帰ってきて、ちゃぶ台に座って袋を開けた。


 ……ん?


 2本入っていた。


 「は?」


 一瞬、買い間違えたかと思った。でもレシートにはうまい棒×1とある。

 じゃあなぜ2本? 気づかずもう1本入れた? いや、それなら気づくはず。


 ぼんやりした頭で考えていると、ちゃぶ台の下でカサッと音がした。

 そっと覗き込むと、黒と白のモフモフが一瞬見えた気がした。


 「猫……?」


 でも、姿はすぐに消えた。

 あとに残ったのは、ちゃぶ台の上に置かれた付箋。


 『サラミ味、すき。』


 ……誰だよ。

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