第21話「坊主が出たら、恋の罰ゲーム?」

「いっけー! この一枚に、私の運命、かけるっ!」


 愛花が勢いよく札をめくると、部室の空気が一瞬にして凍りついた。


「……」


「……」


「ぼ、坊主だー!」


 心菜が叫ぶ。愛花の手元には、鮮やかな墨の袈裟をまとったお坊さんの姿。誰が見ても完璧な「坊主札」。


「うそでしょ! ここで坊主はないでしょ!? せっかく姫札集めてたのに〜!」


 畳の上に突っ伏す愛花に、周りの部員たちは大笑い。


「わ、わたしも……坊主だったらどうしよう……」


 実結も緊張した面持ちで札を引く。指先が震えている。


「はいっ!」


 ぺら、と一枚をめくると、そこに描かれていたのは、にっこりと笑う女御の姿。


「おお、姫札! おめでとう、実結ちゃん!」


 心菜が思わず拍手すると、実結はぱぁっと顔を輝かせた。


「やったー! わたし、初めて姫札引いたかも!」


 その様子を見ていた九条先輩は、ほんの少しだけ口元を緩めた。


「さて、問題は愛花さんですね。坊主札、引いちゃったからには——覚悟、できてる?」


「ひ、ひえっ……何? 何されるの!?」


「罰ゲームだよ。今日だけ、心菜ちゃんの言うこと、なんでも一つ聞く!」


「えええええっ!? まってそれ、けっこうエグいよ!?」


 愛花はうろたえるが、心菜はあまりの急展開に固まっていた。


「え、私? えっと……な、なんでも?」


「うん、なんでも。恋愛相談でも、勉強の手伝いでも、デートのお誘いでも〜」


 九条先輩のニヤニヤした声に、心菜の頬がほんのり赤く染まる。


「べ、べつにそんな……無理して言わせるようなことじゃ……」


「あ〜、それ、逆に気になるやつ!」


「わたしも気になる!」


 実結と愛花が同時に身を乗り出す。


 心菜は少しうつむいて、それでも、ゆっくりと視線を上げた。


「……じゃあ。今度の週末、いっしょに図書館、行ってくれる?」


「……!」


 愛花の目がぱちくりと瞬く。


 でも次の瞬間、ふっと柔らかく微笑んだ。


「うん、いいよ。心菜とだったら、どこだって楽しいし」


 冗談交じりだった部室の空気が、少しだけ優しいものに変わった。


 坊主めくり——ただの遊び。けれど、札一枚で、心の距離も一歩近づく。


 畳の上、散らばる札たちが、そんなふたりを見守っていた。

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