第20話「笑い合って、めくる札」

 放課後、かるた部の和室には、いつもとは違う空気が漂っていた。


 机の上には、色鮮やかな百人一首の札がずらりと並び、その傍らにはお菓子やジュースが用意されている。今日は、いつもの練習とはちょっと趣向を変えて、「坊主めくり大会」を開催することになっていた。


「よーし、準備完了。今日の運試し、誰が一番運がいいか勝負だよ!」


 実結が声を弾ませながら札の山を整える。心菜と愛花、美沙希先輩、そして顧問の伏見先生まで加わって、なごやかな雰囲気が漂っていた。


「私、坊主めくりって久しぶりです。小学生のとき以来かも」


 愛花が笑いながら言うと、美沙希先輩がうんうんと頷く。


「意外と盛り上がるのよね、これ。かるた部だけど、たまにはこういう息抜きも必要でしょ?」


 じゃんけんで順番を決め、最初の一枚を引くのは心菜になった。


「じゃあ、いきますね……えいっ」


 引いた札を裏返すと、色とりどりの着物に身を包んだ女房の絵。周囲から「おお〜」と歓声が上がる。


「やった、女房!」


 心菜が嬉しそうに札を自分の前に置くと、続いて愛花が手を伸ばす。


「お願い、坊主だけは来ないでよ……」


 祈るようにしてめくったその札には、黒い衣をまとった僧侶の姿。


「……えっ、坊主……?」


 一瞬沈黙が流れたあと、実結が大笑いする。


「愛花ちゃん、やっぱり持ってる〜! 坊主一発目はおいしいよ!」


「えーん、私の札が全部没収されたー!」


 そう言いながらも、愛花は笑顔で頬を膨らませる。負けても悔しさよりも楽しさが勝る、そんな空気が和室に満ちていく。


 やがて、美沙希先輩が引いた姫の札で全員のテンションは最高潮に。


「姫! 札を総取り! ふふふ、これがマネージャーの実力よ♪」


「うわー、先輩、強すぎます……!」


「でも、次に坊主引いたら全部没収ですよ!」


 ゲームが進むごとに、笑い声が重なり合い、部室はにぎやかさで満ちていった。


 そして最後の一枚をめくったのは伏見先生だった。


「さて、顧問の実力、見せてあげましょうか」


 めくった札は――坊主。


「ふふ……これが現実ね」


 先生の渋い一言に、全員が吹き出す。


「先生ー! 締めが坊主って最高です!」


 笑いと温かさが溶け合うように、部室に心地よい時間が流れていた。


 かるたという競技の厳しさとはまた違う、札を囲んで笑い合う楽しさ。


 それもまた、「百人一首」が持つ魅力の一つだった。



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