第9話:日常のハーモニー
「わかP」としての活動が本格化して、
私の日常は大きく変わった。
学校では相変わらず目立たない私やけど、
スマホの中には、
たくさんの応援コメントや、
増え続ける再生数が溢れている。
自分の言葉が、誰かの心を動かしてる。
その喜びが、私の毎日を彩っていた。
ブレイズとの音楽制作も、
私にとって大きな支えやった。
怜姉ちゃんとの会話も、
以前より少しだけ増えた気がする。
練習スタジオ『リズム堂』に行くたびに、
彼女らの音楽への情熱に触れて、
私の中の創作意欲も刺激される。
彼女らの『Burning Soul』の衝動的な音が、
私の中でくすぶっていた小さな火に、
燃料を注いでくれるようやった。
ある日の夕食後、
リビングでぼんやりテレビを見ていると、
怜姉ちゃんがスマホをいじりながら、
ポツリと呟いた。
「あんたの『ふたりでなら』、
また再生数伸びとるな」
私は、ドキッとして怜姉ちゃんを見た。
彼女は、画面を見たまま、
特に表情を変えることもない。
「あ、うん……なんか、すごいことに、なっとるなぁって」
曖昧に答える。
私の声は、少し上ずっていたかもしれへん。
「ふん」とだけ言って、
怜姉ちゃんはまたスマホの画面に目を落とした。
言葉は少ないけど、
彼女が「わかP」の人気をちゃんと知ってて、
静かに見守ってくれているのが伝わってくる。
多くを語らない、怜姉ちゃんなりの応援。
それが、私には何よりも嬉しかった。
彼女のそういう不器用な優しさに、
いつも救われている気がする。
別の日の放課後、
私はブレイズのメンバーに呼ばれて、
リズム堂に来ていた。
新しい曲の歌詞について、
直接話し合いたいと連絡があったのだ。
スタジオに入ると、
ちょうどメンバーたちが休憩しているところやった。
アンプから微かに漏れる金属の匂いと、
練習後の熱気が混ざり合っている。
「お、わかPさん、いらっしゃーい!」
ギターの瀬戸さんが、いつもの笑顔で迎えてくれる。
「新作の歌詞、早速読ませてもらったっすよ!
いやー、今回も最高っすね!」
ベースの篠田さんが、首をひねりながら言う。
「特に、あの『震える心 独り彷徨う』ってフレーズ、
なんか、頭から離れねぇんだよな。
これ、サビで使いたいっすね!」
彼女らが話しているのは、私が作詞した
ブレイズの新しい曲、『Echoes in the Dark』のことやった。
私は、顔が熱くなるのを感じた。
自分の言葉が、彼女らの心を動かしてる。
その事実が、たまらなく嬉しかった。
私の内側に秘めていた感情が、
こんな風に形になるなんて。
「あ、ありがとうございます……」
思わず、モゴモゴと小さな声で答える。
「作詞の才能もさることながら、
どんどん歌声も安定してきてるよな、わかP」
ボーカルの人が、ニヤリと笑う。
「『透明な声が』って歌詞、
まさに和歌の声そのものだよ。
初めて聴いた時、ゾクッとしたもん」
「あはは……」
どう返していいか分からなくて、ただ照れ笑いする。
でも、彼女らは本気で、私の音楽を受け止めてくれている。
そう思うと、胸の奥が温かくなった。
彼女らの言葉は、私の自信へと繋がっていった。
ブレイズのメンバーとの音楽制作は、
いつも刺激的やった。
彼女らは私の歌詞に、新しい命を吹き込んでくれる。
私が作った言葉が、彼女らのパワフルな演奏と歌声と合わさって、
全く違う輝きを放つ。
怜姉ちゃんのドラムは、
『Burning Soul』で聴いた時と同じく、
感情の塊みたいに響く。
ボーカルの伸びやかな声が、
私の歌詞を乗せて、
『闇に響く この歌が』
と、スタジオいっぱいに広がる。
まるで、私の小さな世界が、
彼女らによって無限に広がっていくような感覚やった。
怜姉ちゃんも、私が作詞したブレイズの曲に、
いつも以上に熱心にドラムを叩く。
彼女のドラムは、単なるリズムだけじゃない。
歌詞の感情を、音で表現しているようやった。
特に、『Echoes in the Dark』の
『闇に響く この歌が』
『心の奥底 揺らすエコー』
というフレーズに合わせて、
怜姉ちゃんのドラムが、
心の奥底を揺らすエコーのように響く。
言葉ではない、音楽と信頼によって、
姉妹の絆も、バンドメンバーとの絆も、
深まっていくのを感じた。
私たち姉妹は、それぞれの音で、
お互いの存在を確かめ合っているようやった。
音楽制作を通じて、私とブレイズのメンバーの間には、
確かな信頼関係が築かれていった。
彼女らは私を、ただの「怜の妹」としてではなく、
一人のアーティストとして扱ってくれる。
時には、歌詞の解釈について
真剣に議論を交わすこともあった。
「和歌、この『迷い込んだ影』って部分、
どんな感情を込めたんだ?
もっと絶望的な感じなのか?
それとも、その中に、微かな光を信じてるような……」
そんなやり取りを重ねるたびに、
私の言葉への理解が深まっていくのが分かった。
自分の内面を、言葉で、音で表現することの難しさ。
そして、それが誰かに伝わった時の喜び。
全てが、私にとって新しい発見やった。
彼女らが私の言葉を真剣に受け止めてくれることが、
私にとって何よりの喜びやった。
充実した日々の中で、
和歌は創作への喜びを深める。
学校では、まだ友達と呼べるような存在はいなくて、
相変わらず孤独を感じることはある。
クラスメイトの賑やかな声を聞くたびに、
一瞬、胸が締め付けられる。
でも、パソコンを開けば、
私を待っている世界がある。
ブレイズのメンバーが、
私の言葉を必要としてくれる。
そして、画面の向こうには、
私の歌を待ってくれている
たくさんのリスナーがいる。
私の中の、「私にしかできないこと」が、
少しずつ輪郭を持ちはじめていた。
それは、私にとって、
何よりも確かな自信になっていった。
音楽が、私を強くしてくれた。
孤独だったはずの毎日が、
今は、温かいハーモニーに満ちている。
この歌が、もっと遠くへ届きますように。
『光求めて もがく魂よ 響け、遠くへ』
『Echoes in the Dark』の歌詞が、
私自身の願いと重なって、胸に響く。
そんな願いを胸に、私は今日も、
静かに、しかし情熱的に、
キーボードを叩き続けた。
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