💀18 骨だけに

 

 崇高な研究のために私を解剖しそうなアシュレをなんとか引き剥がし、智獣たちにアシュレを取り押さえてもらった。


 それから辺りを見回したが、ロダンがいないのでハイビスに尋ねたら、彼はひとり遠い場所で修行に明け暮れているという。まあ、その方がロダンらしいとも言える。


「ハイビス、食材はどんなものが残っていますか?」

「はい、クレセントキャロトや七色トマタ、昨日、川で取れた魚が残っています!」

「では、せっかくなので、今日は私に料理を振る舞わせてください」


 よく50年来の親友、勇者アーテと酒のツマミで、料理を作ったものだ。

 骸骨の姿なりをしているが、食べたり飲んだり普通にできる。お腹が空いたり喉が渇くわけではないのだが、味や雰囲気を楽しむのが好きなのだ。──でも、食べたものがどこに行くのかは食した私にも謎だったりする……。


 今日作ろうと思いついたのは、「果実たっぷり濃厚トマタスープ」。


 森で採れた赤く熟れた果実とみずみずしい三日月の形をしたニンジンをメインに使う。


 まず野菜や果物を川まで行って丁寧に洗ってきた。

 水を張った鍋に火を入れ、加熱しながら野菜や果物を刻み始める。


 切って潰した七色トマタとクレセントキャロトを鍋に加え、火加減に気をつけつつ、じっくり煮込む。


 料理というのは、味も大事だが、食材の色や香りを活かすと、より洗練された料理になる。今回は赤色をメインにした料理なので、果物の色にも気を遣った


 スープを煮込んでいる間に細かく切った果物を用意した。これを最後に加えることで、甘酸っぱさが引き立つ。スープが煮えた頃、味見をし、少し塩を加えることで全体のバランスを整えた。最後に香草を振って香りを際立たせた。


「すごい……美味しい」


 ハイビスが目を見開いて驚いている。

 続けて私も果実たっぷり濃厚トマタスープを一口飲んでみる。口の中に広がるのは濃厚でありながらも爽やかな酸味。熟れたトマタの甘さと、みずみずしい三日月形のニンジンの優しい甘みが絶妙に絡み合っていて、まるで森の恵みをそのまま味わっているかのよう。


 スープの中に散りばめられた果物が、見た目にも楽しませてくれ、口に入れて噛むたびに果物のジューシーさがじゅわっと広がる。スープの熱で少し柔らかくなっていて、甘酸っぱさが際立ち、より全体に深みを与えることに貢献している。さらに最後に振りかけた香草が香りを引き立て、スープを一層魅力的なものに仕上げてくれた。


 智獣たちも喜んでくれているが、アシュレは元お嬢様だからなのか、料理にはそこまで関心を示していない。まあ私の料理は庶民的な味なのかもしれない。


 食事をとり終えた私にアシュレがニヤニヤしながら近づいてきた。また私の顔でもいじくり回すのかと警戒したが、耳元でそっと囁いた。


「お風呂……用意してるよ?」


 風呂、か……。

 基本骸骨なので、垢がたまったり、汗もかかない。なので、臭くなったりしないが、水浴びすると気持ちがいいので、勇者アーテから聞いていたお風呂というものに興味はあった。


 でも、なんで囁き声?


 川辺まで移動すると、先ほど野菜や果物を洗った少し下流のところに木枝と葉を束ねて積み上げた簡易な塀があり、回り込むと河原を掘り下げた湯舟があった。


 中空の木の幹を這わせた樋で上流側から川の水を引き込み、満水になって溢れた分だけ下流側向けの樋へ流れて水を循環する仕掛けが施されている。


 その上で、アシュレが筒のようなものを湯舟の底に沈めた。


「今のはなんです?」

「あれは焦熱筒だよ」


 焦熱筒は、火を使わずに筒自体を発熱させるものらしく、アシュレの発明品のひとつだという。筒の中には小粒大の魔導石が入っていて、これだけで1か月は使えるそうだ。魔導石の魔力が切れても、交換が可能とのこと。


 ちなみに魔導石精製器マナ・リファイナーは、アシュレの叔父によって発明された世界に1台しか機械だが、アシュレは叔父が亡くなった後、サマランに気づかれないようににこっそり携帯型の魔導石精製器マナ・リファイナーを完成させていたそうだ。大きさは大人の拳くらいで、上の開いたところに魔石を入れて、レバーをグルグルと回したら小粒大の魔導石を抽出できるらしい。この大きさだと魔導装甲兵など大出力の兵器は動かせないが、焦熱筒のような出力がそこまで必要ではない生活用品のエネルギーとして引き出すには十分だという。


「アルコさんからどうぞ!」

「いえ、ハイビスとアシュレから先に入ってください」

「いえいえとんでもない~。この箱庭の主がいちばん先に入ってくれないと他の者に示しがつかないから、ね?」


 やけにニヤニヤしているアシュレと後ろで顔を赤く染めているハイビスが気になるが、そこまで言うなら先に入るとしよう。


 ひとり目隠しの塀の内側に入り、白い鎧の下に身に着けている服も全部脱ぐ。

 まあパッと見、動く骸骨なのだが、誰も見ていないので恥ずかしくない。


 あ~いい湯だ。

 骨身に染みる。骨だけに……。

 この身体の芯から温まる感覚気持ちいいんだよね。骨しかないだけど……。

 水質が柔らかくお肌に優しいしっとりとした滑らかさ。骨だけど……。


 うーん、骨ボケしてもツッコミ不在なので、すべり倒してショックで風呂から出る時に本当に滑って骨折しそう……骨だけに……。







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