💀17 きっかけは突然に


「おいおい、剣なんか抜いちゃってるぞアイツ⁉」

「笑わせるぜ、その魔樹は200人は喰ってる・・・・んだぞ!」


 両方から嘲笑めいた笑い声が聞こえてくる。


 そうなんだ。

 この木のせいで誰も橋を渡れず、ずいぶんと経っているんだ。

 だったら、なおさら退治・・・・・・したくなってきた。


 まったく微動だにしなかった赤い実をつけた巨大な木が怪しく蠢きだす。

 鬱蒼とした葉の中から想像よりはるかに速い蔦が無数に飛矢のごとく迫ってきたので、そのすべてを叩き切る。


 しばらく、蔦切りを続けていたが、埒が明かない。

 接近を試みたいが、木のまわりに漂う赤い霧が気になる。

 たぶん状態異常を引き起こす何かだと思うが、どんなものかを推し量る術がない。

 そこで、橋の端へ近づき、石でできた欄干を大き目にサイコロ状に斬って、橋の下にスキル〈百の動力マグニチャント〉を発動させながら放り投げた。


 橋の下に足場ができた。

 巨大な石片が川面から顔を出しているので、これで下に降りることができる。

 生い茂った枝葉に蔦を忍ばせているなら、枝葉のない橋の下で、幹をぶった斬ればよい。


 しかし、いざ、橋の下に回り込むと今度は水面から太い木の根が何本も伸びてきた。蔦ほど速さはないが、力が強く、私が2、3本斬り飛ばしている間に足場である石片を締め付けて壊してしまった。それでやむなくもう一度、橋の上に戻る。戻ったと同時にまた無数の蔦による乱撃で悩まされることになった。


 近づくことができず、かといって、離れていても蔦の容赦ない攻撃にさらされ続ける。


 ん~~っ。…………怒った!


 私でも感情が昂ぶることくらいある。


 蔦の攻撃範囲から離脱して、両手で剣を握り、右肩に乗せる。

 そして橋面を蹴り、魔樹に向けて高く飛ぶ。


 私のスキルで、呪剣の大きさを百倍にする。

 巨大な剣が橋の中央を占領している魔樹を真っ二つにしたどころか、大きすぎてタイタル聖王国側の砦まで真っ二つに破壊してしまった。


 橋は……無事だ。

 よかった。


 幸い、砦を綺麗に真っ二つにしたお陰で犠牲者は出ていないみたい。

 ちょっとやりすぎた感があるが、あまり深く考えたくない。

 下手したら、聖王国側でも追われる身になりそうな気がする。

 どこかで身に着けている鎧を替えた方がいいかもしれない。


「あの木をぶった斬りやがった……」


 ぼう然と眺める帝国兵と聖王国兵。


「戦争が……戦争がはじまる……」

「そっ、そうだ。今の内に向こう岸をるぞ」


 聖王国兵のつぶやきに、我に返ったのか帝国兵が橋を渡って、砦が破壊された聖王国へ突撃をはじめた。


 我ながら悪いことをしたという自覚がある。

 だけど、私が死ぬ前提で賭け事なんかする方が悪い。


 それにしても、この魔樹はいったいこんなところになぜ育ったのだろう?

 もしかして、誰かが帝国と聖王国の戦争を止めるために植えたのかも。


 橋の上で立ち止まって考え事をする私を帝国兵が追い抜いていき、聖王国側の岸で、剣戟音が響きはじめた。


 戦っている彼らを無視して、タイタル聖王国の領土へ入った私は、一度森の中へ入る。そこで、魔法の箱庭の運搬役をマルにお願いするべく、箱庭の中に入った。
















 あれ?

 皆どこ行ったのかな?


 見渡す限り、誰もいない。

 私が設営した野営用のテントや焚き火なども片づけられた跡があるが、周りには人の気配がない。


「マル~~」

・・・・あうーん!」


 微かにマルの鳴き声が聞こえた。

 しばらく待っていると、ここから少し離れたところにある森の中からマルが飛び出してきた。


「ぱひゅっぱひゅっぱひゅっ」

「こ~らっ、くすぐったいぞ!」


 私に向かって、ジャンプしてきたので、キャッチしたら、鉄面を上げた私の素顔をペロペロと舐めてきた。


 信頼と愛情から私の顔を舐めているんだよね? 

 間違っても美味しそうな骨に見えてないよね?


 それにしても、興奮した犬の呼吸って普通「はぁはぁはぁ」って感じなはずなのに「ぱひゅぱひゅ」ってしている呼吸が可愛すぎる。


 マルに箱庭の外に出たら、南に向かうようにお願いした。マルを箱庭の外に出した後、マルが出てきた森の中を探索する。


 しばらく歩いていると、山菜を集めていた智獣と会ったので、新しい拠点に案内してもらった。


 これはいい。

 川が近くにある場所で樹上集落があり、その近くに木を切り倒して小屋を作っている最中だった。

 樹上集落は智獣たちの住処で、小屋は私達のために建ててくれているらしい。ウサ耳のハイビスが食事の作り方を智獣たちに教えている横で、アシュレが小屋の建築方法を智獣たちに指導している。


「あっ、おかえりなさい。アルコ様」

「うわっ、ホントに骸骨だ……アルコさん、顔をもっとよく見せてください!」

「え? ちょっ、なんですか」


 ハイビスが私に気づくと、アシュレも私に気づいた。

 ハイビスは純粋に私の帰りを喜んでいるが、アシュレの方は鉄面をあげた私の顔を初めて拝んだせいか、やや興奮状態。駆け寄ってきたかと思えば、ジロジロと私の顔を観察したり、顔をペタペタ触り始めた。


「……なるほど、これは実に興味深い。外部からの動力供給なしに可動する骸骨というのは、一般的な死霊術によるものと思われるが、この個体には術式の刻印や呪力の残滓が一切見受けられない。つまり、単なる死体の傀儡ではなく、自己維持機能を備えた独立した存在ということになる」




 うーん、なんか小声でブツブツ言っていて、ちょっと怖い……。











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