💀19 こんなのはじ……めて


 いい湯だな。

 でも、そろそろ上がって、ハイビスやアシュレにも入ってもらわなきゃ。


「きゃっ!」


 湯舟から出ようとしたら、ハイビスの短い悲鳴が聞こえた?

 なにかゴソゴソと聞こえたかと思ったら、布切れ一枚を持った全裸のハイビスが塀の向こうから放り出されてきた。


「っ~~~///」

「ハイビス、どうしました?」


 前を布で隠して、モジモジとした動きでカニののように横歩きして私の近くまで寄ってくると、意を決したようにこちらを見ず、うつむいたまま叫んだ。


「おっ、お背中を流させてください!」

「はっ、はい……」


 背中?

 まあ骨だけだから、流すような背中でも無いのだが、なんだか必死な形相をしたハイビスの迫力に圧倒されて了承してしまった。


「かゆいところはありませんか?」

「えーと、上から5番目の肋骨の右側……そう、その内側を」

「こ、ここですか?」

「そうそう、そこです! って──あの、なにか当たっていますが?」


 熟れ切っていない小ぶりの果実がふたつ。

 骨だけだし、私自身性別はない……はず。

 だけどなんでだろう。この胸が弾むような衝動は……。


「も、もう大丈夫ですよ」

「でも、アシュレがアルコ様は心まで骨だけ野郎なので、もっと胸を押し付けないとダメだって……」


 アシュレ……。

 アナタはなにをハイビスに教えているのかな?


「本当にもう結構ですから」

「そうですか、では……これを」

「え?」


 私の前に差し出された布切れ。

 これはいったい?

 少し考えたらすぐに答えが出た。

 そうか、これもアシュレの指示。私の背中を流したのだから、等価交換を求めてきたのだと気づいた。


「では、いきますよ?」

「はい」


 まだまだ小さい背中。

 白く透き通った背中をゴシゴシと布切れで擦りながらふと考える。

 肩幅が背中に筋肉がないため、華奢な印象。

 とても柔らかくて、力加減を間違えて傷つけないか心配になる。


「っん!」

「──っ⁉ 痛かったですか?」

「……いえ、少しくすぐったかっただけです」


 桃色の髪から覗かせている兎耳はくつろいでいたせいか、ペタリと垂れていたが、くすっぐたさと同時にビクンと上に両耳が張ったのが、なんとも愛くるしい。


 途中からずっと緊張しっぱなしだった入浴を終えて、着替えてまだ建築途中の小屋の隣に張ってあるテントまで戻ってきた。


「アシュレ、どこに?」

「ボクは智獣の長の家に泊まるよ。夜はまだまだ長いんだから頑張って☆」


 途方もなく壮大で破天荒な勘違いをしている。

 私とハイビスを新婚の夫婦かなにかだと?

 とにかく誤解を解かねば……。


「テントで3人で一緒に寝ましょう」

「えっ、ヤダ、大胆。でも、ボクにはロ……じゃなくて、心に決めた人がいるから」


 ダメですねこれは……。

 何を言っても、勘違いとすれ違いで、誤解を解ける自信がない。


 アシュレがロキを連れて智獣たちの樹上集落へ斜めに張った縄梯子を使って登っていった。


 取り残される私とハイビス。


「では休みますか」

「はっはい!」


 なんでそんなに意気込んでいるのだろう。

 二人でテントに入って、すぐに横になる。


 うーん、ハイビスが私の方を向いて寝ているので休まる気がしない。


「寝付けないのですか?」

「いえ……その夜伽をさせていただきたくて」

「──っ!」


 ガバッと起きた私は、ハイビスを凝視する。


「ダメ、でしょうか?」


 アンデッドっぽい姿をしているが、夜目の利かないポンコツな私。

 だが、ハイビスの下着の胸元がはだけているのがわかる。

 少女とは思えない艶のある声。


「ハイビス、無理はいけませんよ?」


 私が人族の男なら、そのまま流されて契りを結んでいただろう。


 でも、わかる。

 彼女の手が少しだけ震えているのが。


「魔族の方の文化はわからないのですが……」


 ハイビスも起き上がって、ポツポツと語りだした。


「人族や亜人族の間では、女性が男性を求めるのが礼儀なのです」


 逆に男性が女性を求めるのは、はしたない行為とされていて、そういう男は痴男と呼ばれるらしい。


 そ、そうなんだ。

 アーテからその辺のことはなにも聞かされていなかった。

 でも……。


「それでも無理はいけません。私だって骸骨ですから性別なんてわかりませんし、もしかしたら女性かもしれませんよ?」

「それでもいいんです」


 へ~、私が女性でもいいんだ~~。

 って、どういう意味? ガイコツ意味わかんない!


 ……などと心の中で、スベリ確定の冗談を言っている場合ではない。


「だからお願いします。私に骨を舐めさせてください」

「はい? って、ちょっ、ハイビス?」


 テントの中でハイビスに押し倒されて、馬乗りされた。

 骨? 私の骨を……舐める?

 意味が分からな過ぎて心の中でダジャレも言えなくなる。


 意外と力強いハイビスに動揺を隠せない。

 すぅっと両手の指を私の鎖骨から胸骨、腸骨へと滑らせるように這わせて、恥骨へと到達した。


 それと同時に私に身体を預けるように覆いかぶさったハイビスは、軽く私の下顎骨にキスをした後に耳元で囁いた。


「目を瞑って、力を抜いてください。痛くしませんから」

「あ゛っ──」


 なにこれ?

 こんなの、は じ め て…………。




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