第2話 脱出計画スタート。まずは情報と鉄くずあさりから

「ふぅっ、うまい」

 クラフトは、艦内の自動食料プラントで生成されたホットサンドを頬張りながら、目の中に表示されたARウィンドウを見つめていた。カリッとしたパンの感触、トロリと溶けたチーズ。数万年も前の機械が作ったとは思えない味だ。

「ナビ、おかわり。ベーコンチーズダブルで」

《了解。プロセス開始。食料プラントは稼働中です》

「それは見りゃ分かる」

 独り言のように返しつつ、クラフトは小さく溜息をついた。空はない。窓の外は恒星に向かう宇宙の暗黒。その中で、彼は自分の未来を考えていた。

「目標は明確だ。ここから脱出する」

 恒星への衝突まで、残り330日。悠長にしている暇はない。だが焦っても意味はない。まずは、情報だ。

「俺がどこにいるのか、どこへ行けるのか、それが分からなきゃ逃げようがない」

《合理的な判断です。情報収集が最優先》

 義眼に映る地図ウィンドウを指でスワイプする。指先が空をなぞるたび、宇宙船の残骸のマーカーが次々と切り替わった。

「ここにある残骸の中に、わりと新しい宇宙船があるはずだ。そこにログとか航行記録が残ってりゃ、近場の文明圏が分かるかもしれない」

《逆に、なければ“詰み”です》

「言い方ぁ!」

 クラフトは立ち上がり、ホットサンドを咥えたまま造船ドックへと向かった。かつての居住区を抜け、長い通路を歩きながら、義眼でマッピングを進める。

 ドックに戻ると、天井のクレーンが静かに動いていた。大小様々な宇宙船の残骸が、整然とはいえない形で並んでいる。

「お、これか。比較的新しいやつ」

 彼が見つけたのは、メタ王国製の軍用コルベットだった。腐食が進んではいるが、形状は保っており、ロゴもまだ読める。およそ30年前のものらしい。

「30年。ギリ、セーフって感じか?」

 クラフトはドックの一角にあるコントロールルームに入り、操作パネルに手を伸ばす。義眼が認識する端末と自動的にリンクされ、電脳化された脳にインターフェースが表示された。

《作業用ロボット接続完了。ストレージ抽出を開始します》

「よし、頼むぜナビ。慎重にな」

《慎重は得意です。貴方より》

「うるさい。俺は大胆なだけだ」

 数分後、義眼にデータの断片が流れ込んでくる。クラフトはそれを眺めながら、低く唸った。

「ふむ人工60億、惑星国家、交易活発、隣接星系と外交あり。なるほど、メタ王国、アリだな」

 地図データも多数残されており、恒星間移動に使われるというスターゲイトの配置図や航路も網羅されている。

「お、ギルド制度? 傭兵が正式に登録されてるってことか。嘘ついたら討伐対象になるって、どんだけ厳しいの」

《貴方には向いているかと。妙なところで正直ですから》

「褒めてんのかそれ」

 クラフトは軍用コルベットの残骸に目を向けた。全長約100メートル、船体の一部は破損しているが、推進機やフレームはまだ使えそうだ。

「これ、ベースにできるな。DIY開始ってわけだ」

 造船ドックには資材も設備も揃っている。あとは自分がどれだけうまくパーツを組み合わせられるかにかかっている。

 古い残骸には数万年前のものもあったが、その時代の文明が今も残っているかは分からない。今、頼れるのはメタ王国だけだ。

「目指すは、メタ王国。そしてその前に──俺の船だ」

 クラフトは静かに拳を握った。義眼の奥に、残り時間のカウントが赤く表示されていた。


《残り329日と23時間46分》


 ──さて、宇宙一のスクラップ船、作ってやろうじゃねえか。

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