第3話 情報の整理と船の設計

「まずは、手に入った情報の整理からだな」


 無人の制御室に、クラフトの声が響いた。目の前には大小十数枚のホロモニター。義眼のARリンクを介し、クラフトが解析したデータの断片が次々に展開されていく。


「情報は力、ってな」


 誰もいない移民船ネメシス。その中に残されたドック施設には、数百隻の宇宙船の残骸が集積されていた。ほとんどはスクラップ同然だったが、その中でも比較的状態の良い約60隻を選び出し、クラフトは一隻一隻の記録媒体を調査してきた。


 そして──ようやく、外宇宙への“手がかり”を得た。


「ターリーズ星系。ここが一番近い星系ってことらしい」


 ホロ地図に広がる星図。その中心には、ターリーズと記された星系が表示されている。解析された航行ログによれば、ここが《ネメシス》から最短で到達可能な有人星系であることは間違いなかった。


「で、この星系には──三百の国家、三つのテラフォーミング惑星、無数のスペースコロニー……ってか」


 クラフトは指を動かし、拡大表示されたモニターに視線を走らせた。星系内には三つの居住惑星が存在し、いずれも高度なテラフォーミングにより大気と重力が地球型に調整済み。加えて、経済活動や人口の大半はスペースコロニー群に集中しているらしく、それぞれが国家や巨大企業の管理下にあるようだ。


「国家三百ってのも十分ぶっ飛んでるが……コロニー国家がその数以上にあるって話だ。どうやって統治してんだか」


 その混沌をまとめているのが、“メタ王国”と呼ばれる中枢国家らしい。政治的には連邦に近い体制を取り、安定した外交と法秩序を維持しているらしい。


「三十年前の情報がな」


 クラフトは小さく息を吐いた。


 得られたデータは、いずれも三十年以上前のものだった。艦の記録媒体に保存されたものの大半は更新されておらず、詳細な政治地図や貿易データ、市場価格などは失われていた。


「通貨はクレジットで統一されてるっぽいが、今も通用するかは不明。下手すりゃインフレで紙屑同然かもしれん」


 経済構造、資源価格、輸送網、法制度──すべてが曖昧だった。加えて、星系間移動に必須の「スターゲイト」は各国の管理下にあり、通行にはクレジットによる支払いが必要らしい。


「まぁ、あてにならない情報で判断して動くしかないってのが、今の俺の立場か」


 そんな中でも、明確な“資産”があった。


「こいつだな。ダイリチウム」


 モニターに表示された物質情報。艦の残骸から回収した動力源の大半には、この希少金属が使われていた。高密度のエネルギーを安定供給することが可能で、軍用艦やコロニー基幹設備に欠かせない。


「現地で通用するかはわからんが、流通してるならかなりの高額になるはず。まずはこいつを売って、足場を作る」


 だが、ダイリチウムを運ぶためには宇宙船が要る。そしてそれは、単なる輸送船では務まらない。


「この星系、宇宙海賊がやたらと多い」


 表示された赤い航行記録。特に交易ルート上では、襲撃や奪取の記録が集中していた。


 ターリーズ星系では、航行中の安全は自己責任。代わりに、警備契約や傭兵ギルドといった民間の軍事支援が広く普及している。それは裏を返せば、誰もが武装していなければならないという事実を意味していた。


「つまり──戦える船が必要ってことだ」


 クラフトは決意を込めて立ち上がった。新たなホロウィンドウを開き、艦の設計プランを起動する。


「コンセプトは明確。小型、高速、重武装。そして最低限の積載能力。名付けるなら──“戦う逃走艦”ってとこか」


防御よりも回避。積載よりも武器。火力よりも機動性。あらゆるトレードオフの中で、クラフトが選んだのは“逃げ切って生き残る”ことに全振りした設計だった。


「エネルギーコアは6基搭載。通常の小型艦じゃ2基が限界らしいが、今の俺なら作れる」


 それぞれのコアは動力、武装、シールドに独立配分。緊急時にはリダイレクトによる瞬間的な出力増強も可能。


「武装は……あったな。あの戦艦の残骸から引っぺがしたブラスター、2門。あと、コルベット級から回収した反応弾頭。こいつも搭載」


 さらに、ミサイル迎撃用の近距離パルスレーザーを艦の側面に2門配置。隙のない構成だった。


「さて、あとは──名前、か」


 クラフトは少しだけ考え、呟くように言った。


「《シルバーナ》。銀の、戦鳥。悪くない」


 艦のイメージがホロ投影される。全長100メートル、全幅50メートル。細身のフレームに流線型の艦首。翼のように開くサブスラスターと、銀色に輝く装甲──まさに、銀の猛禽だった。




《設計完了。予定工期:120日》




《作成開始の許可を求めます》


「ああ。頼んだ」


 指先がボタンに触れた瞬間、制御室がかすかに振動した。ドック全体に灯がともり、組立ロボットたちが一斉に稼働を開始する。


 巨大なアームが素材を運び、レーザーカッターが鋼板を削り、ナノプリンターが機体の骨格を形作っていく。ここに、新たな艦が生まれる。


 誰に命じられたわけでもない。誰かに守られるわけでもない。


 ただ、生き延びるために。


「よし……残り、300日。やれるだけやってみるさ」

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