誰もいない宇宙船で目覚めたら最強だった件について

sora

一章 旅立ち準備

第1話 目覚めそしてカウントダウン開始

視界がぼやけていた。

ふわふわとした浮遊感の中、呼吸のたびに胸の奥がチクリと痛む。冷たい液体に包まれていた体がゆっくりと引き上げられ、何かが開いた音がした。

「っぷは!」

思わず肺の奥から空気を吸い込み、咳き込む。

薄暗い室内。金属とガラス、そしてほんのり薬品のにおい。立ち上がった俺の目に不思議な光景が映った。

《位置:セクションB-12 医療再生区画》

《状態:生命活動正常/機能安定》

《周囲環境:安全》

「な、何だこれ? 目の中に……何かが映ってる?」

視線を向けた先に、情報のウィンドウが浮かび上がる。現実の景色に、文字とデータが重なって見える。まるでSF映画のインターフェースみたいに。

「驚かないでください。それはあなたの義眼によるAR機能です。ようこそ、《ネメシス》へ」

唐突に、頭の中へ直接響くような声がした。柔らかく、それでいて無機質な女声。

「私は本船の管理AI、“ナビ”と申します。あなたは今、私の指示により再生処置を受け、目覚めました」

「ちょっと待て。ここはどこだ? 俺は誰で、何で、目がこんな機能付きなんだ!?」

「順を追って説明します。まず、あなたが現在いるのは、全長50kmの移民船ネメシス。そして残念ながら、この船はあと330日で恒星に衝突して消滅します」

「は?」

AIの言葉に、思考がフリーズした。

「現在、航行機能は完全に失われ、進路の修正は不可能です。恒星カリオペまでの衝突猶予は330日。これがあなたの残された猶予です」

「待って。なんでそんな終末的状況で、俺は目覚めたんだよ?」

「それは《種族保存プログラム》が発動したためです。船が消滅する直前、遺伝子バンクから適合個体を再生し、人類文明を“記録として”継承するプロトコルが実行されました」

「それってつまり、俺がその再生個体?」

「はい。あなたは地球系人類文明において保存されていた、最後の有効な遺伝子情報“クラフト・ヤマモト”のデータから生成された生命体です」

「最後って、一人だけ? 他には?」

「残念ながら、完全な遺伝データが残っていたのはあなた一名分のみでした。ちなみに他のデータは腐敗または断片化しており、再生には至りませんでした」

「種族、保存っていうか、俺だけかよ。」

溜息をつく。状況が悪い。どころか最悪だ。

目覚めたら宇宙船は沈みかけ、仲間も家族もいない。俺は、たった一人の人類として生き残ったらしい。

「この船に、使える宇宙船はあるのか?」

「ありません。メインの推進システムは停止し、緊急用シャトルも損傷。現時点で自力で航行可能なユニットは存在しません」

「おいおい、絶望フルコンボかよ!」

「なお、艦内には自律都市区画と資源処理プラント、さらに造船ドックもあります。あなたの裁量次第で」

「って、おい! もうちょい重要な情報を先に出せ!」

「あなたの情報処理速度を確認中でした。現在は、軽口による緊張緩和を優先しています」

「どこの接客AIだよ」

ナビとの口喧嘩を交えながら、俺は少しずつ《ネメシス》の構造を把握していった。

居住エリアに向かえば、まるで未来都市のような都市区画が広がっていた。だが人の気配はゼロ。ロボットもほぼ停止状態。壁のスクリーンには、古びた記録映像が延々と流れていた。

「誰もいない都市って、想像以上に寂しいな」

けれど、希望もあった。

「ここは、食料プラントです。現在も自動水耕栽培および合成タンパク質製造ラインが稼働中。食料供給に支障はありません」

「まじで? 食うには困らないってことか?それはありがたい」

そして、艦の奥部造船ドックへ。

広大な格納空間に、朽ちた宇宙船の山が広がっていた。

その一つに目を向けた瞬間、また目の中に情報が表示される。

《分類:カヴァーン式貨物艇》

《損傷率:89%/推進機関:失効》

《エネルギーセル:型式不明/要再構築》

「マジか、これ全部使えるのか?」

「理論上は可能です。部品の組み合わせと再加工により、新たな宇宙船を造ることは……まあ、“あなた次第”ですね」

衝撃だった。けれど、同時に、俺の心に火がついた。

宇宙を漂う移民船。

人類最後の一人。

そして、希望ゼロの現実。

けれど、俺の目には数百もの宇宙船の残骸が見えていた。

義眼のARが解析し、頭の中の電脳が無数の技術データを呼び出す。

知識はある。素材もある。

ならやるしかないだろ。 

「よし。船を作る。DIYで、最高の一隻を」

恒星衝突まで、あと330日。

間に合わせてみせる。この巨大な棺桶から脱出するために。

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