第3話::【開戦】桶狭間の戦い

 放課後、グラウンド。


 そこには――まさにカオスな戦場が広がっていた。


 クラスTシャツを家紋風に加工した子たち。掃除用のほうきに旗を括り付けた“軍旗隊”。謎の合戦太鼓アプリを鳴らす男子。そして――陣羽織+ヘルメット+タブレットで戦術を指揮する田所の姿。


「我が幕府、正面突破を狙う! 槍隊(※ドッジボール班)、出陣!」


「はい!」


「太鼓係、リズム強めで!」


「イエッサー!」


「背後の植え込みから忍び寄る“くノ一”班、佐伯殿により裏口より奇襲を!」


「私、まだ仕官してないからね!」


 

 一方、御家人同盟側。


 大将は戦国系YouTuberを名乗る五十嵐士門(いがらし・しもん)。自撮り棒片手に「桶狭間Liveなう」とか言っている。

 五十嵐の後ろには“武田”とか“毛利”とか勝手に名乗る強キャラ感満載のクラスメイト。五十嵐が投稿した「【実話】教室で本能寺の変起きた」動画のファン達である。


 「皆の衆、これは再生数と名誉の戦じゃ。チャンネル登録、勝利の先にありッ!」


 笛の音が鳴った。


 戦、開始――!


 先制攻撃は幕府軍。将軍・田所、渾身の“天下布武ショット”を放つ!


「喰らえい! 織田信長直伝、火縄ドッジじゃーっ!」


 しかし、対する五十嵐は余裕の表情。動画撮影用のスタビライザーを盾に、巧みにボールを弾く。


「ナイスガード! 録れてる録れてる! コメント欄も燃えろー!」

 


 氷川は校庭で繰り広げられているドッジボール大会に頭を抱えていた。


「なんでこんなことに……!」


 そんな氷川を見て生徒会副会長が言う。


「会長安心してください。さきほど、事態収拾のため、会計の芦屋に先生を呼びに向かわせました」


「頼む芦屋、芦屋なら何とかしてくれる……!」


 その瞬間――


 「撃てえぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 田所の掛け声と同時に、ドッジボールが宙を飛ぶ。


 ボールの軌道は見事、会計・芦屋の肩を直撃。


「ぐっ……!! 我が職務、ここまで……ッ!」


「芦屋――!!」


 その後、戦は日没まで続き、先生の「グラウンドで争うなーッ!!!」という雷のような声でようやく幕を閉じた。


 後日、五十嵐の投稿した「【開戦】田所幕府 VS 御家人連合【桶狭間】」がバズり、まさかの20万再生を叩き出す。


 田所の「令和幕府」構想は、学校を、SNSを、そしてなぜか一部の公務員すら巻き込んで、急速に広がり始めていた――!

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