第2話:政敵・生徒会長との政道同盟

「つまり君は、学校の自治制度を“幕府”に置き換えようとしているわけか」


 生徒会室、緊張の空気。


 田所将宗(自称・征夷大将軍)は、特製の陣羽織を羽織り、堂々とした面持ちで立っていた。


 対するは――生徒会長・氷川 清志(ひかわ きよし)。成績学年トップ、端正な顔立ち、そして眼鏡の奥の冷静な瞳は、まさに“現代官僚の原石”と言われる少年である。


 その氷川の眉が、ぴくりと動いた。


「君の構想によれば、クラスを“直轄地”にし、評定で予算配分を決め、学食に征夷大将軍が日替わり定食を試食する“御前試食制度”を導入する……?」


「うむ、将軍として当然の義務でござる。民の食を知ることなくして、政は成らぬ!」


「毎日学食で日替わり定食食べてるだけじゃないのか」


「いや、それすらも……使命」


 とんでもない理屈だが、田所の目はキラキラと光っていた。

 

 氷川は資料をめくりながら、肩を落とした。目の前の男が“真面目な顔をした真面目なバカ”であることに気づいてしまったからである。


「それで、“幕府制度”の導入に際して、生徒会との関係はどうするつもりだ?」


「……それについては」


 田所はごそごそと鞄から何かを取り出した。


「同盟条約を持参いたした!」


 ――バン。


 机の上に置かれたのは、手書きの巻物(A4コピー用紙をガムテープでつなげたもの)である。


 「令和政道同盟条約」

 第一条:互いの主権を認め、定期的に“二条城会談”を開くこと。

 第二条:生徒会予算のうち、1/5を幕府軍備に譲与すること。

 第三条:戦は最終手段とし、外交的解決を尊重すること。


 氷川は眉間を押さえた。


「予算譲与って……なぜ君に?」


「国防でござる。剣道部の強化と、太鼓購入に充てる予定」


「もはや戦国レジャー部では」


 返す言葉もない。

 

 氷川はため息をついた。だが、目の前の田所は真剣そのものである。茶番のつもりが、思ったよりも本気。困惑と同時に、彼はなぜか心のどこかで“このバカ、本気だ……”という納得感に包まれていた。

 

 が――その瞬間。

 突如、部屋のドアがバンと開かれた。


「会長! 非常事態です! 他クラスの有志が“御家人同盟”を結成して、グラウンドを“戦国特区”として占拠しました!」


「はっ?」


 氷川が椅子から跳ねる。田所は静かに目を閉じ、ゆっくりと立ち上がった。


「――合戦の刻、来たる」


「待て待て待て!!」


 だが、もう遅かった。


 その日、学校中を巻き込む“桶狭間の戦い(※ドッジボール)”が開かれることとなる。


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