おっさん僻地に送られエースになる(未完版)
しぇりおん
第1話 おっさん僻地に飛ばされる
※未完版です。まだ設定が固まっていないため、掲載したとしても次々作の為、5年後とかになるかもしれません
※一部キャラ名がありません。読みにくいかもしれませんが、ご理解い下さい・・・
果なき大洋を一隻の軍艦が進んでいた。しかし、それを軍艦と呼ぶにはあまりにも貧相な出で立ちだあった
船体は錆が多く塗装も所々剥がれており、無機質な鉄そのものが一部、露出していた
輸送船を改装したその船には、簡易的な機銃と剥き出しの大砲が備え付けられている
船員もその船を表すかの様に昼寝をする者、釣り糸を垂らす者など。軍艦とは思えない、和やかな空気を作り出していた
そんな船員をかき分けて、艦橋を目指してパイロットスーツを着込んだ、一人の中年の男が進む
「ちょいと失礼、通してくれ」
男はそう言ってトランプを広げている船員達の側を通る。すると船員達は一瞬迷惑そうな顔をしながらも、隙間を作り男を通す
男が通り過ぎた後、船員達はトランプを配りながら先程通った男の話をする
「なぁ、さっきの男って・・・」
「ああ、船長が言うにはお客様らしい」
「お客様?でもあの格好って・・・、空軍だろ?空軍なら、自分で飛べばいいのにな?」
「さてな・・・。ヘクソン頼りの軟弱共の事情なんて知らねぇよ」
そんな話をする船員の一人が「そうだな!やっぱ男と言えば海!そして海軍だよな!勇敢さの象徴だ!」と言って、船の縁に足を乗せる
「その勇敢な海の戦士様が、こんなオンボロ輸送船に居て良いのかよ?」
そうツッコまれると船員は「ぐっ・・・、それを言ってくれるな・・・」と、思わず本音を漏らす
「俺だって最初は、戦艦乗りだったさ・・・。でも現実はそんな簡単じゃない・・・。あれを見ちまったらな・・・」
「そういや・・・、前にも聞いたな。蒸発した・・・、だったか?」
「ああそうだ・・・、人の骨も残らないような攻撃されて・・・。それでも、戦おうなんて思える訳ねぇよ・・・」
遠い目をしながらそう話す船員に「ま、ディアなんて気にしても、何も始まらないさ」そう言って他の船員が励ます
「それもそうだな・・・。こんな僻地にディアが出る訳ねぇもんな!」
「そうだ!そうだ!」
海兵達はそんな会話を聞かれているとも知らずに、カードゲームに勤しむのだった
その後、男は船尾へと到達すると、外階段を通り艦橋へと入る
「おい、ここは立ち入り禁止だぞ」
男を見て一人の船員がそう言い放つと「かまいません、通しなさい」と、一人の老兵がそう告げる
すると不満げな表情をしつつも、船員は男を通す
「いやぁ・・・。船長、申し訳無い・・・」
「いえいえ、お気になさらず。あなたは大切なお客様ですから・・・」
船長と呼ばれた老兵は、そう言って振り返り男を見る。敬礼を返した男は前へと進み出て、船長の隣に立つ
「どうです?船旅は慣れましたかな?」
「ええ、なんとか・・・。しかし、空の揺れともまた違いますな・・・」
「はは。空軍さんには、少し酷でしたかな?」
「ええ・・・、空母に乗った事はあるのですが・・・。自分は、どちらかと言えば、丘の飛行機乗りですから」
男が船長とそういった何気ない会話をする中、背後で作業する船員も会話をしていた
「なぁ・・・、あの男・・・、空軍じゃ有名人らしいぞ・・・」
「あんなおっさんが?ヘクソンならまだわかるが・・・」
船員はそんな会話をしながら、懐疑的な視線を男に向ける
「それで、到着はいつ頃でしょうか?」
男がそう尋ねると「そうですなぁ・・・」船長はそう言い、懐から懐中時計を取り出す
「あと、一時間程でしょうか?」
そう答えた船長に「ありがとうございます、船長」と、男はそう返す
「しかし・・・、貴方の様な御仁が、なぜこのような僻地へ・・・?」
「はは、自業自得というやつですよ。元々、机仕事には向いていませんでしたから・・・」
「なので、現役復帰出来る事に関しては、上層部に感謝しています」
「はは、なるほど・・・。上層部はたとえ戦力になるとしても、引退した貴方を最前線に送るのは、流石にマズイと思ったわけですな」
「ええ、おそらくは・・・。僻地へ送るのは苦肉の策・・・、といった所でしょう」
上機嫌な様子で二人がそんな会話をしていると、男が何かに気付いた様子でその場を離れ、艦橋外の見張り場に立つ
「ちょっと・・・。ここに入られては困ります」
見張りの船員がそう言って制しようとするが、男は無視して空を見上げる
「ディア・・・、だな」
太陽を見つめた男がそう呟くと、船員もそれに釣られて太陽を覗く
船員は手で日差しを遮りながら、太陽を目を凝らしてよく見る。よく凝らして見た太陽には黒い点のようなモノが写っていた
「う、うそだろ・・・」
船員は信じられないモノを見たかの様に言葉を漏らすと、すぐさま大声で叫ぶ
「ディア発見!!直上!!太陽の中!!」
その声に釣られた大勢が太陽を見上げる。そんな中、見張りの船員が「船長!!」と呼びかける
「ああ、分かった・・・。各員戦闘配置。それと、基地に応援要請だ」
船長の言葉に「了解!」と答えた、船員達が慌ただしい散っていく。警報が鳴り響く中、男は船長に近づいて言う
「船長、出撃を許可して頂きたい」
男のその言葉に慌ただしく作業していた、船員達の手が止まる
船長は男のその言葉に「宜しいのですか?危険ですよ?」と、聞き返す
「構いません。この程度の危機、片手間で済ませられます」
「それに、敵を前にして飛べない・・・。それが自分にとって、一番ツライ事ですので」
そう話す男に船長は、しばらく考えた後「分かりました・・・。出撃を許可します」と返す
「ありがとうございます、船長」
男が頭を下げて礼を言う中、船員の一人が声を張り上げる
「船長!何を言っているのです!?出撃という事は・・・、アレで飛ぶという事ですか?!」
そう言った船員は指を指して、船体前方を指差す。その指の先には、ブルーシートで包まれたナニかがあった
「アレを下ろすには、機関停止するしかありません!ですが、そんな事をすれば格好の的になります!」
「ここは機関全開で基地に向かうべきです!後はヘクソンの応援に任せて、逃げればいいのですから!」
船員声を張り上げてそう言うと、他の船員も同意するような視線を船長に送る
「たしかに・・・、それには一理ある・・・。だが・・・、ディアに見つかった時点で、否応なしに戦闘へと突入する・・・」
「ヘクソン到着まで、おそらく二十分以上掛かるでしょう・・・。機関全開で逃げたとして、あなたはその間生き残れると思いますか?」
船長に丁寧に指摘されると「そ、それは・・・」と、船員は言い淀む
「この御方は、自ら進んで囮を引き受けて下さったのだ・・・。あのディア相手にな・・・」
「ならば、この御仁に賭けるとしようではないか。この者は、それだけの価値がある」
そう力説する船長に船員達は黙り込む。その様子を見て船長は言い放つ
「これ以上の問答は不要だ。機関停止して、荷下ろしを・・・」
船長の言葉に船員は、渋々といった様子で作業を再開する
「ありがとうございます・・・、船長・・・」
「いえ・・・、お気になさらず。私も貴方に救われた者の、一人に過ぎないのですから・・・」
そう話す船長に、男は無言の敬礼で答えるのであった
その後、船室にて着替えを済ませた男は、鏡を見て身だしなみを整える
そして男は、カバンから箱を取り出して中から拳銃を取り出す
男はマガジンを差し込んだ拳銃を腰のホルスターに仕舞うと、鏡を見て覚悟を決めた様に頷くと船室を出る
船室を出た男はヘルメットを小脇に挟み、甲板へと戻り慌ただしく作業する船員の側を通る
船員たちは敵意にも似た視線を送る。男はそんな視線に晒されながらも、汗一つ流さず進み続ける
「いいぞもっと早く、ただし慎重にだ」
輸送船の前方では船長に意見した船員が、ブルーシートに包まれたナニかを下ろす作業の指示をしていた
「すまないな、手間を掛けさせる」
しばらく無言で男を睨みつけた船員は「私は、副船長としての仕事をしているだけです」ただそう答える
「私は貴方の事を信用していない。船長の判断を信じているだけだ。この船の誰もがな」
「そうか・・・。ならば、それに見合った働きをせねばな」
男はそう言うとクレーンで吊るされたナニかに近づき、ブルーシートの留め具を外す
ブルーシートが勢いよく外され、ついにそれが姿を表す
「分かってはいたが・・・。あんた・・・、本当にそれで・・・?」
船員はレシプロ機を背景に立つ男に、思わずそう尋ねる
「ああ、俺の相棒だ」
男はそう言うと船の縁に足を掛け、飛び出してフロート換装された機体の脚部に飛び移る
「このまま下ろしてくれ」
船員はその言葉を聞くと合図を送り、クレーンがゆっくりと下がっていく
着水した事を確認した男が手を振ると、クレーンからのワイヤーが緩む
緩んだ事を確認した男は、機体に取り付けられたワイヤーを手際良く外していく
船員達はそんな作業を眺めながら「逃げんじゃねえぞ!」などの罵声を浴びせていた
そんな時、太陽とは明らかに違う光が遥か上空から差し込む。一瞬の光にその場にいた誰もが、思わず空を見上げる
それから数秒も経たない内に、鋭い光の筋が差し込むと同時に海面が大きく爆発する
「くそ!完全に気づきやがったな!」
船員は衝撃に耐えつつそう言って、船の縁にしがみつく
「はやくなんとかしろ!アンタの仕事だろ!」
一人の船員がそう男に向かい叫ぶと、男はヘルメットを被りコックピットへと入る
「俺達もタダでやられる訳にはいかない!各員戦闘配置だ、機銃を使え!」
その言葉と共に慌ただしく船員達が散っていき、対空砲火が始まる
「さて・・・、本来なら幾つか手順があるが、仕方ない・・・、飛ばすか」
男はそう嘆くと、軽く計器のチェックを済ませ、エンジンを始動する
「よし、問題は無さそうだ」
そう言った男は風防を閉めると、プロペラの回転速度を上げて前に出す
「すごい・・・、動いてる・・・」
「そりゃ動くだろ・・・。それよりお前も、小銃でもなんでもいいから、とにかく撃て!」
プロペラはどんどん回転速度を上げて、やがて機体が浮き上がる
機体が浮き上がる事を感じた男は、操縦桿を一気に引き上げる
「すごい・・・。ほぼ垂直だ・・・」
見張り場に立つ船員がそう声を漏らして後、ハッとすると船長に呼びかける
「船長!」
「うむ、機関全開。全速でこの戦域より離脱する」
船長のその言葉に待っていました、と言わんばかりの表情をした船員が、伝声管で機関室に伝える
「本当にヤツに任せて大丈夫ですか?船長」
副船長を務める船員がそう言いながら、船長の隣に並び立つ
「ふふ、心配無用ですよ。あの御方はヘクソンより強い」
自信満々といった表情で振り返った船長に、副船長は疑いの目を向ける
しかし、やがてその自信は実力に裏付けされていた、ということを否応なしに見せつけられるのだった
輸送船が襲撃される少し前、輸送船からは救援を求める通信が発せられていた
そして、それを受け取ったのは僻地にある、とある基地であった
その基地は、断崖絶壁に建つ古い砦を改装された基地であり、統合軍の支部が一応置かれていた
ホコリが舞う無線室では、欠伸をしながら退屈そうにしている兵士達がいた
一人の兵士が無線の前に座り、背もたれに大きくもたれ掛かっている
他の兵士は談笑しながら酒と共に、カードゲームに勤しんでいた
無線前の兵士は、そんな光景を羨ましそうに見ながら欠伸をする
「ん・・・?」
そんな中、そう声を漏らした兵士がふと無線に目をやると、ランプが点滅していた
それは、基地への通信が入って来ているという証拠であった
「はぁ・・・、俺の時にかよ・・・」
そう嘆きながら不満を漏らした兵士は、ヘッドセットを付けて応対する
「緊急の支援要請らしい」
応対した無線前の兵士がそう言うと、他の兵士はカードゲームに興じながら「へぇー」とだけ答える
「へぇ・・・、じゃ無くて・・・。そこの警報押してくれよ・・・」
「はいはい」
兵士はそう言うと気だるげな様子で背後に手を伸ばし、レバーを下げて警報を鳴らす
警報が鳴り響く中、それを聞いた少女達は、武器庫で出撃の準備を整えていた
「しゃあ!久々の出撃だぜ!」
赤髪の少女はそう言うと、見せつけるように両手に機関銃を二丁持つ
「はしゃぎ過ぎるな。それと今回は、救援対象がいるから誤射には注意するように」
「はいはい、いつもの堅物ね。分かってるって」
黒髪の少女がそう言うと、赤髪の少女は適当に答える
「はぁ・・・、絶対分かって無いな・・・」
そう嘆きながら黒髪の少女は視線を別に向ける。するとそこには、銀髪の少女が対戦車ライフルを抱えながら寝息を立てていた
「お前も出撃だ、起きろ」
黒髪の少女はそう言うと、蹴りを入れて無理やり起こす
「ふあああああ・・・、眠い・・・」
声を掛けられた銀髪の少女は欠伸をしながら、立ち上がると渋々といった様子で準備を始める
その後、準備を終えた少女達は、格納庫へと赴いていた
「隔壁開け!」
黒髪の少女の声が響くと、慌ただしく動いた兵士は、装置を操作して隔壁が轟音と共に開かれる
「よし、久々に暴れるとしますか!」
赤髪の少女はそう言うと意気揚々と、カタパルトに足を置く
「魔力充填100%!いつでも!」
直ぐ側の兵士がそう告げると、ニヤリと笑った少女はサムズアップした後、姿勢を整える
射出姿勢に入った少女は目を閉じ集中すると、背中から魔法の翼を生やす
再び目を開けた少女は「よし!出せ!」と言う。すると兵士は、手を上げて合図を送り少女を射出させる
それと同時刻、隣でも銀髪の少女がカタパルトに着いているが、とても眠そうな様子だった
「あの・・・、出しても・・・?」
困惑する兵士に少女は、肯定するかの様に無言で翼を生やす
「いつもの事だ・・・、出してやれ」
「は、はぁ・・・」
隣の兵士にそう言われると、機械を操作して少女を射出する。眠そうな様子であったが、特に姿勢を崩すこと無く少女は羽ばたいていった
その後、黒髪の少女も難なく射出されると、3人の少女は魔法の翼をはためかせて飛ぶのだった
少女達の出撃と同時刻、戦闘機を飛び立たせた男は戦闘状態に突入していた
「さあこい!食らいつけ!」
男は尋常ではない機動で、中型ディアからのレーザー攻撃を交わしつつ、2体の小型ディアを一方的に翻弄していた
「信じられない・・・。なんて機動だ・・・」
見張所に立つ副船長がそう声を漏らす。その動きは素人目から見ても明らかに異次元である事がわかる
さっきまで、小銃を撃ってでも対抗しようとしていた船員達は、武器を下ろしてその光景に、ただ圧倒されていた
「船長!あの者は・・・」
その問いかけに船長はしばらく目を閉じた後、口を開く
「副船長、対ディアにおける戦闘機乗りの平均戦闘時間は、いくつだと思いますか?」
「そう・・・、ですね・・・。10時間くらいでしょうか?」
副船長のその答えに「そうですね・・・。今であればそれくらいはあるでしょう・・・」そう意味深に答える
「ヘクソンの登場と機体性能の向上により、戦闘時間の平均は大きく伸びました」
「ですが、戦闘時間を言い換えれば、ディアと遭遇してからの生存時間・・・、とも言えます」
「そして、その生存時間の平均は10分・・・、とされています」
船長の話に驚愕した副船長は「じゅ・・・」と、言い淀む
「そしてこれらはあくまで平均・・・。短けれは初撃で10秒も持たず戦死する者もいました」
「新兵もベテランも等しく戦死していく中、あの御方は一人生き残り戦い続けた・・・」
「30年だそうですよ?あの御方がディアと戦い続けて・・・」
「さ、30年・・・、それって・・・。ディアが出現してからずっと・・・?」
船長の想像絶する話に副船長はそう言うと、言葉を失い黙り込む
「あの御方の飛行時間は1000時間を越え、戦闘時間は100時間にも達するとの噂です」
「船長・・・。何故そのような者が知られずに、僻地送りに・・・?」
副船長がそう尋ねると「そうですね・・・」そう答えた船長は、しばらく考え込んだ後口を開く
「あの御方は5年近く前に、引退されたと伺っております・・・」
「ですが、あの機動を見るに、何かのキッカケで現役復帰されたのでしょう・・・」
「なるほど・・・。老兵を最前線に引っ張り出すのは、上層部的にマズイと・・・」
「ええ、おそらくは・・・。今の時代はヘクソン一強ですから・・・」
「老兵が英雄として祭り上げられるのは、時代にそぐわないと判断したのでしょう・・・」
船長のその言葉を聞いた副船長は複雑そうな表情で、再び空を見上げるのだった
それから、3人の少女は現地に向かい大洋の上を飛び続けていた
「こちらヴァルキリーワン。管制室、敵と現地の状況は?」
「こちら管制室。敵は中型1、小型2が確認されている」
黒髪の少女がそんなやり取りをする。銀髪の少女は欠伸をしながら飛んでいる
「おいおい・・・、中型と小型だけかよ・・・。つまんねー」
赤髪の少女がそう言うと「そう言うのであれば、帰っても構わないが?」と、黒髪の少女の聞き返す
「そこまでは言ってねえよ。ディアなら大きさなんて関係ねぇ・・・。ぶちのめすだけだ」
「そう・・・。なら、期待する」
黒髪の少女は涼し気な顔でそう言うと、赤髪の少女は不満げな顔をした
「こちら管制室。現地の最新情報によれば、味方船が一隻と味方戦闘機が一機現地にいる」
その通信内容に、眠そうだった銀髪の少女すら目を開けて反応する。理解しがたい状況に、黒髪の少女が聞き返す
「待て管制室・・・。味方船はまだ分かるが、味方戦闘機とはどういう意味だ?」
「こちら管制室、そのままの意味だ。どうやら現地には水上戦闘機が一機いるようだ」
しばらく沈黙した黒髪の少女は「了解した、あと5分で現地に着く」そう管制室に返して、通信を終える
「戦闘機?そんなんでディアと戦うなんて、イかれてる」
赤髪の少女がそう言い放つと「だとしても無視は出来無い。急ぐぞ」そう言って、黒髪の少女は速度を上げる
「ふっ・・・、無駄だと思うがな」
赤髪の少女は半笑いでそう言うと、黒髪の少女の後を追う。銀髪の少女も黙ってそれに続くのだった
男が戦闘を始めてから、10分近くが経過していた。副船長は戦闘の推移を見守る事しか出来ない事に、苛立ちを募らせていた
「船長!我々に出来る事は・・・」
「祈る事のみです。ヘクソンの誕生以来、我々に出来る事はそれだけです」
船長の言葉に「くそ!」と、声を漏らした副船長は拳を握って膝を着く
「ふ、副船長!あれを!」
俯いた副船長に向けて船員がそう声を掛ける。すると副船長は、ゆっくりと見上げる
光の爆発が続く空に向かい、3本の糸を引いたような雲が近づいてきていた
「あ、あれは・・・」
副船長はそう声を漏らすと、一人の船員が「ヘクソンだ!!」と叫ぶ
その事を察した男は「ようやく来たか、お寝坊さんめ」と言うと、太陽目指して急激に高度を上げる
「しゃあ!一番乗り!」
赤髪の少女はそう言って、機関銃を2丁構えて撃とうとする。しかし、最初に発砲したのは銀髪の少女であった
銀髪の少女が放った弾丸は小型のディアに命中すると、爆発と共に光を発して霧散する
「おい!一番はアタシって言っただろ!」
赤髪の少女が激昂しながらそう言い放つと、銀髪の少女は知らないと言わんばかりに、欠伸を返すのだった
「クソが!」
赤髪の少女はそう言葉を漏らすと、もう一体の小型に向けて発砲しようと、機関銃を構え直す
しかしまたもや、抜刀した黒髪の少女によって、小型ディアは斬られ霧散する
「てめぇら・・・、わざとやってんだろ・・・。ふざけんな!!」
赤髪の少女は体を震わせながらそう言うと、今度は中型相手に機関銃を乱射し始める。すると辺りを、小さな爆発と閃光が包み込む
「オラオラ!コイツを食らいな!」
そう叫ぶ少女の乱射は、跳弾を含めて辺りに散らばる。銀髪の少女は、いつもの事の様に涼しい顔で跳弾を避ける
そして一部の跳弾は海面まで届き、輸送船の側に着弾すると「あっぶね!何処狙ってやがる!」船員の一人が、そう叫びながら屈む
「めちゃくちゃだ・・・。普通のヘクソンなら、あんな戦いはしない・・・」
「だからこそ、僻地に送られたのでしょう・・・」
副船長と船長がそんな会話をしている中、攻撃を受けた中型のディアに変化があった
損傷した中型ディアの一部の中に、特に光り輝く部分が露出していた
「コアだ!!頂き!!」
赤髪の少女はそう言って意気揚々とコア近づき、至近距離で打ち込みトドメを刺そうとする
「直上、太陽の中」
淡々とした声色で銀髪の少女が、そう通信越しで呼びかける
「直上?もう敵なんて・・・」
赤髪の少女がそう言いながら空を見上げると、太陽の中に黒い影があった
その影を見た黒髪の少女は「なるほど、あれが・・・」そう納得するように呟く
急降下する戦闘機の中で、男は「頂きだ」と言いながら引き金を引き、機関砲をコアに向かい撃ち込む
放たれた弾丸はコアに命中すると、激しい光と共に消え始める
戦闘機は消えかけのディアを回避して、赤髪の少女の直ぐ側を通り抜ける
通り抜けた風が赤毛の少女の髪を揺らすと「あの!クソ戦闘機!」と、少女は叫ぶのだった
「すげぇ・・・、ほんとにやりやがった・・・」
「生き残る所か・・・、トドメまで刺しやがった・・・」
船員が思い思いの言葉を漏らすと、示し合わせた訳でもなく歓声があらゆる所から湧き上がる
その賞賛はヘクソンに向けられてはいたが、一部は戦闘機に乗る男に向けられていた
男はその歓声に答えるかの如く、輸送船の上をクルクル旋回するのだった
「こちらヴァルキリーワン、戦闘機のパイロット。聞こえているか?」
黒髪の少女の呼びかけに男は「ああ、聞こえている。支援に感謝する」と答える
「こちらは大した事はしていない、そちらこそよく・・・」
「はは、こちらこそ大した事をしていない。俺はただ、逃げていただけだ」
「君たちが来てくれなければ、危なかっただろう・・・。改めて礼を言わせてくれ」
そう話す男に黒髪の少女は、特に返答せずに次の話を始める
「事後処理の為に我々基地に招待したい。それに、それでは着水は出来ないと思われるが・・・、如何だろうか?」
少女達が見た戦闘機脚部のフロートは、機動性を上げる為に落とされていた
「たしかにそうだな・・・。燃料も心許ない、どうか案内してくれ」
「了解した、ついて来てくれ」
少女達はそう言うと、基地に向け飛び出す。そんな中、戦闘機に通信が入る
「こちら輸送船アボット。勇敢な戦闘機乗りへ。全ての船員を代表して感謝申し上げる。ありがとう」
船長からの通信に「こちらこそ、無事で良かった。次は基地で会おう」そう男は返す
そして、それらの通信に答えるかの如く、一回だけ旋回した男は基地へ向けて少女達と共に飛び立つのであった
「静かね・・・。いつものなら、もっと騒ぐのに」
黒髪の少女は赤髪の少女を見ながら、そう通信越しで聞くと「黙ってろ」と返される
露骨に不機嫌な様子に、触らぬ神に祟り無しといった様子で、呆れながら飛ぶ
銀髪の少女はそんな事を気にする様子も無く、眠そうな様子で飛び続ける
その後、基地へと帰還した少女達は格納庫へと降り立つ。後に続く様に、男の操る戦闘機も、静かに着陸した
風防を開けてヘルメットを取り、男は戦闘機から降り立つ
そんな男に、赤髪の少女は魔法の翼をしまうと、男に向かって露骨に足音を立てながら近づく
「おい!テメエ!なんのつもりだ!」
男の胸ぐらを掴み上げると、ヘルメットが落ちて音が響く
その音や怒声だけでなく赤髪の少女の様子に、只事ではないと感じた兵士達が集まってくる
「おいおい、何の騒ぎだ・・・?」
「何なんだあの男・・・」
混乱が広がる中、男は動揺する事も無く「とりあえず、その手を放してくれるかい?これでは言い訳も出来ない」と、汗一つ無い様子で話す
その言葉に赤髪の少女は「ちっ」と舌打ちして、手を離す。男は手を離されると、襟元を整える
「君の気持ちは分かる。最近同じことをされたからね」
「ならば分かるはずだ。この世は所詮、やるかやられるかの違いでしか無い。君もその違いを楽しんでいるのだろう?」
男のその話を聞いた少女は、しばらく考え込む様に黙り込むと、再び口を開く
「いいだろう・・・。おっさんがそう言うなら、勝負しようじゃねえか!」
「やるか、やられるか。勝ちか、負けか。白黒ハッキリつけようじゃねぇか!」
そう言い放った赤髪の少女に、男はニヤリとした笑みを返した
二人が静かな火花を散らす中、周りを囲む兵士の一人が呟く
「今、勝負・・・、って言ったよな?」
「あ、ああ・・・」
「なら、次に続く言葉は・・・。賭け・・・、だよな?」
「ああ!」
「勝負だ!賭けだ!」
一人の兵士の呟きは、瞬く間に伝播して行き。大きな熱気を生み出す
トントン拍子で、勝負の内容まで決まっていく中、黒髪の少女はただため息を吐く
騒ぎ出した者達を横目に、装備を兵士に預けた銀髪の少女は欠伸をしながらその場を去って行った
一週間後、その勝負は行われ、結果だけ言えば男の敗北であった。
しかし、勝負には負けたが試合には勝った・・・。とも称される結果に、納得出来なかった赤髪の少女は、深夜の射撃訓練所に居た
「クソが!クソが!クソが!」
少女はそう叫びながら、もはや原型の無い的に向かい撃ち続けていた
「うるさい・・・、いい加減にしろ。いくら地下とはいえ、この時間は使用禁止だ」
黒髪の少女にそう言われて、少女はようやく射撃を止める
「邪魔すんなよ・・・。的にしてやろうか?」
目を見開き苛立ちを募らせる少女に、黒髪の少女は「そう・・・。なら、もっと苛立たせてやる」と言って、一枚の紙を差し出す
「なんだよそれ・・・」
「いいから、見てみろ」
黒髪の少女にそう言われた少女は、渋々といった様子で紙を受け取る。そして、そこに書かれていた内容に、赤髪の少女は言葉を失う
「なんだよ・・・、これ・・・。ありえないだろ・・・」
「そこに書かれているは全て事実だ、お前は気づいていないだろうが・・・」
「ヘクソンが戦闘機パイロットの技量に嫉妬するなんて、本来ありえない」
「私達ヘクソンに比べれば、戦闘機パイロットの技量なんて児戯に等しい」
「なのにお前は、その児戯に真っ向勝負を挑み、事実上の敗北をした・・・」
「お前が負けた理由は、その紙に書いてある通りだ・・・。これで分かったか?」
体を震わせて言葉を失った赤髪の少女は、その場に立ち尽くす
「認めない!こんなの認めない!」
赤髪の少女はそう言って手に持つ紙を捨てると、その瞳に悔しさと決意を宿してその場を足早に去って行く
その姿を見送った黒髪の少女は、紙を拾い上げると「私だって、こんなもの・・・、信じたくは無い・・・」と、小声で嘆くのだった
その昔、統合軍内にはとある伝説的な人物がいた。その者は参考にならないとして、統計データから除外するように名指しすらされていた
ディアと呼ばれる起源不明の敵対種の出現と、ヘクソンと呼ばれる古の魔力を操る少女達の登場
それら30年近くに及ぶ歴史の中を、その男は飛び続けていた。時に死神、時に英雄とも呼ばれた男はやがて伝説となり、忘れ去られたはずだった
しかし、その紙に記されていた戦果は今から、半年前のものであった
以下の戦果は、19✕✕年✕✕月✕✕日から✕✕月✕✕日までに発生した。防衛戦における、10日間で確認された公式の戦果報告である
地上型
小型36 中型13 大型4
飛行型
小型29 中型15 大型3 特大型1
氏名 ✕✕✕✕✕・✕✕✕✕✕
生年月日 19✕✕ ✕✕月✕✕日
最終階級 空軍大将
なおこれらは戦果は、監視体制の整っていない初日を除いたものであり。一部ヘクソンとの共同戦果を含むものであることに留意
その男は引退していたものの、その実力には一切の衰えは無かった
僻地に飛ばされようとも、おっさんの最強伝説はさらに更新されるのであった
おっさん僻地に送られエースになる(未完版) しぇりおん @Sherion113
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