第15話 実技試験
馬車に揺られること、五日。
わたしは目的の地、アサルトガーディアンにたどりつく。
そこには数十の回廊が通っており、流脈によるマナプールも順風にそろっている。
一際大きな白亜の城が建っている。マナシールドも併設されている大型のオートリーチバイパスシステムと呼ばれている魔術結晶が見える。
わたしはその城の周りを囲む城壁を見ながら、開いた口がふさがらない状態が続いていた。
城塞都市・グリーンヘイカー。
そこにジャックが通う学院がある。
というか、その白亜の城がその学院だ。
わたしはそこに編入試験を受けるためにやってきた。
全寮制の国家資格を与えられるこの国、最高峰の学院の一つであることは間違いない。
馬車が近くに停泊すると、わたしは歩いて学院を目指す。
空を飛んでいる
学院の方へと消えていく。
様々な色のフクロウが青空を飛び交い、羽を落としていく。
なんだか夢でも見ているみたい。
幻想的な光景を眺めながら、学院の門をくぐる。
妙齢の女性が迎えに来てくれていたのか、こちらに挨拶をする。
「どうも、ヘンリー・ジートです。あなたがリンカーベルさん?」
「はい。そうです。本日はよろしくお願いします」
わたしは一礼すると学院の応接間に通される。
「リンカーベルさん。ここでは貴族・平民関わりなく皆様に平等な知識や技術を与えています。あなたはここに入学する条件として、まずは試験を受けてもらいます」
案内役のヘンリーが淡々と告げてくる。
「決闘と座学、それから面接があります」
「はい」
事前に通達されていた内容を繰り返すだけのようだ。
少々事務的で中身のない話で退屈だが、眠気を見せるわけにもいかない。
「それと今日は宿舎でおやすみください。明日、万全の状態で編入試験を受けてもらいます」
「は、はい!」
まさかの好待遇に驚きを隠せないわたし。
「なんですか? 我々が疲れているところにたたみかけるとでも思ったのですか?」
「あ、いや。そういう訳では……」
言葉に窮するわたし。
確かにさっき思ったことは相手にとって失礼なことであった。
試験が疲労困憊になっている状態で行われると思っていた節がある。
ならここでとる態度は決まっている。
「すみませんでした。少し見くびっていました」
謝罪をすると、ヘンリーは「まあいいでしょう」と受け入れる。
寛容な学校なのかもしれない。
ホッとした気持ちでヘンリーに案内された客間でくつろぐ。
着替えや書類をまとめたバッグをベッドのわきに置くと、わたしはベッドにダイブする。
疲れが溜まっていたのか、割と早い時間で睡眠にはいった。
▽▼▽
翌日になり、わたしはヘンリーに案内されるがまま競技場へと足を運ぶ。
そこで実戦形式の試験を受けることとなる。
(大丈夫。あんなにネェちゃんと練習したのだから)
自分に言い聞かせるとヘンリーから木剣を受け取る。
木剣であるとはいえ、堅く重さもある。十分に危険な武器であることに代わりはない。
「試合、開始!」
その号令とともに試験官であるイーリーが剣を構える。隙のない構えにびびりながらも、打ち込む瞬間を待つ。
相手の身体の動きを想像し、何度もつばぜり合いが起きる。
額から冷や汗が流れる。
正面から切り込む。いなされる。
横合いから切り裂く。バックステップで距離をとられる。
マズい。
隙がない。
打ち込む余裕なんてない。
さすがこの国で三本の指に入る実力者だ。
わたしに勝てるの?
疑問が浮かぶ。
「参る!」
イーリーが地を蹴る。
真っ直ぐに飛び込んでくる。
かわせない。
いなすしかない。
わたしは木剣を縦に構え、切っ先をいなす。
「まだまだ」
第二撃が来る。
木剣を持ち直し、再びいなす。
おかしい。
あの駿足のイーリーがこんな単純な戦い方をする訳がない。
裏がある。
わたしはバックステップで距離を取りつつも、木剣で攻撃を防ぐ。
確かに足は早い。
早いが……。
ネェちゃんには遠く及ばない。
これが国を挙げての最速剣士なの?
首を傾げながら相手の様子をうかがう。
余裕のある笑みを浮かべているイーリー。
違う。
手加減しているんだ。
呼吸の一つも乱れていないのが、その証拠だ。
彼はわざと手を抜いている。
そうか。これは試験だ。
本気での試合じゃない。
わざと弱点を残し、打ち込む隙を与えている。
きっと学生のほとんどが入学テストとして受けるからだろう。
学生の実力なんてたかが知れている。
なら、どうする。
「手加減、されているのですね」
「ほう。あのアッシュ以外にそれがわかるとは」
イーリーは感心したような声音で応じる。
「だが、本気はださん。なぜならこれは入学試験だからな」
木剣を構え真っ直ぐに突っ込んでくる。
わたしは横合いに飛び、木剣を突き刺す。
だが、イーリーは軽くかわす。
バカな。完全にイーリーをとらえた攻撃だった。
それも人間がかわせる反応速度ではないはずだ。
にも関わらず、軽くかわした。
どういうことよ。
「ほう。なかなか筋はいい。今度はかわせるかな?」
後ろから剣先が飛んでくる。
「まだ!」
ミラーエクスを使い、分身体を出す。
マナの乱れが光の乱反射を呼び、空間が歪む。
「なっ。これは……!」
イーリーは驚いた様子で、だが攻撃の手を緩めない。
見破られている。
それもそうだ。
ミラーエクスなど、歴史の中で何度も登場する常套手段だ。
イーリーが知らないはずがない。
ただの幻影でしかないのだ。
だが、わたしは違う。
イーリーの背中に木剣が向かう。
「これもミラーエクスか。なるほど、腕はあるようだな」
「そうね。でもそれだけじゃないわ!」
わたしの声に呼応するように幻影の木剣がイーリーに向かう。
「なに!?」
イーリーは寸前のところでその幻影の木剣を受け止める。
いなされた――!?
「やるっ!」
「どういう、ことだ?」
イーリーは混乱した様子でこちらを睨む。
「お前、何をした!?」
再び疑問を声にする。
「なんてことないわ。マナで固形化しただけよ!」
再びミラーエクスで木剣を四方から飛ばす。
「くっ!」
イーリーはそのすべてをかわす。
「やああああああ!」
わたしは正面から突っ込む。
「ちっ。なんて技術だよ」
彼は焦りと怒りを滲ませている。
「まだ!」
イーリーは本気を出したのか、一足飛びですべての攻撃をかわす。
バチバチと爆ぜる空気。
プラズマ単子が空気を弾く。
「消えた!?」
視界では捕らえられないほどの早さで駆けていく。
わたしの目の前に木剣が飛んでくる。
――やられる。
そう思った瞬間。
イーリーの持つ木剣が火を噴く。
やがて分解が始まり、木剣がグズグズと溶け出す。
今だ。
わたしは接近してきたイーリーにミラーエクスを応用した三つの木剣で挑む。
「くっ。俺の速度に木剣が持たない!」
本来、真剣でしか使っていなかった大技らしい。
その空気抵抗の高さで木剣が燃え崩れるのは想定外だったのだろう。
イーリーは回避行動をとるが、わたしが振るった木剣が彼の手に刺さる。
「……参った。俺の負けだ」
イーリーは木剣の柄だけを握り、苦笑を浮かべる。
「じゃあ、試験は?」
「合格だ。まあ、どの道その年でミラーエクスを使えるのだから、当然合格だけどな」
イーリーは興奮した様子で告げる。
「次は座学ですよ」
みていたヘンリーがそういい、わたしはヘンリーの後についていく。
今のところ順調に事が進んでいる。
このまま頑張るぞ。
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