超人はジョーカーを引く?
「改めまして安藤苗様。いえ、魔法少女クラウン様」
アンドレアルフスはクラウンと、商品としての名前ではなく、魔法少女名で呼んだ。
それは彼女なりの敬意と謝意の表しであったが、クラウンは気付かず、自身の渾身の名前が浸透していることに満足していた。
「あなたへの報酬として、今後『闇市』は今後貴方へ干渉しないということを保障します。そして、今後一度だけあなたに対し、全面的に協力することを確約しましょう」
「うーん…………微妙」
裏組織の中でも、特に強い力を持つ闇市から一切の干渉を弾く権利と、その力を利用できる権利。
その価値は、クラウンにとっては微妙らしい。
アンドレアルフスは黒衣の奥で頬を引き攣らせた。
「では、何をお望みですか?」
「そうだなぁ…………あ」
ふと、何かを思いついたクラウンは、チラリとゴッズとダムドの方を向いて、それからアンドレアルフスの元へひょこひょこと歩いて近づき、こそこそ話しを始めた。
「………………なるほど、かしこまりました」
少しだけ意外そうにしながらも、アンドレアルフスは頷く。同時に、遠くから微かにサイレンの音が聞こえてきた。
どうやら本当に救急車を呼んでいたらしい。
「救急隊は優秀ですね。申し訳ありませんが、そろそろ失礼させていただきます。その前に――――失礼」
アンドレアルフスは一礼したかと思うと、流れる様な動きでクラウンの手に握られた、ダムドのポーチに手を突っ込み、一枚の小切手を抜き取った。
「あっ…………百億」
「それと…………ここですか」
おもむろにアンドレアルフスは階段近くの瓦礫を蹴り上げ、その中に埋もれていたモノを引き摺り出した。
不健康そうなくまをつけた、大柄な男を。
「あ」
パラメデスも、ゴッズも、クラウンも、ここに連れてきたダムドでさえも存在を忘れていた男。
戦闘が始まる前に、ダムドの手で気絶させられていた男である。
「それでは、失礼します」
アンドレアルフスは自分よりも大柄な男と、同じく気絶しているパラメデスを両脇に抱え、現れた時と同じ様に、普通に階段で去って行った。
一度も、アンドレアルフスは、同じく瓦礫に埋もれた銀騎士の方を見ることはなかった。
□ □ □
時系列は、少し戻る。それは、ダムドが切り札を切り、ゴッズが参戦したのと同時期。
「クソッ…………死ぬかなこりゃ」
『斬撃』の魔法によって斬られた右手を庇いつつ、炎城はエレベーターの壁にもたれかかっていた。
魔法少女同士の抗争が激化し、クラウンとダムドもお互いに意識が向いたタイミングで、炎城はすでにその場から脱出していた。
人の意識を読む彼は、状況さえ良ければ、こうしてその意識を避けて逃げることができる。これもまた、炎城の超人としての才覚であった。
腕の傷は、ベルトを巻き付けることでなんとか止血できている。
だが、すでに体力的にも血液的にも満身創痍である。
炎城は、静かにエレベーターが一階に着くのを待つ。
それは、審判を受ける罪人の様でもあった。
階段を使わなかった理由は、単純に無駄な体力を消耗できなかったことと、挟み撃ちを嫌ったから。
炎城があらゆる攻撃を感知し、避けることに長けた超人であろうとも、足場が悪く、動き回れないほど狭い階段で、両方向から攻撃をされればひとたまりもないだろう。
とはいえ、エレベーターもメリットばかりではない。
上、或いは下から遠距離攻撃を受ければ、この狭い中で逃げることは出来ないだろう。
最悪の場合、ワイヤーを全て斬られて落下死というのもあり得る。
そして、一番高い可能性としては一階で敵が待ち伏せしている場合。
エレベーターが動いていることは、当然一階からも分かる。
一階について、ドアが開いたところで殺される。という可能性もある。
だが、それでも炎城ならば、或いは一階で待ち伏せしている敵からも逃げおおせるかも知れない。その、異次元の危機察知能力であれば。
実際に、裏社会でそんな極限を乗り越えて生き残ってきた炎城の幸運と実力が運命を覆す可能性もある。
炎城は僅かに緊張を滲ませながら、エレベーターの扉が開くのを待っていた。
やがて、チンッという軽快な音と共にエレベーターが停止し、その扉がゆっくりと開かれる。
一階のロビーには――――魔法少女が、いた
黒く長い髪、ハイライトのない黒い瞳
黒を基調としたセーラー服の、14歳ほどの少女
闇から生まれたような、人間じゃない様な、そんな異様な魔法少女。
その名は魔法少女『ハイエンド』
『最強』であるゴロテスと並んで語られる、『最優』の魔法少女。
「初めまして、墓場の人。ここが、あなたの墓場です」
「クソつまんねぇんだよ、魔法少女」
『最優』の魔法少女、ハイエンド
対
手負の超人、炎城
力の差がありすぎるマッチアップが、ここに成立した。
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