魔法少女はレクチャーを受ける!?

「『裏組織』と、そう言われる組織の系統は、大きく三つの派閥に分けられる」


寂れた廃墟で、ガノンさんがレクチャーしてくれます。

はい、そうなんです。私たちはまた、わざわざこの廃墟まで来ていました。なんでも『変身を他人に見られない様にする為』だそうです。野良は辛いですね。


「その中でも、『墓場』は面倒だ」


そもそも墓場ってネーミングがイマイチです。所属している人、死んでるみたいじゃないですか


「ここ5年ほどで急速に力をつけた組織だけあって、金を集めること、力を付けることに貪欲だ」


なんか怖くなってきたので、脅すのはやめて欲しいです。

……いや、脅すつもりはないんでしょうね。これでも忠告してくれてるっぽいです。


「奴等とは可能な限り接触するな、空から強襲した後、安藤苗を確保して、そのまま空へ逃げる」

「? 相手は怪異でも魔法少女でもない、普通の人間なんですよね」

「人間だからだ。魔法少女にありがちなだがな、お前らは大人を舐めすぎる。大人は、お前らが思っているよりも数段狡いぞ」


……なんとなく分かります。変身した時の、全能感というか、無双感。体に力が漲って、大空ですら自分のモノになったような錯覚を覚えました。確かに、それは見方によっては危険かもしれません


「分かったなら行くぞ」

「YES」


ガノンさんが、私の右腕に取りつきます


「『変身』!」

「承認する」


□ □ □


「今の所、うまくいっている。うまくいきすぎて怖いぐらいだな」


会議室のソファーにだらしなく寄りかかり、タバコに火を付ける男がいた。黒いスーツを着込み、髪を荒々しく掻き上げ、その奥の威圧的な顔には、特徴的な刀疵が、斜めに大きく刻まれていた。


男の名は『炎城えんじょう

裏組織『墓場』のメンバーである。


「失礼します」


タバコの煙が充満する室内に、一人の女が入室した。

派手な赤いドレスを着こなすその女は静かに炎城のそばに侍り、その場で一礼した。


「炎城様、『商品』のオークションがまもなく始まります。一度、商品の確認をして頂けますか?」

「あぁ」

「それと、この部屋は禁煙で御座います」

「ん? そうだったか、そいつは失敬。ところで……」


炎城は、女の首に手を回し、顎を持ち上げその瞳を覗き込む


「お嬢ちゃん、随分と若いな。年は?」

「今年で15才になります」

「……なるほど、つまりお嬢ちゃんは『闇市』所属の魔法少女って訳か」


こんな場所にその年齢の少女が居る理由は、そのぐらいしか無い。しかし、少女は静かに首を振った。


「いいえ、闇市に所属する魔法少女など、存在しません。彼等は必要があれば、と考えます」

「つまり、お嬢ちゃんは、別の組織の人間な訳?」

「はい。『不統合同盟』所属魔法少女、『パラメデス』と申します」


魔法少女『パラメデス』

死んだ瞳の、機械的な魔法少女


「気に入らねぇな。俺達も商品の護衛をするってのに、闇市は魔法少女を呼んだのか」

「? 今回、あなた方はあくまで『出品者』つまり、お客様です。闇市は客に商品の護衛をさせるほど無恥な連中ではありませんよ」


分かっている。いくら炎城達が護衛すると言っても、闇市にも立場と矜持がある。また、魔法少女かゴロテスが来る可能性がある以上、護衛に魔法少女を加えるというのも妥当だ。理屈は分かる。だが、感情は別だ。

炎城は、魔法少女という存在を嫌っている。それは、子供が戦うのが嫌という甘い理由ではなく、単に気に入らないのだ、存在が。


「では、行きましょうか」


炎城とパラメデスは、会議室を抜け、暗い廊下を歩いて行った。


□ □ □


「さてと、準備オッケーだ」


オークション開始直前。魔法少女『ダムド』もまた、行動を開始していた。


「最初は直接変装して闇市に潜入して、内側から奪ってやろうかとも思ったんだけど、ちょっとがいたからさ、搦手で責めることにするさ」


そう呟きながら、パソコンの前で作業するダムド。その足元には、一人の男が横たわっていた。

男の頭をグリグリと踏み付けにしながら、ダムドは作業を続ける。


「いや搦手というよりも、むしろ正規方か? 苗をってのは、なぁ?」


クローズドネットワーク上に存在する、会員制のオークションサイト。そこに、出品されるであろう親友を、競り落とす。


「なぁ、お前、いくらまで出せる?」


踏み付けにしている男に対して、ダムドが尋ねる。


「お、お前、僕に何を……ぼ、僕が誰だと」

「うるさい」


ダムドは踵を男の顔面に軽く叩きつけ、黙らせる。ダムドは現在、魔法少女に変身している。魔法少女の膂力で蹴られた男の鼻は潰れ、男は悶絶して転げ回ろうとするも、直ぐに踏みつけられてそれもできない。


「聞いているのは、だぞ。なぁ、いくら出せるんだ?」

「ご、五億! 今回のオークションで使う予定だった金がある! 五億出すから、い、命だけは!」

「物分かりがいいなクズ野郎」


ガタガタと、震えながら命乞いをする男に、ダムドは軽蔑的な視線を向ける。その視線には、同時に強い怒りが込められていた。


「お前、なんかに」


ダムドはオークションに参加する人間の中で、最も落札確率の高い人間を調べ、選んだ。

それがこの男。

有数の資産家で、オークション前に金を集めており、人間。

ダムドは見た。男の『コレクション』を。


髪束

眼球、舌、歯、腕、手、耳、脚、指、頭蓋、太腿、肩


されたパーツの名前は、ほとんどが無名の魔法少女のモノ。だからこその怒り。こんな、気弱なだけの男が、『いったい何人の魔法少女を食い物にしたのか』と。

思わず、怒りで頭を踏み潰しそうになる。


深呼吸して、昂る感情を抑える。金を出すのは、この男。このオークションは、特殊だ。

落札するまで、商品が何処にあるかは隠匿されており、落札した後、落札者にのみ商品の場所が公開される。また、商品の一つ一つの場所がばらけておよその場所を特定できても、どの商品があるかは分からない。

だから仕方ない。

この足元のゴミをどうするかは、ことが終わってから考える。ダムドはそう自分に言い聞かせる。


オークション開始まで、残り十分

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