魔法少女は刃を振るう!!

「では、最初の任務だ」


ガノンさんと出会って一週間が経った頃、唐突にそんな事を行って来ました。

もちろん無視です。

プイッてします。


「まだ怒ってんのかよ」


そりゃ怒るでしょう。

初変身、初変身ですよ! 私感動してたのに!

無愛想でも女の子なんです! 魔法少女に憧れはあります!

その初変身と、更に初勝利が!

いつの間にか終わっていたなんて!

こんなの悲劇です。


「悪かったよ、そこまで重きを置いてると分からなかったんだ」


おや、意外です。まさか謝ってくれると思いませんでした。私の乙女心にワンストライクです


「初名乗りは必ずお前にやらせるさ。今のうちに『魔法少女名』考えとくといい」


まさかの和解案! これは評価高いです、許してあげてもいい気がします。ツーストライク


「というわけで、早く許せ」

「YES」


カキィン!

ホームラン! 逆転サヨナラホームランです!

最後の最後で、強権を発動しました!

評価大暴落! 一発KO! した手に出ていたのはアッパーカットを喰らわすためだったんですね!


「というわけで任務だ」


まぁ、はい。流石に落ち着いてきました。

私ももう中学生です。つまり八割くらい大人です。

大人は冷静なんです。


「この任務は、学園の魔法少女には達成不可能だ」


そんなモノを、私に押し付けられても困ります。

もしかして、『死ね』って言われてます?


「勘違いするな、技量的な話じゃない。これは政治的な話だ」

「政治……ですか?」


なんでしょう、『政治』と『魔法少女』の繋がりが見えません。


「魔法少女は、怪異を殺す仕事だ」

「? それが、どうしたんですか」

「勘違いするなと言っている。魔法少女に、怪異を殺す以外の特権など、与えられていない」


なるほど……なるほど?


「つまり、誘拐したことが分かっても、学園は動かない」


! やっと少し分かりました。要は『敵が人間だから』学園は動きにくいんですね。

でもなんでしょう? 何か、違和感があるような……


「でも、自分たちの仲間が誘拐されたのに――」

「いや、今回誘拐されたのは学園の生徒じゃない」

「? では、私と同じ『野良』なんですか?」

「それも、少し違う。彼女は、魔法少女に選ばれたに連れ去られた。学園に登録しに行く途中だったようだ」


! 分かりました、違和感の正体。そもそも『魔法少女を誘拐』という言葉の説得力が無いんです。

だって、変身したでだろうと、超常的な身体能力と魔法を操る魔法少女を、誘拐なんて出来るんでしょうか。


「誘拐された、魔法少女は抵抗しなかったんですか?」

「したさ、だが。戦闘向きじゃなかったんだ」

「…………要求は? 誘拐なら、なんらかの要求がその子の家族にあったんですか?」

「ない。ただ、今回関わっている裏組織は調査済みだ。『墓場』そして『闇市』この時点で、目的は分かる」

「『墓場』…………『闇市』?」

「後で教えてやるよ。……奴らの目的は、『オークション』。誘拐した魔法少女を人身売買して、その利益を山分けするつもりだ」

「!」


こうして、私の記念すべき初任務は、裏組織に誘拐された魔法少女の救出と相成りました。



□ □ □


ゾンビ


この世界で新たに出来た、人間の結末のひとつ。

ゾンビになった人間を元に戻す方法は未だなく、ただ人間を襲い、殺して肉を喰らうだけの亡者と化す。

そして、これは一般的にはあまり知られていないが、


今のゾンビは、『弱い奴』から優先的に殺す。


「ひっ」


例えば、知らない土地の裏路地に迷い込んだ、哀れな女子とか。


『ゾンビ化薬』人間をゾンビに変えるこの薬は、裏組織である程度の流通を見せている。


だから、その街をたい悪人は、


そうして、街の目立たない場所で、古びたアパートの一室で、ゾンビが生まれる。


警察にも魔法少女にも、完全な対策は出来ない。本物の麻薬と同じ様に。


「いやっ! 来ないで! 誰か!」


咄嗟にポーチを振り回し、一定の距離を取るも、時間稼ぎにしかならない。

否、むしろ声を上げた事で、周囲にいたほかのゾンビまでもが集まってきていた。


「誰か! 助けて! 誰もいないの!?」


応える声など無い。ここに居るのはゾンビだけだ。



「……よし、



振り回していたポーチから、何かが溢れる。

それは、可愛らしいポーチから出たとは思えないような、

少女はそれらを、危なげなく空中で掴み取る。


「『変身』」


確かに、完全な対策は出来ない。だがそれは、をしない理由にはならない。


「さてと、『任務』の時間だぜ」


不健康そうに痩せた体

深く刻まれた隈と薄い唇

そして、黒いゴシックロリータのコスチュームと、チェンソー型のステッキ


魔法少女『ダムド』 ここに見参


その異様なオーラに、知性のないはずのゾンビの動きが、ピタリと止まる。


「あ? どうしたよ、ビビってんのか? 人間もどき共。来ないなら」


こっちからイクぞ?


ダムドのチェンソーが、ゾンビのうちの一体に突き刺さる。回転する刃は、黒々とした血を撒き上げ、噴水を作り出した。


標的が武器を手放した事に理解したのか、はたまた仲間の血に本能が刺激されたのか、ほかのゾンビが一斉に襲い掛かる。


「どいつもこいつも女子中学生にバグしに来やがって、揃いも揃ってロリコンかぁ?」


ダムドはふわりと空中に浮かび、ゾンビをかわす。

これこそが全ての魔法少女が持つ、圧倒的優位、汎用魔法『飛行』。

ゾンビのように遠距離攻撃、飛行手段を持たない敵を、場合によっては完封し切ってしまう魔法である。

ダムドは、空に手を伸ばすゾンビの上を、その手が当たるか当たらないかの低空飛行で移動し、突き刺さったままのチェンソーを拾い上げた。

その際、乱暴に引き抜かれた事で血が高く吹き出し、ダムドの顔に降りかかる。ダムドは躱そうともせず、むしろ喜んでその赤黒いシャワーを浴びた。その表情は恍惚としていて、見る物に強い忌避感を与えるだろう。


魔法少女ダムドは、血に酔っていた。


魔法ウルテク見せてやんよ」


魔法少女ダムドは踊る、自身に手を伸ばすゾンビの上で。

魔法少女ダムドは笑う、血に酔いながら、血を撒きながら。


斬撃スラッシュ


次の瞬間、ゾンビ達の首が、ひとつ残らず地に落ちた。


□ □ □


「あぁ、分かっている」


壁に、ゾンビの首から滴る血で


『ダ ム ド 参 上』


と描きながら、ダムドは一人呟いた。


「お前が来ることは分かっていたよ、『』」


否、一人ではなかった。

壁に文字を書くダムドは、背後にいる魔法少女に、振り向いて話しかける。


金色の髪をたくし上げ、鋭い目つきでダムドを睨みつける。

ふわふわの甘ロリが全く似合わない、威圧的な魔法少女


魔法少女『ゴッズ』


「久しいな、私が魔法少女になった時が最後か?」

「……ダムド、お前、何をするつもりだ?」

「別に、見たら分かんだろ? ただの女子中学生の可愛いイタズラだよ。反抗期なんだ」

「お前の舎弟から話は聞いた」


ゴッズは険しい表情のまま、『ダ ム ド 参 上』の落書きを指さす


と同じ落書きを、この町でと、頼んだらしいな」

「…………」

「下手なアリバイまで作って、何をするつもりだ?」

「…………なえが、攫われた」

「! なんだと⁉︎ どういう事だ⁉︎」


予想外の名前の登場に、ゴッズに動揺が走った。苗、この場合は、ゴッズとダムドのである『安藤あんどうなえ』を示している


「やったのは、裏組織『墓場』そして、『闇市』の連中だ」

「……馬鹿な、魔法少女を『商品』として売買する気か?」


これまでも、オークションで魔法少女の私物や、怪異との戦いで失ったが売られることはあった、だが、魔法少女そのものがオークションに出されるなど、聞いたこともない。


「あいつは身寄りがなかったからな。警察に被害届が出るのも時間がかかる。そして警察が動く頃には苗は何処ぞの馬の骨のだろうな」


ギリリ、と。ゴッズは怒りのあまり歯を喰いしばる。同時に、ダムドは文字を書き終えていた。


「お前が、そのナリでも馬鹿みたいに真面目で、いい奴なのは知ってる。今も、助けに行きたくてしょうがないんだろう」


ダムドは話しながら振り返り、ゴッズの隣を通り過ぎようとした。ゴッズは思わず、その腕を掴む。


「大丈夫だ。お前は規律を破らない。だから、。私を今見逃すことは、学園の規律に反しない。私はまだ、何もしてないし、しようともしてない。だからその手を離せ」


ゴッズは、離さない。

ただ、手に入る力は明らかに弱まっていた。ダムドは、一つため息をついて、自分からゴッズの手を振り解き、路地を去っていく


「!」


去り際に残されたその言葉に対しても、ゴッズは何も答えなかった。ただその内には、炎の様な怒りだけが激しく燃え盛っていた。



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