34話 憎しみの化身 ―アルベリス=オルファス―
愛した人を救うのか、共に戦ってきた仲間を守るのか。
勇者メストアに突き付けられたのは、残酷すぎる二択だった。
アルベリスを“憎しみの化身”から取り戻すため、命を削って戦ったその先で――
待っていたのは、想像を超える「喪失」の瞬間。
今章は、勇者の叫びが誰よりも痛烈に胸に響く物語です。
あなたなら、愛と仲間を天秤にかけられた時、どちらを選びますか?
*
メストア
「嘘だろ……まじかよ……。
てことはアルベリスは、自ら身体を売ったってのか……っ!?
くそっ……畜生……!!!
……俺を求めてないのはわかる。だが、あいつが身体を譲っちまったら――愛してる相手に会えねえじゃねえか!」
フェアヴァールト
「……メストア。まだ策はある。
セイントブレードの時と同じだ。加護が残っている。
――待ってろ。“精神に干渉する槍”……スピリチュアルランス!
さぁ、これを使え。……また俺を守ってくれよ、勇者様」
メストア
「あぁ……任せろ!
あの“傲慢にしか愛せない馬鹿”の目を……俺が覚まさせてやる!!」
フェアヴァールトは深緑の結界を張り、メストアを送り出す。
アルベリス(ホーフムートと声を重ねて)
「私は“憎しみの化身”――アルベリス=オルファス。
勇者よ……ここでお前を殺してやる。
一度は殺され、二度目は殺されかけた……もういい加減、やり返したかったところだ」
メストア
「……は? 何を言ってやがる。
俺は殺そうとしたが――殺してはいない!」
アルベリス
「うるさい、うるさい……うるさいィィィ!!
この炎で……燃え尽きろッ!」
メストア
「くそ……話が通じねぇ……! やるしかねえ!」
黒炎と獄炎が交錯する。
妖精王の加護によりダメージは軽減され、メストアは必死に食らいつく。
やっと槍がアルベリスへ届いた瞬間――精神が一方通行で繋がった。
メストア
「おい、アルベリス! なんでそんなに俺を憎むんだ!
“殺した”ってどういうことだ!」
アルベリス
「……あなたは、私がグラウブを片想いしてた時……嫉妬で、私とグラウブをもろとも殺した!
覚えてないの!?」
メストア
「……は? そんなこと……覚えてねぇ!
違う、誤解だ……!
あの時、お前を追っていったら……すでにお前は死んでいたんだ!
そこにグラウブが現れ、俺が殺したと勘違いした。
交戦の末……お互い差し違えただけだ!」
アルベリス
「え……じゃあ私は……誰に……」
メストア
「今はいい! 早く戻らなきゃ、もうお前が壊れちまう!
俺は確かに間違った愛し方をしてた……でも、それを気づかせてくれたのはグラウブなんだ。
だから俺はあいつを殺したくない。
……そして、そんなあいつを愛してる“お前”を、俺が見殺しにできるか!」
アルベリスの心が揺れる。
メストア
「俺だって理想に生きてきた! お前は傲慢に愛してきた!
――それの何が悪い!?
俺もやり直せたんだ! お前がやり直せないわけないだろ!」
アルベリス
「……いやよ……こんな醜い姿で……あの人にどうやって……」
メストア
「お前の愛はそんな浅いもんか?
俺は今でもお前を愛してる。
そして愛されたいと思ってる。
理想じゃなくても、醜くても――“ありのままのお前”が好きなんだ!」
静かに槍を握りしめる。
「だから信じろ、アルベリス。
お前の中の化身を……この槍で貫いて、救ってみせる。
――一緒にやり直そう!」
アルベリスは泣きながらも、小さく頷いた。
メストア
「……ありがとう。愛してるぜ、アルベリス」
槍が突き刺さる。
ホーフムートが引きずり出され、アルベリスは光に包まれる。
メストアは妖精王の加護で彼女を治癒し始めた。
だが――。
ホーフムート
「……よくもやってくれたなぁ? 勇者……!
ここまで私を怒らせるのは、いつぶりだ……!」
圧倒的な殺意が洞窟を満たす。
メストア
「くそ……! フェアヴァールトはまだ意識が戻らねぇ……!
治癒を止めればアルベリスが死ぬ……だがそうすればフェアヴァールトが……!」
ホーフムート
「はは……ここで死ね、勇者よ」
フェアヴァールト(意識朦朧としながら)
「……メストア……俺のことはいい……アルベリスを助けろ……」
メストア
「ふざけんな! お前がいなきゃ……俺はここまで来れなかった!
グラウブだって……お前がいなきゃダメなんだ!」
フェアヴァールト
「……仕方ない。俺はここまでお前らと戦えて悔いはない。
譲渡を解除せず……その槍ごと、託す……」
ホーフムート
「ひひ……なら先にそいつから始末してやろうか。
安心しろ……すぐに楽にしてやる。死ねぇぇぇッ!!」
メストア
「やめろ……やめてくれぇぇぇぇ!!!」
――刹那、洞窟に響き渡る斬撃音。
燃え上がる炎と、血に染まった赤黒い影。
その場に残ったのは――
裂けた肉の匂いと、沈黙だけだった。
次回予告
第35話『失われたもの』
*
最後まで読んでいただきありがとうございます。
守りたいものが多すぎて、結局どちらも守れない。
そんな現実が、勇者の心を引き裂いた。
血と炎の中で失われたもの。
それはただの命じゃない。
“共に歩んできた時間”そのものだった。
読んでくださったあなたに問いかけます。
「もし、大切な人を救う代わりに、仲間を失うとしたら――あなたは戦えますか?」
次回、第35話『失われたもの』。
喪失の痛みが、勇者をさらに強くするのか……それとも、心を折ってしまうのか。
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