35話 失われたもの
仲間を守り抜いたはずの戦いは――衝撃の真実で覆される。
“魔王”とは何か。
“転生”とは何だったのか。
そして、グラウブが失ったものの正体とは……。
自由の化身フライネが告げたのは、あまりにも残酷な事実。
奪われた記憶、歪められた運命。
力なきまま膝をついたグラウブの胸に、ただ一つ残ったのは――純粋な殺意。
ここから、物語は第3章へ突入します。
「取り戻す正義」。
あなたは、この新たな再出発を見届けられますか?
*
メストア
「フェアヴァールトォォォォォ!!!」
ズバッ――!
鋭い斬撃音が響き、洞窟全体が震えた。
メストア
「くそ……間に合わなかった……。
これが勇者かよ……仲間ひとり守れないで、何が勇者だ……っ!!」
――その時。
???
「……なんとか間に合ったな。よく頑張った、メストア」
メストア
「!? その声は……!」
目の前で、ホーフムートの身体が斬り裂かれていた。
その影から姿を現したのは――。
「……グラウブ!」
グラウブ
「ああ、やっと辿り着いた。
魔王の力がなければ、本当に終わっていたところだ」
メストア
「……そうか。フェアヴァールトの気を追って来たんだな」
グラウブ
「ああ。……お前らが無事で、本当に良かった」
血を吐きながら、ホーフムートが呻いた。
「……なぜだ……どうして……」
グラウブは冷たく見下ろし、ただ一言。
「お前は、俺を怒らせた。ただそれだけだ」
ホーフムート
「相手が……悪かったようだな……」
次の瞬間、彼の身体は塵となり、跡形もなく消えた。
⸻
メストア
「……グラウブ!
でも俺じゃ、お前を守れない……!
妖精王の加護で仲間を守ることはできても……お前の“魔王のオーラ”は大きすぎて……!」
「だから……早くここを出よう! まだ動けるか!?」
グラウブ
「ああ、問題ない。……だがまず、フェアヴァールトを治してやれ。
力を使いすぎている」
メストア
「わかった……!」
――その時。
???
「いけませんねぇ、魔王様。何をしてらっしゃるんですか?
目の前に勇者がいるというのに」
グラウブ
「……ッ!? お前は……自由の化身、フライネか!」
空気が一気に凍りつく。
フライネ
「魔王グラウブ・デル・ヴァルモルト様。
あなたは“契約違反”を犯しました。
ですので――この場で処分いたします」
グラウブ
「くそっ……やるしかねえ!
メストア、逃げろ!! 俺のことはいい、行け!」
メストア
「しかし……!」
グラウブ
「大丈夫だ。俺は魔王の力がある。
契約相手とはいえ、力そのものは上回っている。
……あとで落ち合うぞ!」
メストア
「……わかった。死ぬなよ」
加護の光がメストアを包み、彼はアルベリスとフェアヴァールトを抱えてその場を離脱した。
⸻
残されたのは――。
フライネ
「行きましたか……。
さて、魔王様――いえ、“グラウブ君”。大きな勘違いをしていますね」
グラウブ
「……何?」
フライネは指を鳴らした。
パチン――。
瞬間、グラウブの全身から“魔王の力”が消え失せていく。
グラウブ
「……ッ!? 力が……消えていく……!?」
フライネ
「契約違反――勇者を庇った罪。
その時点で、魔王の契約は解除されました。
全ては私が“新たな魔王”になるために、ね」
グラウブ
「どういうことだ……!?」
フライネ
「察しが悪いですねぇ。
魔王とは――人間から“成り代わる”ものなのです。
あなたを触媒に、私は魔王になる準備をしてきた。
あの時近づいたのも、すべては計画通りですよ」
グラウブ
「……!」
フライネ
「実を言うとね――あなた方、アルベリス君とメストア君。
“転生した”と思っているでしょう? 違うんですよ」
グラウブ
「何だと……!?」
フライネ
「私は“メストアの姿”に変身してアルベリスを仮死状態にしました。
そこへ“本物のメストア”を誘導し、あなたと差し違えてほしかった。
勇者は早めに死んでもらう必要があったのでね」
グラウブ
「じゃあ……俺たちはなぜ生きている!?」
フライネ
「そこが面白いところでして。
あなたは強大すぎる回復魔法の持ち主だった。
悔しさか、後悔か、正義への執念か……何かを代償に、仲間を丸ごと“再生”してしまったんですよ。
おそらく代償は“記憶”でしょうね」
グラウブ
「……記憶……。
じゃあ俺が治せなかったのは、代償を払っていなかったからか……!」
フライネ
「そういうことです。
まあ、都合がよかったので――“転生”ってことにしておきました⭐︎」
にやり、と嗤う。
フライネ
「さて、長話はここまで。
あなたはここでまた死に、記憶を失い、そして――再び出会う。
私が“新たな魔王”となった後に、ね」
「では――さようなら」
⸻
そして俺は――無力な自分に、情けなくなった。洞窟を満たすのは、無力になった自分自身の荒い呼吸音だけ。
グラウブ
「……ぐっ……」
膝をつき、視界が滲んでいく。
(……守れなかった……また……)
(……記憶も……力も……全部……)
血を吐きながら、震える唇がかすかに動いた。
「……アルベリス……」
その名を最後に呼び、グラウブの意識は暗闇へと沈んでいった。
残ったのは、血と炎の匂い――そして、消えない“殺意”だけだった。
再び、生き返った時。
胸に残ったのは――ただひとつ。
“何か”への、純粋な殺意だった。
⸻
次回予告
第3章 取り戻す正義
第37話 リスタート
「奪われた記憶と、歪められた運命。
……それでも俺は、正義を取り戻す」
*
最後まで読んでいただきありがとうございます。
失われた力。
曖昧にされてきた“転生”の真実。
そして、正義を掲げたはずの自分自身が、無力なまま膝をつく。
グラウブが最後に口にしたのは「アルベリス」の名。
けれどその想いさえ、記憶と共に消えてしまうのかもしれない。
――それでも彼は立ち上がる。
再び生きる意味は、誰かを愛することか。
それとも、ただ憎しみに駆られることか。
読んでくださったあなたに問いかけます。
「もし、愛も記憶も奪われて、ただ“殺意”だけが残ったとしたら――あなたは何のために生き直しますか?」
次回、第37話『リスタート』。
失った正義を、再び取り戻す物語が始まります。
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