31話 呪いの森
今回も読んでくださってありがとうございます!
物語はいよいよ、呪いに包まれた森の奥へ。
勇者と策士が、互いの力を託し合う瞬間。
「戦う」だけじゃなく、「信じて託す」ことが試される回です。
熱いシーンが続くので、ぜひ心を一緒に震わせながら読んでもらえたら嬉しいです!
*
――瘴気に沈む森。
本来なら神聖であるはずの大地は、禍々しい気配に満ちていた。
フェアヴァールト
「……なんだ、この空気は。森が瘴気に包まれているだと……?
まさか、森の王がやったのか?」
その時だった。
「危ない、フェアヴァールト!」
背後から迫る影。
振り返る間もなく、巨大な“フォレストエイプ”の爪が振り下ろされる――。
轟ッ!!
獄炎が獣を呑み込んだ。
焼け落ちる音と共に、猛獣は絶叫をあげて倒れる。
メストア
「ふぅ……危なかったな」
フェアヴァールト
「……すまない、油断していた。助かった」
だが、メストアの顔は険しいままだった。
メストア
「お前……気づかなかったのか?
あの獣は“魔族のオーラ”を纏っていたぞ」
フェアヴァールト
「……なに……!?
なるほど、そういうことか。
この森はすでに魔族に占有されている……。
おそらく、森の王は“奴らに封じられている”のだろう」
メストア
「……待て、これを見ろ」
倒れ伏すフォレストエイプの背中に、怪しく輝く紋様。
禍々しい線が絡み合い、“呪い”を象徴するように刻まれていた。
メストア
「……これが、魔族の呪いの紋章か?」
フェアヴァールト
「ああ……間違いない。メストア、試してみろ。焼いてみるんだ」
メストア
「はあ? もうこいつは死んでいるんだぞ」
フェアヴァールト
「いいからやれ」
メストア
「……わかったよ。――獄炎魔法、ファイアボール!」
轟、と炎が紋章を焼き尽くす。
すると――倒れていた獣が目を見開き、呻き声をあげて立ち上がった。
その瞳には、もはや禍々しい光は宿っていなかった。
フェアヴァールト
「……やはりな」
メストア
「どういうことだ!?」
フェアヴァールト
「お前の獄炎魔法は――“魔族にとっての天敵”だ。
呪いを焼き尽くす力……さすが勇者様といったところだな」
森の奥へ進むほど、瘴気は濃くなり、息をするのさえ苦しいほどだった。
やがて――そこに現れたのは、天空を突き破るような“神樹”。
だが、その幹には禍々しい“魔族の紋章”が刻まれていた。
メストア
「……神樹にまで……!?
いったい“魔族”とは何なんだ……」
彼は吸い寄せられるように、その幹へと手を伸ばす。
――ドンッ!
大地が鳴動し、視界が白く染まった。
メストアの心に直接、誰かの声が流れ込んでくる。
ピクシーナ
『……お願いです……勇者様……。
我らが王、グラン様――グラン・ティターニャ様を……助けてください……。
魔族に命を人質に取られ、王は力を封じられてしまったのです……。
勇者様の炎だけが……唯一、この呪いを焼き払えます……!
どうか……神樹を、そして我らが王を……解放してください……!』
その必死の懇願に、メストアの瞳は決意の炎を宿す。
メストア
「……わかった。任せろ」
意識が現実に戻ると、そこに立っていたのは――。
長い黒髪、雪のように白い肌。黒き草を編んだドレスを纏い、妖艶でありながら神々しい姿。
誰もが一目で悟るだろう。
――それが“神霊グラン・ティターニャ”だ、と。
しかし、彼女の口から紡がれたのは慈悲ではなかった。
グラン・ティターニャ
「初めまして、勇者様。
そして――さようなら」
次の瞬間、メストアの足元に黒い魔法陣が広がり、雷鳴が森を裂いた。
漆黒の稲妻が襲いかかる。
フェアヴァールト
「くそ……間に合えッ!!
――“何者も通さぬ盾(インヴィオラブル・シールド)”!」
光の盾が雷撃を受け止める。
だが、その表面には無数のヒビが走っていた。
フェアヴァールト
「……っ! 急げ、メストア! 次が来るぞ!」
メストアは転がるようにして回避し、辛うじて命を繋いだ。
グラン・ティターニャ
「……よくぞ凌いだな。さすがだ、フェアヴァールト。
やはりお前は強い」
メストア
「……知り合いなのか!?」
フェアヴァールト
「ああ。俺の故郷は、この森にあった。
……なるほどな。フライネに洗脳された村人たち……そこに魔族が関わっていたのか……。
フライネめ、許せん」
メストア
「フライネは魔族……!?
だからグラウブを……!?
これは……予想以上に厄介な話だ……」
フェアヴァールト
「悠長に語っている暇はないぞ!」
グラン・ティターニャが再び両手を掲げた。
グラン・ティターニャ
「――深淵なる黒雷よ、我が身を覆い、閃光の鎧とならん」
黒き稲妻がその身体を包み込む。
その姿はもはや妖精王ではなく、“魔王”を思わせる威容へと変貌していた。
フェアヴァールト
「……くそっ、早すぎる……!
このままじゃ、メストアが持たない……!」
メストア
「だがここで力を使いすぎれば、ホーフムートに届かなくなる……。
クソッ……どうすれば……!」
――森の奥に、絶望の雷鳴が轟き続けていた。
フェアヴァールトは黒雷を纏う妖精王を見据え、短く息を吐いた。
「……メストア、案がある。
俺はグラウブの従者だ。ゆえに“魔族”として認識されてしまう。
だから俺一人じゃ勝てない。――だが、お前ならできる」
鋭い視線を勇者へと向ける。
「勇者の力で、この呪いを切り裂け。
防ぐんじゃなく、互いの能力を重ねて……森の王を目覚めさせるんだ」
メストア
「!? 本当にやるのか……?
俺はまだお前を知らない……。でも、それはお前も同じか」
一拍置き、彼は剣を構え直す。
「……いいだろう。やるぞ!」
その言葉に、フェアヴァールトは珍しく柔らかく笑った。
「それでこそ勇者だ」
――その笑顔は、普段の彼からは想像できないほど無防備で。
まるで全てを託す者の覚悟そのものだった。
「手を貸せ。俺の魔法を一つだけ、お前に“譲渡”する」
フェアヴァールトの掌が触れると、光が溢れ、ふわりと一本の剣がメストアの手に収まる。
メストア
「これは……」
フェアヴァールト
「“呪いを切る剣”。そうだな――セイントブレードとでも名付けておこうか。
聖なる光を宿すその刃に……お前の獄炎を重ねろ」
彼は低く、しかし確信を込めて告げる。
「いいか、譲渡している間、俺は動けない。
俺が先に死ぬか……お前が奴の呪いを断つか……勝負はそれだけだ」
「勇者メストア・ドグマ。
俺はお前を諦めない。この命を賭けて……信じている」
光に照らされた剣を握るメストアは、炎と聖光を背に――まるで真の勇者そのものだった。
その姿は、呪いの森を切り裂く一条の希望。
⸻
次回予告
第32話「信じたその先は」
授けられた命と力。
炎と光を併せ持つ勇者の剣は、果たして森を解放できるのか。
*
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!
今回の見どころは、フェアヴァールトが命を懸けてメストアに力を託したところ。
“セイントブレード”を握るメストアの姿、みなさんの目にも勇者らしく映ったでしょうか。
「信じること」って、物語でも現実でも、いちばん難しくていちばん強い力なんだと思います。
次回のタイトルは――第32話『信じたその先は』。
ぜひ続きも追いかけてください!
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