32話 信じたその先は
光と闇がぶつかる森の戦場。
“勇者失格”の烙印を押されかけたメストアが、仲間の想いとセイントブレードに導かれて覚醒する。
呪いを祓い、加護を得て、そして……次なる舞台は火山の牢獄。
待ち受けるのは「二重の存在」となったホーフムート。
仲間を救うか、宿命を断ち切るか――勇者と策士の心が試される。
「勇者の真価は、心を護れるかどうかだ」
そう問いかけられている気がする。
今章は、まさに “心の対話編”の幕開け。
*
メストア
「すげぇ……! なんだこれは……!」
驚きと高揚が入り混じった声が漏れる。
その手に握る“セイントブレード”は、光と炎を宿し、勇者の心臓にまで響くように鼓動していた。
だが――。
グラン・ティターニャ
「させるか……!」
森を揺るがす黒雷が放たれ、一直線にフェアヴァールトを狙う。
メストア
「くそっ……間に合わねえ……!」
咄嗟に飛び出した瞬間、剣から光が弾けた。
その光はメストアの体を包み込み、閃光の速さで駆け抜け――稲妻を切り払う。
メストア
「……なんだ? 体が軽い……!
そうか……俺がアルベリスにかけてしまった“獄炎の呪い”を、この剣が祓ってくれたんだな」
拳を握りしめ、燃える瞳で前を見据える。
「ここで負けちまったら勇者失格だ……!
譲渡してくれたフェアヴァールトに、今度は俺が応える番だ!」
セイントブレードが光を集め、優しいのに鋭い輝きとなって森を満たす。
メストア
「――さぁ、次はお前の呪いを祓ってやる!
行くぞ、グラン・ティターニャァァァッ!」
森全体を揺るがす雄叫びと共に、閃光が走る。
一気に凝縮された光が彼女へと収束し、まばゆい閃光が闇を裂いた。
――その刹那。
黒雷の鎧は一刀両断され、グラン・ティターニャを縛っていた魔族の呪いは砕け散った。
苦悶の表情が、やがて柔らかな安堵へと変わっていく。
⸻
数時間後。
「……い、フェアヴァールト! おい、目を覚ませ!」
必死に揺さぶるメストアの声に、重いまぶたが開く。
フェアヴァールト
「……おぉ。俺が生きてるってことは……やったんだな」
二人は無言のまま拳を合わせた。
その瞬間、互いの想いが確かに伝わる。
メストア
「……すげぇなお前のセイントブレード。ただ呪いを切っただけじゃねぇ。
光の速さで駆け抜けられた。間違いなく、あれがなけりゃ俺は稲妻に焼かれて死んでた」
フェアヴァールト
「……? そんな能力は付与していないが」
メストア
「え……じゃあ、なんで……」
声に答えたのは、静かに目を開いたグラン・ティターニャだった。
「それは勇者様の潜在能力――“加護の器”のおかげです」
フェアヴァールト
「……グラン・ティターニャ様……!」
彼女は慈愛の笑みを浮かべながら告げる。
「勇者には代々伝わる“加護”があります。魔王を討つために……。
魔王の覇気は、ただそれだけで人を圧倒し、立つことすら困難にさせる。
耐えるには四王の加護が必要なのです」
メストア
「……だから、あの時……グラウブの覇気で動けなかったのか」
グラン・ティターニャ
「その通りです。森、山、地、海――四人の王を訪ね、加護を授かるのです」
そう言って彼女は、白い指を差し出した。
「さあ、勇者様。手を」
メストアは迷わず差し出す。
新緑の光が全身を包み込んだ。
「森の王として、あなたに“妖精王の加護”を授けましょう。
これは攻撃には役立ちません。ですが――仲間を守る力となります」
その笑顔は、まさに女神のように慎ましく、美しかった。
「……ただし、他の王は私よりも厳しい方々。お気をつけくださいね」
彼女はフェアヴァールトにも目を向ける。
「よくぞ生きてくれました。村のことは残念でしたが……強く生きてください。魔王を倒すために」
フェアヴァールトの胸に、言葉にならない苦さが広がる。
(……魔王を倒す。それは――グラウブを殺すことだ)
彼は心の中で強く誓った。
(そんな運命すら覆せる“武器”を、俺が創り出す……!)
顔を上げると、毅然と応じた。
「……はい。かしこまりました」
その姿に満足げな微笑を残し、グラン・ティターニャは風に溶けるように姿を消した。
⸻
静寂の森に、二人だけが残る。
メストア
「……わかってるよ、フェアヴァールト。お前はグラウブを助けたいんだろ?
だったら俺も一緒だ。お前の剣が俺の呪いを祓ってくれたみたいにな」
フェアヴァールトは、ほんの少しだけ、その言葉に救われた。
かつて“諦め”の化身と呼ばれた自分は、もういない。
メストア
「よし……それじゃあアルベリスを追うぞ。フェアヴァールト、掴まれ!」
フェアヴァールト
「ああ、任せろ。――“繋がりの手”!」
黒い魔法陣から伸びた“絆の手”が、二人を繋ぎ結ぶ。
メストア
「今の俺は閃光のように速い……!
待ってろよ、アルベリス。絶対、お前を助けてやる!」
――光が森を貫き、二人の旅は再び走り出した。
――閃光を駆け抜け、二人が辿り着いたのは西の果て。
大地が裂け、火柱が天へ噴き上がる“火山の牢獄”だった。
メストア
「……ここか……!」
フェアヴァールト
「ああ。ホーフムートが封印されている山だ……」
眼前には、赤黒いマグマに包まれた巨岩。
その中央に鎖のような呪符が幾重にも張り巡らされ、“異形の心臓”のように脈動している。
そこに――。
封印の中に眠る“ホーフムートの本体”が、不気味に目を開いた。
同時に、アルベリスの身体を媒介としたホーフムートが現れ、二人を見下ろすようにニヤリと嗤った。
「……来たか、勇者に策士よ」
声は二重に響く。
封印体と、アルベリスの肉体を通した声が重なり合い、火山の轟きすら掻き消す。
「愚かだな。二つを同時に断ち切らねば意味がないことを……わかっているのか?」
メストアの背筋を冷たいものが走る。
(同時に……封印体と、アルベリスの中のホーフムートを……!?)
フェアヴァールトは眉をひそめ、剣を構えながら低く呟いた。
「……なるほど。これが“傲慢”の真骨頂ってわけか」
二人の前に立つのは――
“二重の存在”となったホーフムート。
火山の灼熱と魔の気配が混じり合い、世界そのものが呑まれようとしていた。
次回予告
第33話 心の対話
アルベリスは深い精神の淵で、ホーフムートと向かい合っていた。
その言葉は甘く、しかし爛れた毒を含み、
彼女の心を“乗っ取る”ように絡みつく。
「愛されたいのだろう?
ならば、全てを私に委ねよ――」
いやらしくも傲慢に微笑む化身。
その声は優しさを装いながら、自由すら奪おうとしていた。
“傲慢”とは、他者をねじ伏せる力ではない。
心に忍び込み、気づかぬうちに侵す――その姿こそ真の恐怖。
果たしてアルベリスは抗えるのか。
それとも、心ごと飲み込まれてしまうのか。
*
最後まで読んでいただきありがとうございます。
メストアがようやく掴んだ“勇者としての光”。
でもその輝きすら、ホーフムートの「傲慢」に呑まれるかもしれない。
アルベリスが狙われるのは肉体だけじゃない――心そのものだ。
読んでくださったあなたに問いかけたい。
もし、大切な人が心ごと奪われそうになったら……あなたはどうする?
次回「心の対話」。
深淵での攻防は、必ずあなたの胸にも刺さるはずです。
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