29話 三銃士
傲慢の化身・ホーフムートとの対峙。
「殺すか、生かすか」――迫られる究極の選択。
勇者、魔王、策士。三者三様の答えが交錯するとき、戦わずして切り開かれる道があった。
今話は、彼らが初めて並び立つ瞬間。
“戦う以外の強さ”を描いています。
*
「……どうする?」
ホーフムート=オルファスは、にたりと笑みを浮かべながら問いかけた。
「この女もろとも私を殺すか? それとも生かすか?」
声は愉悦と残酷を含み、次の瞬間、黒い波動が放たれ、グラウブの体が精神世界から弾き出される。
「ぐっ……!」
戻ったグラウブは片膝をつき、悔しそうに歯を食いしばった。
(くそ……どうすれば……)
その顔には、諦めに傾きそうな影が浮かんでいた。
メストアは剣を握りしめたまま、答えを出せずに立ち尽くしている。
「……殺せば助からない。けど、このままじゃ……」
彼の瞳には、迷いと痛みが映っていた。
沈黙を破ったのはフェアヴァールトだった。
「……ホーフムート自身が封じられてる場所に行って、本体を破壊すればいいんじゃないか?」
冷静な提案。だがその表情には、覚悟がにじんでいた。
メストアも声を絞り出す。
「グラウブ……あいつの“本”を燃やせばいいんじゃないか?
アルベリスの未来視は文字に映るんだろ。それを消せば、とりあえず少しは状況を変えられるかも」
ホーフムートが笑った。
「なるほど、よい発想だ。……だが、甘いな」
黒い本が宙に浮かび、ページが勝手にめくられていく。
ホーフムートは指で字をなぞりながら言った。
「“傷つかない体になる”」
契約文字が光を放つ。
「さあ、試してみろ」
メストアは迷いなく踏み込み、剣を振り下ろした。
――ズバッ!
「なっ……!」
刃は確かに当たった。だが肉は裂けず、血も流れない。
ホーフムートが笑う。
「彼女の感情と一致したようだな。……これで五分間は無敵だ」
その目が細まり、次の文字を刻む。
「“愛する人へ近づくスピードを上げる”」
瞬間、アルベリスの身体が音を裂いて加速し、グラウブへ迫る。
「くっ……!」
受け止めた剣に衝撃が走り、グラウブの体は宙へ弾かれ、峠の崖下へと吹き飛ばされた。
「グラウブ!!」
その瞬間――フェアヴァールトの魔法が発動する。
彼の手元に黒い陣が浮かび、そこから現れたのは鋼でも鎖でもない、“巨大な手”だった。
「――“絆の手”」
闇の手が伸び、落ちかけたグラウブをしっかり掴み取る。
糸のような魔力で結ばれたその手は、確かに二人を繋いでいた。
「……武器しか作れないと思ってたか? 違うさ」
フェアヴァールトは額に汗を浮かべながら言う。
「必要なら、“繋ぐもの”だって創れる」
グラウブは苦く笑い、頷いた。
その隙を狙い、ホーフムートが霧のように逃走を試みる。
「逃がすか……!」
メストアが走り込み、剣を振るった。
狙いは――アルベリスの足。
ズバッ――!
腱が断たれ、ホーフムートの動きが鈍る。
メストアは苦しそうに目を閉じた。
「……心苦しいが、少しでも寿命を減らさずに済むように……これで足止めはできる」
ホーフムートの目が光る。
「ひひひ……なかなかいい判断だ。だが――次はもっと面白くなりそうだな」
黒い霧が周囲を包み込む。
その中で、不気味な笑みが残響のように広がった。
――この日、並び立ったのは、勇者・魔王・策士。
抗った三人の名は、後にこう呼ばれる。
“三銃士”
*
最後まで読んでいただきありがとうございます。
戦場に立つのは剣を振るう者だけじゃない。
迷いを抱えながらも決断する勇者。
悔しさを呑み込みながらも仲間を信じる魔王。
そして、静かに策を差し込む策士。
この三人が揃ったとき、ただの戦闘譚ではない物語が始まる。
彼らはいつしか――こう呼ばれる。
「三銃士」と。
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