第15話 君が信じた呪い

「信じた気持ち」が裏切られるとき、人はどうなるんだろう。


愛だと思っていたものが、呪いになる瞬間がある。

それでも人は、誰かを求めてしまうんだと思う。


今回は、物語のひとつの“終わり”と、

取り返しのつかない“始まり”を描きました。


どうか、最後まで見届けてください。



(血を吐きながら、メストアは立ち上がる。右腕は折れ、だらりと垂れ下がっていた。左手で押さえながら、口元にうっすら笑みを浮かべる)


メストア

「ようやく……思い出したよ。グラウブ──いや、“お前”だ。

俺の人生を狂わせた、張本人。」


グラウブ

「……なんの話だ、メストア。」


メストア

「前世で、俺は“勇者”だった。

けどな──誰にも、必要とされてなかった」


「努力も、流した血も、涙も。全部“当然”で片付けられて。

誰も見てくれなかった」


「……ただ一人を除いては」


(アルベリスが小さく息を呑む)


メストア

「“頑張ったね”──そう言ってくれた。

たった、それだけの言葉で、俺は救われた。

色のなかった世界が、一瞬で色づいた気がしたんだ」


「……あの瞬間、お前を好きになった」


(沈黙。静かに、言葉が続く)


メストア

「でもな、気づいたんだ。

お前が見てたのは、俺じゃない。“グラウブ”──お前だった」


「だから……奪いたいと思った。アルベリスを。

だけど、婚約は断られた。ならいっそ、殺そうと思った。

……歪んでた。狂ってた。わかってる」


「けど、それでも……俺は、後悔してない」


グラウブ

「メストア……」


メストア

「フライネの力で、転生した。この世界でやり直せると思った。

けど、“名前”を聞いたとき──思い出してしまった。

俺がずっと、呪ってた名前を」


(彼の掌に、紫黒い炎が灯る)


メストア

「……これが、俺の最後の魔法だ。

心臓を半分削って放つ、“永続の業火”。」


「お前ら二人にかける。“誰も愛せない呪い”を」


「誰かを愛した瞬間、その想いが尽きるまで──

心を、焼き尽くす」


(炎が二つに分かれ、グラウブとアルベリスへと向かって放たれる)


ナーヴァ

「──グラウブを……やめろッ!!」


(ナーヴァが飛び出す。その身体に、炎のひとつが突き刺さる)


グラウブ

「ナーヴァッ!!」


(炎に包まれ、燃え上がるナーヴァ。

だがその目は、まだ──消えていなかった)


ナーヴァ(苦しみながら)

「へへ……やっと……役に立てたかな、俺……」


(呪いと、契約の制約が衝突し、命が途切れかける)


グラウブ(叫ぶ)

「ナーヴァ!! 死ぬな!! 頼む……!」


(グラウブの左手が光を帯び、魔王の紋章が空中に描かれる)


グラウブ

「これは命令だ──生きろ、ナーヴァ。“我が従者”として!!」


(魔王の主従契約が発動し、命の炎がかろうじて繋がれる)


ナーヴァ(目を開ける)

「……うん。でも……なんか、おかしい。心が、……空っぽだ」


(その瞳に、“愛”の光はなかった)


グラウブ(呟く)

「……愛の感情を、奪われたのか……」


(もう一つの炎が、アルベリスの心を貫く)


アルベリス

「……あっ……」


(胸を押さえ、膝をつくアルベリス。瞳から、涙がこぼれ落ちる)


アルベリス(心の声)

「こんなにも愛してるのに……愛せない……!!」


(その胸には、焼けただれるような紋章──呪いの証)


メストア(血を吐きながら笑う)

「これが、俺の“信じた呪い”だ」


「俺を裏切った、お前らへの罰だよ……はは……ははは……」


(満月が静かに浮かぶ夜。三人の身体が、草原に沈む)


ナレーション(アルベリス視点)

──運命は、いつだって残酷だ。


けれど。

信じた想いが“呪い”として残るなら、

それはもう、愛だったのかもしれない。



失ったものを、いくら数えたって──

戻るものなんて、ひとつもなかった。


愛を奪われた少女。

愛されたことを知らなかった少年。

呪いを遺し、沈んだ勇者。


そして、まだ語られていない“咆哮”がある。

それは、選ばれなかった者たちの物語。


次回

第16話『愛を忘れた世界で』


「愛してる」と言えなくても、

確かに、愛していた。

……ただ、それを証明できる世界じゃなかった。



誰かを救おうとしたその手が、

誰かを傷つける結果になることがある。


でもそれは、間違いだったのか。

それとも──

ただ、世界が優しくなかっただけなのかもしれない。


メストアの選んだ「呪い」は、

愛を知ってしまったからこそ生まれたものでした。


次回から始まる第二章は、

「失われた愛のその後」を描いていきます。


もしよかったら、これからも一緒に歩いてください。

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