第15話 君が信じた呪い
「信じた気持ち」が裏切られるとき、人はどうなるんだろう。
愛だと思っていたものが、呪いになる瞬間がある。
それでも人は、誰かを求めてしまうんだと思う。
今回は、物語のひとつの“終わり”と、
取り返しのつかない“始まり”を描きました。
どうか、最後まで見届けてください。
*
(血を吐きながら、メストアは立ち上がる。右腕は折れ、だらりと垂れ下がっていた。左手で押さえながら、口元にうっすら笑みを浮かべる)
メストア
「ようやく……思い出したよ。グラウブ──いや、“お前”だ。
俺の人生を狂わせた、張本人。」
グラウブ
「……なんの話だ、メストア。」
メストア
「前世で、俺は“勇者”だった。
けどな──誰にも、必要とされてなかった」
「努力も、流した血も、涙も。全部“当然”で片付けられて。
誰も見てくれなかった」
「……ただ一人を除いては」
(アルベリスが小さく息を呑む)
メストア
「“頑張ったね”──そう言ってくれた。
たった、それだけの言葉で、俺は救われた。
色のなかった世界が、一瞬で色づいた気がしたんだ」
「……あの瞬間、お前を好きになった」
(沈黙。静かに、言葉が続く)
メストア
「でもな、気づいたんだ。
お前が見てたのは、俺じゃない。“グラウブ”──お前だった」
「だから……奪いたいと思った。アルベリスを。
だけど、婚約は断られた。ならいっそ、殺そうと思った。
……歪んでた。狂ってた。わかってる」
「けど、それでも……俺は、後悔してない」
グラウブ
「メストア……」
メストア
「フライネの力で、転生した。この世界でやり直せると思った。
けど、“名前”を聞いたとき──思い出してしまった。
俺がずっと、呪ってた名前を」
(彼の掌に、紫黒い炎が灯る)
メストア
「……これが、俺の最後の魔法だ。
心臓を半分削って放つ、“永続の業火”。」
「お前ら二人にかける。“誰も愛せない呪い”を」
「誰かを愛した瞬間、その想いが尽きるまで──
心を、焼き尽くす」
(炎が二つに分かれ、グラウブとアルベリスへと向かって放たれる)
ナーヴァ
「──グラウブを……やめろッ!!」
(ナーヴァが飛び出す。その身体に、炎のひとつが突き刺さる)
グラウブ
「ナーヴァッ!!」
(炎に包まれ、燃え上がるナーヴァ。
だがその目は、まだ──消えていなかった)
ナーヴァ(苦しみながら)
「へへ……やっと……役に立てたかな、俺……」
(呪いと、契約の制約が衝突し、命が途切れかける)
グラウブ(叫ぶ)
「ナーヴァ!! 死ぬな!! 頼む……!」
(グラウブの左手が光を帯び、魔王の紋章が空中に描かれる)
グラウブ
「これは命令だ──生きろ、ナーヴァ。“我が従者”として!!」
(魔王の主従契約が発動し、命の炎がかろうじて繋がれる)
ナーヴァ(目を開ける)
「……うん。でも……なんか、おかしい。心が、……空っぽだ」
(その瞳に、“愛”の光はなかった)
グラウブ(呟く)
「……愛の感情を、奪われたのか……」
(もう一つの炎が、アルベリスの心を貫く)
アルベリス
「……あっ……」
(胸を押さえ、膝をつくアルベリス。瞳から、涙がこぼれ落ちる)
アルベリス(心の声)
「こんなにも愛してるのに……愛せない……!!」
(その胸には、焼けただれるような紋章──呪いの証)
メストア(血を吐きながら笑う)
「これが、俺の“信じた呪い”だ」
「俺を裏切った、お前らへの罰だよ……はは……ははは……」
(満月が静かに浮かぶ夜。三人の身体が、草原に沈む)
ナレーション(アルベリス視点)
──運命は、いつだって残酷だ。
けれど。
信じた想いが“呪い”として残るなら、
それはもう、愛だったのかもしれない。
⸻
失ったものを、いくら数えたって──
戻るものなんて、ひとつもなかった。
愛を奪われた少女。
愛されたことを知らなかった少年。
呪いを遺し、沈んだ勇者。
そして、まだ語られていない“咆哮”がある。
それは、選ばれなかった者たちの物語。
次回
第16話『愛を忘れた世界で』
「愛してる」と言えなくても、
確かに、愛していた。
……ただ、それを証明できる世界じゃなかった。
*
誰かを救おうとしたその手が、
誰かを傷つける結果になることがある。
でもそれは、間違いだったのか。
それとも──
ただ、世界が優しくなかっただけなのかもしれない。
メストアの選んだ「呪い」は、
愛を知ってしまったからこそ生まれたものでした。
次回から始まる第二章は、
「失われた愛のその後」を描いていきます。
もしよかったら、これからも一緒に歩いてください。
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