第14話 シュラハトフェルト(戦場)

もし、再会が“幸せ”だなんて思い込んでいたら──

それはきっと、物語を知らない誰かの幻想だ。


魔王になった俺。

信じた相手に裏切られた勇者。

そして、愛を信じたまま踏み込んできた彼女。


それぞれの“願い”がぶつかる場所に、朝日が昇る。



(東の草原。朝日が昇る直前、白く煙る空気の中──三つの影が、静かに浮かび上がる)


グラウブ(心の声)

アルベリスを“知っている”と悟られた瞬間──

メストアは、迷わず彼女を殺す。


あの目を、俺は知ってる。

狂気を、信念で封じ込めた、あの目を。


だがアルベリスは、それに気づいていない。

無邪気に、純粋に、俺へと歩み寄ろうとしてくる。


お願いだ。

気づいてくれ。

ここにいてはいけないって、俺の“言葉の裏”に──。


(わずかに声を張り、冷たく告げる)


グラウブ

「……おい。後ろの女を、なぜ連れてきた。

巻き添えにしたいのか?」


(その声には、微かな震え。冷たさの奥に、警告が混じる。“帰れ”という合図)


(アルベリスが一瞬だけ目を見開く。だが──その意味を、まだ測りかねている)


メストア

「……………あんたが……」

(ぎり、と歯を食いしばる)

「あんたが──あんたなのかよぉ……!!」


(抑えていたものが、崩れ落ちるように噴き出す)


「他の誰でもよかったんだ。

どんな怪物でもよかった……! でも……」


「でも──俺が信じた、あんたが……!!」

「なんで、だよ……! なんで、なんだよぉおおおお!!!!」


(その瞳の奥にあったのは、信仰の崩壊。

“正義”と“希望”が崩れ落ちた、瓦礫のような絶望)


(次の瞬間、感情の濁流が肉体を突き動かす)


メストア

「構えろ、魔王──!!!」


(閃光と共に風が裂ける。

勇者と魔王が、ついに刃を交える)


(アルベリスは、小さく息を呑む)

(夜が明け、朝日が三人の影を長く引き伸ばす)


(魔力が地を揺らし、空を裂く。激しい戦闘)


メストア(心の声)

(くそっ……まるで重戦車だ……)

(防御魔法が……追いつかない──!)


(グラウブの渾身の蹴りが、メストアの膝を正確に打ち砕く)


メストア

「──ッがああああッ!!」


(膝をついた瞬間、グラウブの掌がメストアの右手首を掴み、ねじり上げる)


グラウブ(低く)

「……もう、動くな」


(魔力をまとった手刀が振り下ろされる。

右腕──破砕)


メストア

「ぐぅうう……っ!!!」


(右腕と左脚。両方を失い、地面に崩れ落ちるメストア。

草原に血が滲む。だが、グラウブは止めの一撃を躊躇う)


グラウブ(心の声)

(今、終わらせれば楽になる……

……けど、本当にそれでいいのか?)


(そのとき──)


アルベリス

「やめて!!!」


(風を切り裂く声。彼女が駆け寄り、二人の間に立ちはだかる)


アルベリス

「お願い……! もう十分よ……!」


グラウブ(目を細めて)

(……気づいてくれ。俺の“知らないふり”の意味を──)


(地面に倒れたメストアが、痛みに震えながらも顔を上げる)


メストア

「……アルベリス……助けに、来てくれたのか……?」


アルベリス(目をそらし)

「違う。ただ……止めたかっただけ」


ナレーション(アルベリス視点)

──戦いは、終わった。

でも、心の中の争いは……始まったばかりだった。


(メストアの身体は、明らかにもう戦えない。

それでも──その目には、まだ光が残っていた)


アルベリス(涙を浮かべて)

「……グラウブ。やっと……やっと会えた……」

「生きててくれて……本当に、嬉しい……」


(グラウブは、息を飲む。

隠してきた正体が、とうとう明るみに出てしまった)


メストア(青ざめ、混乱)

「やっと……?」

「それって……まさか……」


(記憶が蘇る。かつて婚約を交わした夜──

アルベリスが、知らない名前を呼んでいた)


メストア

「まさか……あのときの……!」

「お前が、“あの人”だったのか……!!」


(アルベリスは静かに顔を上げ、グラウブを見つめる)


アルベリス

「私がメストアとの婚約を受けたのは……

あなたに、会いに行くためだったの」


(グラウブ、言葉を失う)


グラウブ(心の声)

(……婚約……? アルベリスと、メストアが……?)


メストア(うめきながら)

「グラウブ……俺は……あんたを、信じてたのに……」

「なのに……その女と婚約してたのが、俺だったのに……!」


(空気が、止まった)


(視線が交差する。愛、後悔、嫉妬、絶望──

すべてが、この場所に集まっていた)



次回予告|第15話『君の信じた呪い』


「信じたものが、すべて裏切りだったとしても──

俺は、お前と交わした“あの約束”だけは、守る」


壊れた身体で、メストアは最後の魔法を放つ。

それは呪いか、それとも──祈りか。



勝っても、負けても、

誰かの心が壊れる戦いだった。


信じたものに裏切られた勇者が、

それでも立ち上がろうとした理由。


次回、

「君の信じた呪い」

世界で一番残酷な“愛の約束”が、

ついに放たれる──

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