第14話 シュラハトフェルト(戦場)
もし、再会が“幸せ”だなんて思い込んでいたら──
それはきっと、物語を知らない誰かの幻想だ。
魔王になった俺。
信じた相手に裏切られた勇者。
そして、愛を信じたまま踏み込んできた彼女。
それぞれの“願い”がぶつかる場所に、朝日が昇る。
*
(東の草原。朝日が昇る直前、白く煙る空気の中──三つの影が、静かに浮かび上がる)
グラウブ(心の声)
アルベリスを“知っている”と悟られた瞬間──
メストアは、迷わず彼女を殺す。
あの目を、俺は知ってる。
狂気を、信念で封じ込めた、あの目を。
だがアルベリスは、それに気づいていない。
無邪気に、純粋に、俺へと歩み寄ろうとしてくる。
お願いだ。
気づいてくれ。
ここにいてはいけないって、俺の“言葉の裏”に──。
(わずかに声を張り、冷たく告げる)
グラウブ
「……おい。後ろの女を、なぜ連れてきた。
巻き添えにしたいのか?」
(その声には、微かな震え。冷たさの奥に、警告が混じる。“帰れ”という合図)
(アルベリスが一瞬だけ目を見開く。だが──その意味を、まだ測りかねている)
メストア
「……………あんたが……」
(ぎり、と歯を食いしばる)
「あんたが──あんたなのかよぉ……!!」
(抑えていたものが、崩れ落ちるように噴き出す)
「他の誰でもよかったんだ。
どんな怪物でもよかった……! でも……」
「でも──俺が信じた、あんたが……!!」
「なんで、だよ……! なんで、なんだよぉおおおお!!!!」
(その瞳の奥にあったのは、信仰の崩壊。
“正義”と“希望”が崩れ落ちた、瓦礫のような絶望)
(次の瞬間、感情の濁流が肉体を突き動かす)
メストア
「構えろ、魔王──!!!」
(閃光と共に風が裂ける。
勇者と魔王が、ついに刃を交える)
(アルベリスは、小さく息を呑む)
(夜が明け、朝日が三人の影を長く引き伸ばす)
(魔力が地を揺らし、空を裂く。激しい戦闘)
メストア(心の声)
(くそっ……まるで重戦車だ……)
(防御魔法が……追いつかない──!)
(グラウブの渾身の蹴りが、メストアの膝を正確に打ち砕く)
メストア
「──ッがああああッ!!」
(膝をついた瞬間、グラウブの掌がメストアの右手首を掴み、ねじり上げる)
グラウブ(低く)
「……もう、動くな」
(魔力をまとった手刀が振り下ろされる。
右腕──破砕)
メストア
「ぐぅうう……っ!!!」
(右腕と左脚。両方を失い、地面に崩れ落ちるメストア。
草原に血が滲む。だが、グラウブは止めの一撃を躊躇う)
グラウブ(心の声)
(今、終わらせれば楽になる……
……けど、本当にそれでいいのか?)
(そのとき──)
アルベリス
「やめて!!!」
(風を切り裂く声。彼女が駆け寄り、二人の間に立ちはだかる)
アルベリス
「お願い……! もう十分よ……!」
グラウブ(目を細めて)
(……気づいてくれ。俺の“知らないふり”の意味を──)
(地面に倒れたメストアが、痛みに震えながらも顔を上げる)
メストア
「……アルベリス……助けに、来てくれたのか……?」
アルベリス(目をそらし)
「違う。ただ……止めたかっただけ」
ナレーション(アルベリス視点)
──戦いは、終わった。
でも、心の中の争いは……始まったばかりだった。
(メストアの身体は、明らかにもう戦えない。
それでも──その目には、まだ光が残っていた)
アルベリス(涙を浮かべて)
「……グラウブ。やっと……やっと会えた……」
「生きててくれて……本当に、嬉しい……」
(グラウブは、息を飲む。
隠してきた正体が、とうとう明るみに出てしまった)
メストア(青ざめ、混乱)
「やっと……?」
「それって……まさか……」
(記憶が蘇る。かつて婚約を交わした夜──
アルベリスが、知らない名前を呼んでいた)
メストア
「まさか……あのときの……!」
「お前が、“あの人”だったのか……!!」
(アルベリスは静かに顔を上げ、グラウブを見つめる)
アルベリス
「私がメストアとの婚約を受けたのは……
あなたに、会いに行くためだったの」
(グラウブ、言葉を失う)
グラウブ(心の声)
(……婚約……? アルベリスと、メストアが……?)
メストア(うめきながら)
「グラウブ……俺は……あんたを、信じてたのに……」
「なのに……その女と婚約してたのが、俺だったのに……!」
(空気が、止まった)
(視線が交差する。愛、後悔、嫉妬、絶望──
すべてが、この場所に集まっていた)
⸻
次回予告|第15話『君の信じた呪い』
「信じたものが、すべて裏切りだったとしても──
俺は、お前と交わした“あの約束”だけは、守る」
壊れた身体で、メストアは最後の魔法を放つ。
それは呪いか、それとも──祈りか。
*
勝っても、負けても、
誰かの心が壊れる戦いだった。
信じたものに裏切られた勇者が、
それでも立ち上がろうとした理由。
次回、
「君の信じた呪い」
世界で一番残酷な“愛の約束”が、
ついに放たれる──
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